初めての依頼
王田の服は学ランです。武器は基本的に手に持って移動したりしてます。
朝。こちらの世界の初めての朝は、都会のように大気汚染のない澄んだ朝だった。
「では、俺たちはこれから出発する。オウダ殿、お元気で。どうか魔王を倒されよ」
「ああ、世話んなったな。またどこかで」
ゴルドたちは早朝から出発するというので、王田はそれを見送った。
「さて。ここからは本格的に一人旅か。まずは金を集めよう。確か組合で依頼を受けられるんだっけか」
昨日の夜、話し合った中でそういった情報も得られていた。組合とは、冒険者の依頼の斡旋やバックアップなどをメインに組織されたものだ。冒険者はこの組合を通して依頼をもらう。個人的に依頼を受けることはごく稀だ。
「組合は街の北西、か」
昨日行った教会の右上の方にあると聞き及んでいた王田は組合へ向けて歩き出す。10分もしないうちに着いた。
「文字は読めんが、ここで合ってるだろう」
そう判断したのは周りに、見るからに冒険者といったいでたちの人間が何人もいたからだ。剣や盾を持った人や杖を持った人。戦闘に不向きな見た目の者もいるが、おそらく魔法系の攻撃手段で戦うのだろう。
軽く眺めてから組合の建物へ入る。扉はなく、往来は自由のようだ。中を見渡すと、正面にカウンターがあり、隣の壁には所狭しと何かの張り紙が張ってある。近くに寄ってみてみるがやはり文字は読めない。しかし、モンスターの絵がかいてあることから、このモンスターが討伐対象である依頼なのだろうと推測する。
一通り見てみたが、どうにも文字が読めないと不便だ。依頼を受けようにもどれを受けていいかわからない。
結局王田はカウンターで聞くことにした。
「こんにちは。ちょいと聞きたいんだが、俺でも受けられる依頼はあるか?」
「いらっしゃいませ。冒険者であれば依頼を受けることはできます。もしかして、組合をご利用するのは初めてですか?」
「ああ。というか、文字が読めなくてな。なんか文字が読めるようになるスキルとかはねえのか」
「一応『解読』というスキルがありますが、習得には長い時間の研究が必要になるので現実的ではありません。文字が読めない方用にこちらの受付でも案内することはできますがいかがでしょう」
わざわざ受付で案内してくれるのか。もしかした、この世界の識字率はあまり多くないのだろうか。
「なら頼む」
「かしこまりました。それでは現在のレベルを教えてください。依頼はレベルにより受けられる上限がありますので」
「そうか。たしか、180だったかな」
「は? 180? あの、失礼ですがステータス情報を見せてもらえませんか?」
「かまわんが、他人には見えないんだろう」
「右上の六角形の記号を押すと他人にも見られるようになります」
案内の通り、ステータス画面を呼び出し六角形を押す。画面は指を振ることで動かせるようなので回転させ、受付の人に見せる。
「ほら」
「ほ、本当に180! まさか、そんな人が存在するなんて……!」
「で、俺はどの程度の依頼を受けられるんだ?」
「こ、このレベルでしたら、ここに張り出されているすべての依頼を受けることができます。最上位の金ランクの依頼も受けることが可能です」
「なら、なんでもいいからその金の中から適当に選んでくれ」
「それでしたら、こちらの『キングウルフ討伐』などはいかがでしょう」
「狼退治か。面白そうだ。それにしよう」
「かしこまりました。依頼の受諾の為、こちらの承認用の魔法陣に魔力を流してください」
魔力を流す? そのやり方は聞いていなかった。どうやるんだ? とりあえず手をかざして、体内に宿る魔力的なものを意識してちょっと力んでみた。
すると魔法陣がわずかに光った。なるほど、魔力を使うってのはこんなかんじなのか。
「承認を確認しました。討伐の依頼では、討伐が成されたか確認のために、モンスターの各部位を持ってきてもらいます。今回の場合は、爪と牙を取ってきてください」
「爪と牙ね、了解。あとそいつの場所はどこだ?」
「キングウルフは北方の山に群れを成して生活しています。山までは馬で2時間ほどですが、金ランクの依頼を受けられる方でしたら、馬の貸し出し費用の後払いが可能です。ご利用の際はこちらのバッジを世話役に見せてください」
手渡されたバッジをポケットに入れた。
「わかった。手間を掛けさせたな」
「いえ。それではお気をつけください」
無事に依頼を受けられた王田は馬を借りに行った。隣の馬小屋でバッジを見せ、馬の操り方を教わる。馬には初めて乗るが、案外乗れるものだ、と王田は思った。
事実、すでに街をでて一定の速度で走り始めている。これも以前のように『眷属服従』のスキルを無意識に使っているからだった。
街を出て約2時間。ときどき馬を休ませつつもようやくキングウルフがいるという山のふもとにたどり着いた。草が生えていないだけの舗装されていない道を逸れたところにある木に馬をつないでおく。
「よし。狩りの時間だ」
王田は撲殺丸を握りしめ、山の斜面を登って行った。