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運がいいんだか悪いんだか

「おら、さっさと降りろ!」

「ぐへへへへへ!」


 馬車の周りを囲んだ男たちの何人かが、扉を壊して無理矢理こじ開ける。普通に開ければいいだろう。外に連れ出されたのは、御者をしていた執事らしき男とまさにお嬢様といった風の令嬢だった。


「今回の獲物は大当たりだ!」

「ぐへへへへへ!」


 王田は思った。ああ、これがテンプレってやつか。テンプラプレート。昼食にはもってこいだ。まあ、奴らは夜食にするようだが。


 馬を降りてジャバウォックを伴い近づく王田は、時代劇さながらに声をかけてみた。


「おうおうおうおう! てめぇら、何しやがってんでい! こちとら朴薩高校の(ヘッド)にして悪魔の異名を持つ王田様でぇ! てやんでぃコンチクショー! その御仁から手を離しやがれってんでい!」


 ほほう、これが浪人侍の気分か。ぜん○いざむ○いも真っ青の意気っぷりだな。決まった。

 ところが。


「なんだてめえ!」

「こいつらの用心棒か!?」

「なんか金持ってそうだな! てめえも獲物だぁ!」

「ぐへへへへへ!」


 最後の奴はぐへへしか言えないのか。だがまあ、なんでもいい。


「ジャバウォック、やれ。ただし殺すな」


 自分で動いてもよかったのだが、今回はジャバウォックにやらせることにした。人間相手にどれほどの戦いを見せるか気になったからだ。ジャバウォックの戦いを気にしつつ、王田は執事と令嬢を捕らえている男たちに近づいて行った。ジャバウォックの戦いを見ていると、殺さないようにしながらも脚の腱などの急所を確実に攻撃し戦闘不能にしていった。さすが勇者と渡り合っただけのことはある。


 向こうは心配ないと判断し、こちらも救出に動く。


「な、なんだてめぇは!」

「何者だ!」


 男たちからすれば、いいところをいきなり狼を連れた男が、襲っていたところを襲ってきたようなものだ。混乱するのも無理はない。しかも、狼のせいで仲間が次々と倒れていく。10人ほどいた仲間も、今は3人だけになってしまった。


「それで、お前らはどうする?」


 王田の呼びかけに、恐怖で狂乱した男が剣を抜き襲ってきた。


「話が通じない奴ほど面倒なもんもねーな」


 恐怖に染まったまま襲ってくる人間など王田の敵ではない。王田は足をかけ、相手を転ばせると撲殺丸を思いっきり叩きつけた。男の顔の真横に。


 あまりの圧力に地面が陥没して割れ、衝撃で風が巻き上がる。今ので鼓膜が破れた男は、音が聞こえなくなったことも解らず失神した。いや、失禁した。


「残りのお前らは?」


 そう言った直後には残った2人は声を上げて逃げていた。


「話は最後まで聞けっての」


 ふと見ると、ジャバウォックがいつの間にか王田のそばに寄っていた。何かを食べているようなしぐさをしていたが、王田は特に気にしないことにする。後ろを振り返ると、沈黙しているかわずかにうめき声をあげる人間しか転がっていなかったからだ。


「それ、うまいか?」

「わん!」

「そうかそうか、そりゃよかった。でもな、ジャバウォック。あんまりそういうのは食べちゃダメだぞー。体壊すからなー」

「わん!」


 元気な返事が返ってきた。わかってはいるのだろう。おそらく。こうしてみると短い時間なのに随分となついたものだ。


「んで、大丈夫か? あんたらは」


 今まで肝心の捕まっていた人物たちを無視していた。ようやく思い出したように話をかける。


「わたくしは問題ありません。ただ、お嬢様が……」


 執事の方が答えてきた。見れば確かに、令嬢の方はしゃがんで震えている。

 しかたない。王田はジャバウォックに思念を送ると、通じているかは置いておいて、ジャバウォックに命令した。どうやら通じていたらしく、ジャバウォックが令嬢の方に近づいていく。


 ぺろぺろ。ぶんぶんぶんぶん。震える令嬢の顔を舐め、尻尾を振りまわす。王田は悪魔と呼ばれていたが悪魔そのものではない。ジャバウォックに可愛らしい犬の真似をさせて元気づけようとしているのだ。だがよく考えると、この犬(狼)がさっきまで盗賊どもを屠っていたのだ。しかも『何か』を咀嚼した舌で顔を舐めた。

 まあ、よく見ていなかったし大丈夫だろう。安直な王田だった。令嬢がジャバウォックの頭をなでたりしている様子を見る限り、問題は特にないと思われた。いまだ震える脚で令嬢が立ち上がる。


「こ、このたびは助けていただきありがとうございました」


 そう言って顔を上げた令嬢は、一言でいうと可愛らしかった。例えるなら、秋になるというのにカブトムシが木にとまっていてつい二度見してしまうような可愛さだった。ちなみにこれは王田の例えだ。一般的な例えではない。つまり二度見してしまうくらい可愛いということだ。実にわかりにくい。


 王田は自らの美的センスについてい考えていると、再び声が掛けられた。


「私はアレーナ・ヴァルテスと申します。こちらは執事のセバスチャン・ドリトルです」


 ああ、自己紹介な。それにしてもなんというか、執事の方は獣医のような名前だ。顔はエデ○・マ○フィ似ではなく、精悍な顔立ちをしている。


「俺は王田故露栖だ。なんというか、冒険者? をしているみたいだ。で、こいつはジャバウォック。たしか、キングウルフとかいう狼だ。犬じゃないぞ」

「き、キングウルフですって!? あのキングウルフ? 本当に?」


 疑われるのも無理はない。今はモード・シベリアンハスキー似の犬狼なのだから。


「ジャバウォック、元の姿に戻ってみろ」


 疑われてムッときたわけではないが、証明のために本当の姿を見せる。

 王田の言葉でジャバウォックは本来の姿に戻った。怪物並みのあの姿だ。


「…………」

「…………」


 アレーナもセバスチャンも口を開いたまま唖然としている。無理もない。職業が調教師である人間も、魔物の調教は恐ろしく難易度が高い。しかしそれを一介の冒険者が、しかも金ランク級に該当する魔物を使役しているとは普通考えもつかない。


「し、失礼ですが、あなたはいったい……?」


 アレーナが尋ねてくる。


「だがら、冒険者だって。それよりもあんたらだろ。困ってたのは。いったいなんだってこんな夜中に護衛もつけずに出歩いてんだ?」


 王田がこう聞くのも当然だ。王田は自身が強いこともあるがジャバウォックだっている。その辺の人間や魔物に簡単に倒されるはずがない。しかし彼女たちはそうではない。執事と御令嬢だけでこんな夜中に出歩くのはかなり不自然だ。返答はなかった。


「訳アリか? せっかく助けてやったんだし、街までなら護衛してやろうか?」


 理由を特に聞こうとせず、王田は申し出る。別に令嬢が可愛らしかったからではない。断じてない。ただ、王田は途中で放り投げるような男ではないということだ。最初に助けてしまってからはそう決めている。


「よろしいのですか?」


 セバスチャンが尋ねてくる。彼一人ではさっきのような出来事に対処できなかったのだろう。いや、これが護衛でなければ彼はあの盗賊ですら一人で倒し切るほどの力量はある。王田はそう見た。


「ああ、かまわねーよ。あんたらの返答次第だ」


 二人は顔を見合わせ相談するようなそぶりを見せたがすぐに答えを決めた。


「よろしくお願いします」


 こうして王田は護衛としてアレーナ達と行動することになった。ちなみに小さくなったジャバウォックも馬車の中に入っている。馬はセバスチャンに預けた。

 準備も終わり、馬車が走り始める。馬車の中では、二人とも終始無言だった。時折ジャバウォックの寝息が聞こえる。すっかり飼い犬化してしまったようだ。


 走り始めて5分くらいしただろうか。アレーナが話しかけてきた。


「私、逃げてきたんです」


 唐突な語りだった。独り言のように話す彼女の言葉に、王田は耳を傾けたままでいる。


「私の家は貴族で、近いうちに政略結婚があるんです。それが嫌で、こうして家を抜け出してきました。もう家に戻るつもりはありません。セバスチャンは信頼できる執事ですからこのことを話したんです。そしたらついてきてくれると。私のわがままに付き合わせるわけにはいかなかったのですが……。私のためにどうしてもって。ふふっ」


 セバスチャンがついてきてくれたのが嬉しかったのか、彼女は小さく微笑んだ。

 なるほど。貴族制で政略結婚か。そらまた大変なこって。


「私、冒険者になりたかったんです。ヴァルテス家に相応しい女になるようにと教わった習い事の合間に、魔法の修練を積んで。だって、素晴らしいじゃない。誰にも縛られず、一人の力で生きていくなんて」


 大方事情は察した。やはりこの世界はマンガじみてるな。改めてそう思った。アレーナは心情を吐露してすっきりしたのか、別のことを聞いてきた


「オウダ様は、なぜ冒険者に?」


 なぜ。そう聞かれてようやく自分が、魔王討伐の為に召喚されたことを思い出した。ふむ、なんて答えたものか。


「俺は……、そうだな。普通の家庭の、三男坊だったからな」


 とりあえず世界の事情に合わせてこう言っておく。


「そうだったんですか」


 やはり、これで納得させられた。


「でも、いったいどうやってキングウルフを手なずけたんですか? 普通こんなことできませんよ」


 ああ、やっぱり聞かれるか。この話に限っては嘘の付き方がわからない。普通はできないことをやってしまった。しかし王田にはできてしまった。ここは正直に話すか。


「実はな……」


 そしてここまでの経緯を話した。依頼を受けたこと、ジャバウォックと戦ったこと、殺したくなかったこと、眷属服従を使ったこと。全て話した。話すことで、今は必要ないかもしれないが、今後役に立つ情報が手に入るかもしれないと考えて。ただし、伏せるところは伏せた。持っているスキルなどは、知られない方が都合がいい。


「そうだったんですか。やはりオウダ様はお強いんですね。あれ? でも……」


 話を聞いていたアレーナの歯切れが悪くなる。


「ん? なんだ、なにかまずいのか?」

「えーっと、どうなんでしょう。討伐の依頼は、討伐した後、部位の回収をしますよね?」

「ああ、そうだったな」

「そのあとは、その魔物の使える部分を取るため解体するんです。だから、討伐任務を受けた場合はちゃんと討伐しないと報酬は手に入らないということらしくて……」

「は?」

「魔物の死骸にも用途はあるんです。なので、おそらくこの場合は銅貨1枚ももらえないかと……」


 恐る恐るといったふうに告げられる。その言葉を理解した途端。


「っっっっっっ!!!!!!!」


 危うく、はあああっ? と叫びそうになったところを、撲殺丸を強く握りしめて抑え込んだ。普通のバッドならおそらく折れているだろう。それぐらいの衝撃だった。アレーナは王田の怒気にあてられ、口をパクパクして焦っている。大きな深呼吸を何度もして怒気を抑え込んだ。むやみやたらと怒りをさらすものではないとはわかっていたがなかなか治まらない。しかしアレーナの前だ。無様は避けたいと思い、何とか耐えた。決して可愛いからとかではない。


「なるほど、なるほど。そうかそうか、報酬なしか。ふぅぅー。く、はっはははは」


 訂正。治まってない。報酬がなければ宿に泊まるどころか、飯ですら食べられない。ちょっと組合を潰してこようかな、とか思ったりもした。だがそこで、王田にとって予想外の提案が持ちかけられる。


「あの、もしよろしければ、私とパーティを組んでくれませんか!?」


「……は?」 

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