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第三十三話 虎穴に入らなければ何も得られない


 河波琉璃の師匠――最高の攻魔術使い――がいるというリトルアカデミーは駅の地下にあり、入口前はガタイのいい警備員たちが目を光らせていて物々しい空気がこれでもかと漂っていた。それもそのはずか、コージの言うように英雄たちの師の最後の砦なわけでな。


「――おい、何者だ」


「止まれっ!」


「動くなよ!」


「「「カードを見せろっ!」」」


「……」


 まるで犯罪者であるかのような扱いに戸惑いつつ、俺は警備員どもにパーソナルカードを提示してやった。ちなみに、例の手袋は靴の中だからカードはホワイトカードのSに戻っていて、さらに体術や剣術は非表示、名前も仮名のウォールにしてある。


「……ふん。そこそこ強いようだが、なんの用事だ?」


「あの英雄の師がいるってことで、弟子になりたいと思って」


「弟子は募集していないぞ!」


「せめて、お姿だけでもと……」


「「「……」」」


 警備員どもはしばらく顔を見合わせて何かブツブツと話し合ってる様子だったが、しばらくしてそのうちの一匹が不満そうに前に出てきて、割れた顎で入口を指し示してきた。


「とっとと入れ。万が一、中で暴れたら命はないと思えよっ!」


 威圧されたが、どうやら入場を許可されたらしい。もしグレーカードのSであることを見せたら失神するくせに。まあ逃げられても困るからそれはやらないが。コージと六さんも警備員どもにカードを提示して、俺たちはリトルアカデミーに潜入することにあっさり成功した。


「――あの、何用でございましょうか……?」


 ロビーのカウンターで、生意気そうな顔をした受付嬢にそう訊ねられる。誰なんだよお前は、呼んでねえよみたいな表情だ。この広間はガラガラでこの女以外誰もいないように見えて、実際はそうじゃなくてカウンターの奥からは鋭い視線を幾つも感じられる。集団で道場破りをボコる態勢は万全といったところだろう。


「見学しにきた」


「は、はあ……。しかし、残念ですが今は見学禁止になっておりまして……」


「そうか」


「ほ、ほら、だから言いやしたでしょう、まか……いや、ウォール兄貴――」


「――ププッ……アッハッハ!」


 俺は大いに笑ってやった。カウンターの奥のほうにもちゃんと届くように、念入りに。受付嬢は気に障ったらしく赤い顔をしている。


「何がそんなにおかしいのでしょうか。業務妨害をなさるおつもりですか?」


「何が業務妨害、だ。バカが」


「は……?」


「攻魔術の達人とやらが、見学も許さないほどビビッてるなんてな。これが笑わずにいられるか。それも英雄の師匠なんだろう?」


「……後悔なさいますよ。しばらくお待ちを……」


 逃げるように受付嬢が奥へと姿をくらましていった。誰かに連絡してるっぽい。治安部隊を呼ぶ可能性もあるが、体面的にはおそらく内部で済ませようとするはず。やがて受付嬢が戻ってきた。


「お待たせしました。ウォール様でしたか。特別に見学の許可が下りたので、ご案内させていただきます」


「ああ、よろしく頼む」


「では、こちらへ……」


 よし、上手くいったようだ。俺はコージ、六さんと顔を見合わせてうなずき合った。ただ、侮辱してみせた以上見学だけでは済むまい。この全体的に漂うピリピリしたムードの避雷針のような扱い方をされるんじゃないだろうか。それこそ俺が歓迎する展開でもあるが。そもそも、虎穴に入らなければ何も得られないわけだからな。


「「「……」」」


 どこからともなく氷水のような冷たい視線を浴びながら、俺たちは受付嬢の背中を追うようにして歩いていく。


「あ、兄貴……これ、絶対殺す気でやんすよ……」


 コージが小声で話しかけてくる。


「ああ、そのつもりで来てくれないとな。まったく面白くない」


「さ、さすが兄貴……」


「おいどん、帰りたいっす……」


「……」


 六さん、そう言いつつも全然声とか震えてないし、むしろ強者のオーラを出しまくってるんだよなあ。以前、《浮雲》で投げ飛ばしたことがあったが、それでも俺に対して恐れてる様子は一切ないし実はコージや鬼婆、流華同様に結構なランクなのかもしれない……。


「――到着しました」


「「「あっ……」」」


 受付嬢が通路奥の扉を開けると、そこは本格的なオペラでも始まりそうな巨大なホールで、しかもぎっしりと人で溢れていた。な、なんだよこの人の多さ。これが全部リトルアカデミーの生徒たちだっていうのか……?

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