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第二十六話 どっちかが嘘をついていることになる


「……不老不死、か……」


 生き返った少女ムゲンを前にしてコーヒーを持つ手が震える……はずもなかった。それ以上の力を俺は手にしているんだから驚くことも恐れる必要もあるまい。


「それであんなにふてぶてしかったんだな」


「……ふ、ふてぶてしいって……そりゃ、死ぬのは怖くないけど……」


 ムゲンは頬を膨らませてずっと不満そうに俺を見ている。せっかく喫茶店に入ったというのにコーヒーをまったく口にしてない。もう俺から手袋を奪えないことがわかって、さすがに落胆を隠しきれなくなったか。


「死ぬことすら怖くないなら手袋を狙って俺に近付くのもわかる。けど、その不老不死の力さえ奪われてしまうかもって考えなかったのか」


「できることなら奪ってほしいけど、できないよ。全然大事なものじゃないし……」


「え……」


 意外だと思ったが……はったりだろう。一番大事なお宝に違いないからな。若い女の子が不老不死を嫌がる可能性? 限りなくゼロに近いだろそんなの。


「見え透いた嘘はつかなくていい。本当に奪ってやるぞ?」


 ニヤリとあくどい笑みを浮かべてやる。


「……どうして……」


「ん?」


 妙に悲しそうな顔をされてしまった。まさかここまで極端に怯えるとは思わなかった。


「い、いや、冗談だ。冗談は嫌いだが……」


 女ってのは本当にずるいな。こんな顔をされてつい冗談だと言ってしまう自分が情けない。まだ俺も甘いということか。


「どうしてこんなにひねくれてしまったのよ……」


「……は?」


 頭でもおかしくなったのか、ムゲンは急に涙ぐみながら奇妙なことを言い出した。


「もう絶対に、絶対にこんなの許せない……」


 今度は睨みつけてきた。一体なんなんだよ……。


「許さないってさあ……さっきから何言ってんだ?」


「あんなに素直な子だったのに……」


「へ……? まるで前から俺を知ってるみたいな言い方だが……」


「あたしが不老不死なのはもうわかったよね? 剣術の道場で般木道真に首を斬られたのもあたしなの」


「え、あいつが……」


 確か……そうだ、廻神流華えがみるかだっけか。あいつかよ。そういや、よく見ると髪型を除いて一致してる。そうか、あのときから俺の手袋を狙ってたのか。執念深い子だ。


「廻神流華か」


「うん」


「……あんたが不老不死なのはよくわかったが、道場で会ったのは結構最近だろ」


「そうだけど……つまり、この見た目以上に生きてるってこともわかるでしょ?」


「あ、ああ……」


「あたし、あなたが子供の頃のことも知ってる」


「えっ……」


 嘘……だと思ったが、不老不死ならありえるんだよな。


「俺がガキの頃にあんたと知り合いだったっていうのか?」


「……知り合いってほどじゃないんだけど、会話したことならあるよ。覚えてないの?」


「あ、ああ……」


「ちょうど、ダンジョンであなたがやったみたいに胸を揉まれたのに……」


「――うっ」


 コーヒーを噴き出しそうになってしまった。周りから冷たい視線を感じる……。これじゃ俺が変態みたいじゃないか……。


「一体どんな会話しててそうなったんだよ……」


「おっぱいちょうだいーって言われて、ないよ、触ってみる? って言ったら揉まれた」


「……」


 クスクスという笑い声が聞こえる。


 ……偶然だと思いたい。俺たちの話を聞いたからじゃないと思いたい。なんか俺、ただのバカガキじゃないか……。


「ひねくれてるけど、そういうところは変わってなくて安心した……」


「そ、そうか……って、安心するのか……」


 この子もかなりズレてるな。長く生きすぎて逆に退化しちゃってるんじゃないか。


「な、なあ、なんで俺たち知り合ったんだ?」


「あたし、あなたの父親と知り合いだったから」


「俺の親父と……?」


 まさか、愛人だったとか……なわけないか。だとしたら相当なロリコンだし……。


「妙な関係じゃないからね、一応……」


「……」


 俺が何を考えてるか察したようだ。さすがに長く生きてるだけある。


「一度パーティーで一緒になったときによくしてもらって、色々話もしたの。子供のこととか」


「それが俺?」


「……うん。それで一度会わせてもらったんだけど、可愛くて可愛くて……」


「って、胸を揉まれてたとき、俺の親父はどうしてたんだ? 叱らなかったのか?」


 多分、俺が2歳か3歳の頃か。まったく覚えてないんだ。残念ながら……。


「叱るどころか笑ってた。凄く明るい人だったし……」


「そ、そうか……」


 母親もそんなことを言っていた気がする。太陽のような人だったと……。それに比べると俺はまるで日陰者だな。父親がもっと長く生きてくれていたら俺の性格も少しは明るくなったんだろうか。こればっかりはわからないが。


「そのとき、手袋のことも言ってた」


「ああ、俺が路頭に迷ったら渡すつもりだったんだろ?」


「え?」


「ん?」


 きょとんとした顔をされた。なんだ?


「まったく逆。もし息子があれを将来使うようだったら絶対に止めてくれって言われた。たとえどんなことがあってもって……」


「……」


 どういうことだ? 使わせたくないのは知っていたが、どんなことがあってもって……。俺が聞いていたのと違う。一体どっちが真実なんだ。


 手袋を渡してきたあの怪しい女か、あるいはこのムゲンという不老不死の少女の()()()()()()()()()()()()ことになるわけだが……。

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