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第三十四話 どうやら処世術には長けていたらしい


「あら、ビビッておいでですか? また会えたらいいですねえ?」


 不敵な笑みと意味深な台詞を残し、受付嬢が立ち去っていく。扉が閉まり、鍵がかかる音もしっかり聞こえてきた。


「閉じ込められやしたね」


「もう逃げられないっす」


「ああ……コージ、六さん、覚悟を決めるとしようか……」


 俺は両手を合わせ、関節の音をパキパキと鳴らす。この人数相手でも負ける気は全然しない――


「「「――なっ……?」」」


 俺たちの素っ頓狂な声が被る。生徒たちがこっちのほうを見ながら一斉に立ち上がったかと思うと、拍手をし始めたのだ。一体なんのつもりだ、これは……。


「そこの勇気ある見学人たちに告ぐ! 是非壇上へ立ちたまえ!」


「あ……」


 お、あれが最高の攻魔術を持つとされる講師か? スーツを着てマイクを握ったおじさんが二人いるからどっちなのかわからないが、雰囲気的には左側に立つ白髪頭のダンディーなおじさんがそれっぽい。その隣にいるやつは頭頂部が禿げてて邪悪そうな顔で小物感を隠せてない……って、こいつ、まさか……。


「真壁……いや、ウォール兄貴、どうしたでやんすか?」


「ウォールどん?」


「あ、いや、気にしないでくれ」


 間違いない。遠目からでもわかる。かつて俺に攻魔術の才能がないと言い切った糞野郎だ。姿を見なくなったと思ったら、河波琉璃の師匠の下で副講師でもやってたってわけか。当時の俺に嫉妬するくらい攻魔術の腕は大したことがなかったが、どうやら処世術には長けていたらしい。


「どうしたのかね? 早く来たまえ!」


「怖気づいたのかー? んー?」


「……」


 やはり台詞もいちいち小物っぽいし、性格の悪さも相変わらずのようで楽しみが増えたな……。


「行くぞ、コージ、六さん」


「へい」


「うっす」


 当初より弱まってはきたが威圧感バリバリの視線と拍手の中、俺たちはホール中央を割るようにして華やかなステージを目指し歩いていく。


「――やあ、よく来たねえ。こんなムードの中で見学したいそうではないか。中々見上げたものだ!」


「まあ、恐れを知らぬたわけ者といったところでしょうなっ」


 まるでコバンザメのように河波の師匠にくっついてるな、こいつ。余裕があるようで内心じゃ俺たちのことを怖がってるのはバレバレだ。


「これはどうも。見学したいと言ったのに、最初に断られたんでどうしようかと……」


「今は忙しくてな。見たまえ、この膨大な数の生徒たちを前にして、攻魔術の素晴らしさを説いていたのだ」


「うむっ。先生の粋な計らいがあったからこそ、こうして見学できるのだから、少しはありがたく思わんか、バカタレッ」


「まあまあ、佐藤君、生徒たちも見ているのだから」


 あ、そういや思い出した。サトーっていう名前だったな。その割りに厳しいことばかり言うもんだから、塩ってあだ名がついてたんだ。


「あのー……どうせ素晴らしい攻魔術を語るのであれば、蘊蓄よりも実際に力で見せるべきでは……?」


「こ、こやつ! 先生が貴様なんぞに――」


「――よいよい、佐藤君。見れば血気盛んな若者。立派な図体とギラギラした目を見ればよくわかる。ただし、来る場所をちと間違えたようだが……」


「まったくですっ! 攻魔術の才能など、欠片もなさそうなくせして、こやつはよくもぬけぬけと……!」


 講師の台詞で、既に場内は笑いの坩堝だ。よし、この不愉快な空気を変えてやるとしよう。


「そんなこと言っちゃって、()()()()()()? 肉体だけのやつに負けるのが


 俺の発言で、ホール全体が俄かに色めきたつのがわかる。


「きっ、貴様あっ! 先生をどなたと心得るっ! あの偉大なる英雄、河波琉璃を育てた――」


「――まあまあ、よいよい、佐藤君。筋肉バカでは一生攻魔術には勝てないということを思い知らせてやるといたしましょうぞ」


「お、タイマンしてくれるのか。俺が勝ったら弟子にしてくれるのか?」


「弟子どころか、お前がこの私に指一本でも触れることができれば、免許皆伝にしてやるとも」


「免許皆伝? おー、すげえな!」


 俺が素直に喜んでみせると、やつらは顔を見合わせてにんまりと笑った。場内からも次々と失笑が上がってる。どうせ筋肉脳みそのバカ野郎だと思われてるんだろうが、お前らが楽しめるのは今のうちだけだ……。

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