第二十一話 この子の周りだけどんよりとした雲が漂ってそうだ
「……」
俺が近寄ると、口を真一文字に結んで露骨にむっとしてみせた少女。知らない男が近寄ってきて警戒してるっぽいな。やはり違うか。
「あ、ごめん。人違いだった。ムゲンって人かと思って」
「それ、あたしだけど……」
「えっ……」
しばしの沈黙。
「遅いよ……」
非難の目を向けてくる。謝れってか? この俺に?
「ご、ごめ……って、誰が謝るか!」
そうだ、俺はもう決めたんだ。いい人であることは捨てた。いい人であるということは誰かにとって都合のよい人であるということ。奪われるだけの人。だから謝るのは俺じゃない。相手のほうだ。
「むしろあんたが謝ってくれよ」
「な、なんであたしがっ……」
「大体、そんな子供みたいな姿だったら待ち合わせの相手だとわからないだろ! だから謝れ! 土下座しろ!」
……土下座は言い過ぎたかもしれない。
「……はあ。しょうがない。わかったよ……」
……おいおい、本当に土下座しやがった。っていうか周囲にいるやつらがジロジロ見てるし……気まずい。
「もういい、やめろよ」
「……うん」
立ち上がって服をポンポンと払う子供。捻くれてそうな面なのに妙に素直だ。
ん? この子、どこかで見たような顔だが……気のせいだろうか。
こんな子供の知り合いなんていないからな。あの鑑定士の子くらいだが、あの子とは全然違う。鑑定士の子が陽ならこの子は陰だ。それくらい雰囲気が違っている。この子の周りだけどんよりとした雲が漂ってそうだ。
「それじゃ、行きましょ、ウォールさん」
「……あ、ああ」
ウォールっていうのは俺の真壁という名前から取った仮名なわけだが、初めて使うので呼ばれると違和感がある。
しかし見た目の割になんか妙に手慣れてるっぽいな、この子。制覇階層は俺よりちょっと多い程度だが、割と強いのかもしれない。それか、誰かに命令されてるとか? ま、お手並み拝見といくか……。