情報収集2
別室に案内され、出された紅茶を飲む。コーラが飲みてぇ。コーラだせ。
「それでは、お話しさせていただきますね」
「おう、早くしろ」
「ま、まずはこの世界のことについてです。この世界、主にユーレイシア大陸ですがここには様々な国があります。人の国や亜人の国などです。国によっては同盟を結んでいる国もあります。そしてこの街レメドリアがある国、オーシェンドリエは五箇国という最も大きな同盟を結んだ国の一つです」
「ふーん」
「そして現在、魔王復活に際し、世界に危機が及んでいます。そこで、五箇国を中心にして主に南方より迫る魔王軍と戦っています。すでにいくつかの小国が滅ぼされました。これ以上手をこまねいていられなくなった世界は、『エルミラ教』の女神エルミラ様に勇者召喚の儀を行ってもらうようお願いしたのです。エルミラ教はこの世界で最も力のある宗教組織で、通称教会といいます」
「ふーーん」
「召喚された勇者は、この世界ではないどこかから素質のある者を呼び出すと聞き及んでいます。あなたもこの世界の人ではないのですね。そして召喚された勇者を旗印に魔王攻略の一歩を今、踏み出したということです」
「ぐーーー」
「あの、勇者様?」
「んあ? 聞いてる聞いてる。魔王を倒すんだろ?」
「勇者様……」
「だぁーいじょぶだってぇ。俺がいんだろぉ? なら、何も心配することはねえじゃねえか。安泰安泰」
「そ、そうかもしれませんけど、事態は急を要します。勇者様には早急に魔王討伐に行ってもらいたいのです」
「じゃあ魔王はどこだ?」
「うう、それはわかりません。ですが、勇者様が行けば魔王も現状の侵攻の手を止めるやもしれません。勇者様には魔王の居場所の探索も並行して行っていただきたいのです」
「なんだそら。ようはお前らの先遣隊が使えないから俺に丸投げってか。随分とまぁ随分だ」
「なっ、世界の為に散っていった命に対して、その言葉は冒涜です!」
「わーったわーった、悪かった。今のは取り消す」
チッ、めんどくさいな。
「まあ、魔王を探してぶっ殺すことはわかった。で、俺にこれからどうしろと? 今すぐ突撃をかけるか?」
「勇者様が召喚されたことが教会を通して世界に知られれば、五箇国を中心とした大規模な討伐隊が編成されるでしょう。おそらく勇者様はその討伐隊と一緒に魔王の拠点を探して進軍することになります」
「はーん、なるほどねぇ。だが断る」
「なっ、なぜでしょう!?」
「あまりにも大きな集団は統率が取れない。指揮系統は国別だろうが、連携となるとあまりにも困難だ。実際俺の国でも、他校との抗争で複数の高校と組んだことがある。だが、奴ら他校とのチームワークを一切無視しやがった。あのバカどもの命令系統は自分より上の縦一直線だけだ。それ以外には屈服させて支配するしか操れねえ」
あの時は本当に危なかった。勝敗は王田やほかの頭が奮闘したおかげで敗北には至らなかったが、それでも被害は大きかった。
「勇者様の国でもそんな戦争が……。ご冥福をお祈りします」
死んでねーよ。
「しかし、それではどうなされるというのですか?」
「まず、勇者が召喚されたという情報を隠せ。俺は一人で行動する」
「そ、それは危険すぎます! いくら勇者様がお強いからといって一人でとは……」
「あ”? 俺のこと馬鹿にしてんのか? もういい。聞きたい情報は得られた。俺は行く。もし勇者に関係する情報を流したら、俺は魔王側についてやる」
「そ、そんな! 勇者様!」
それだけ言い残すと、王田は出て行った。
教会を出た王田はこれから何をしようか考えた。どこかの国か教会につけば、寝食などは保証されるのだろうが、そんなのはまっぴらだ。王田は他人の庇護下に入ることを極度に嫌う。欲するものは自分で手に入れろ。それが王田の流儀だ。
道の端でこれからどこに向かうか考えていると、声をかけられた。
「やあ、オウダ殿。話は終わったのか?」
声をかけてきたのはゴルドだった。そういえば飯をおごってくれる約束だった。
「ああ、基本的なことはな。そうだ、お前にも聞きたいことがある」
「聞きたいこと? ああ、いいぞ。なんでも聞いてくれ」
「飯を食いながらでいい。さすがにそろそろ腹が減った」
「もう日暮れだもんな。よし、こっちだ。話は店でしよう」
そうして王田とゴルドは歩き出した。
「ここだ」
ゴルドに案内された場所は表の通りに面した酒場のような場所だった。
「ほう、なかなか俺好みだ」
木造建築の建物で、開きっぱなしの扉からは食事と酒を楽しむ声が聞こえてくる。
「さあ、入ろう」
促され、中に入る。
「おーい、ゴルドー」
「連れてきたかー」
角の方の席からゴルドを呼ぶ声がする。どうやらさっきと同じメンバーのようだ。
「おう、ちゃんと連れてきたぜ」
そういいながら、ゴルドは王田の席を用意してくれた。と、その前に先に言わなくては。
「ああ、そうだ。お前ら、先に行っておくが俺が勇者だってことは秘密にしてくれよ。事情ができた」
「そうなのか? まあわかった。言わないよ」
よし、これで情報の拡散を防げたな。
「さて、何を頼む?」
ゴルドがそう聞いてくる。そういえば、ちらほらと見かける文字。読めん。
「なんでもいい、お任せで頼む」
「わかった」
文字が読めないことを隠すわけではないが、言う必要も感じないので話さない。
しばらくすると、樽を小さくしたようなジョッキに泡がこんもりと積まれたビールらしきものが運ばれてきた。
「これは?」
「これはこの店で一番うまいエールだ。本当にうまいぞ」
エール。酒。王田は高校生。つまり。
「うまそうだ。いただこう」
こういうことだ。
次に料理が出てきた。肉料理だった。
「おお、なかなかうまそうだな。いつもコンビニとかばっかりだから余計うまそうに見えるな」
「こんびに?」
「いや、こっちの話だ。早速食わせてもらうぜ」
「おう、しっかり食えよ」
一口。うまい。塩と香草の香りが何とも言えない。日本円ならいくらするだろうか。付け合わせのポテトも熱々だ。ほっくりとした触感が肉と絶妙な相性をかもしている。
おっと、料理に浮かれてばかりではいられん。
「あんた、ゴルドだっけ。さっき言った聞きたいことなんだが」
「ん、ああ。なんだ?」
「この世界の戦い方について教えてくれないか?」
「戦い方? またなんでそんなものを?」
「戦いっつーのは場所によって適したものがあんだよ」
「ほう。オウダ殿は戦闘に詳しいのか?」
「まあな」
詳しくならなければ、とっくの昔に闇討ちで病院の霊安室の存在になっていただろう。
「まあ、戦いについて教えるのは構わんが、何から話したもんか。基本的に戦う相手はモンスターだ。だからチーム、パーティを組むことが多い。こいつらは俺が集めたパーティだ」
なるほど。対人戦よりかは怪物と戦うのがこの世界では普通なのか。
「で、パーティには前衛と後衛がいて、前衛は剣なんかで戦ったりする。後衛は主に魔法による支援だな」
魔法? そんなものがあるのか。
「前衛は肉弾戦がメインだから、身体強化のスキルなんかで自分を守るんだ。オウダ殿は勇者なんだから、スキルくらいは持っているだろう?」
「さあ? そのスキルってのはどうやって持ってるかわかるんだ?」
「”ステータス”って言いながら指をふってみな」
「ステータス」
同時に指を振ると、何もない空間から半透明の画面が垂れてきた。
「ほう。これが情報か」
「それは他人には見えないから隠す必要はないぞ」
そうなのか。とりあえず出てきた画面を見てみる。
ステータス情報
王田故露栖 Lv.180
HP:12000
MP:2000
攻撃力:15000
防御力:10000
スキル
打撃武器強化(激) 敏捷(激) 物理攻撃強化(激) 破壊の血
超回復 眷属服従 狂乱(激) 物理障壁 全属性魔法耐性(激)
「なるほど。いくつかのスキルが備わっているな。それに体力が数値で表されるのもいい」
「ちなみになんだが、レベルはどのくらいなんだ? あ、答えたくないなら答えなくていいぞ」
「別に構わん。えーと、180、か?」
「ひゃっ!?」
皆が一様に驚いた顔をしている。
「そんなに変か? 俺のレベル」
「変も何もない! 180なんて天才の超人でも絶対にたどり着けない領域だぞ!」
王田が勇者であると告げた時よりも声が大きくなっている。
「ほーん。でも俺が180ならゲッティーあたりは何レベルくらいなんだろうな」
ゲッティーとは彼の好敵手である刹凱高校トップの戟遂充という人物である。
「スキルはまあ読めばなんとなくわかるとして、この激ってのはなんだ?」
「げっ、激だって!?」
再び大げさに見える反応をする。もちろん素の反応である。
「お、オウダ殿は激のスキルを持っているのか!?」
「激とついてるのは5個だな」
「ごっ!」
あまりの驚きからか、言葉に詰まったまま喋らなくなってしまった。
「大丈夫か? 酒でも飲めよ」
「あっ、ああ……」
もはや心ここにあらずといった感じだ。
「なあ、驚いてばっかいないで説明してくれよ」
「そ、そうだな。スキルには段階があるものがあって、激はその最上位だ。一般には人が一生にとれる激は1つで、よほどの天才でも2つらしい。段階は下位、小、中、大、上位、超、激がある。才能がないと大あたりで止まってしまうがな」
「なるほど。ほかの何もついてないのはなんだ?」
「何もついていないのは変化しないスキルだ。そういうスキルは取得がとても難しい。さっき言った超に該当する経験くらいで急に生まれるんだ」
「なるほどな」
もしかしたら、今後戦いがあればスキルが手に入るかもしれない。
「ところで、破壊の血ってのはなんだ? 他のはわかったがこれだけは名前から想像ができない」
「破壊の血? それは聞いたことないな……。俺たちが知らないだけで、もう知られているスキルなのかもな」
「そうか。まあ使えばわかるだろう。それとMPってなんだ」
「MPは魔力を使う攻撃、つまり魔法の発動に必要なものだ。魔法とスキルは違うものと考えていい」
「魔法、ね」
しかしみたところ、どうやら王田は魔法に該当するものを持っていない。
「ま、そのうち習得とかできるだろ」
習得すれば、制圧や闇討ちが楽になるかもしれない。
話をいったん切り上げて、また食事を再開した。やはりうまい。
普段より多く、山のように食べたところで話の続きをした。
「お前らはチームを組んで何をしているんだ?」
「俺たちは冒険者だよ。一番はモンスター退治が多いけど、たまに採集とかやるんだ」
「それは金になるのか?」
「ぼちぼちだな。モンスターにもランクがあって、依頼を受けるモンスターのランクが高いほど報酬がよくなる」
なるほど。金を積むから他校の生徒をボコってくれっていうのと同じ感じか。
「最後に教えてくれ。魔王についての情報はあるか?」
「魔王? そうか、オウダ殿は勇者だったな。魔王はこの世界に害をなすものの中核で、それを勇者が討伐する。魔王という存在は不死らしくて、勇者が倒しても時間をかけて復活する存在らしい。これは子供の時から聞かされてる、まあお話みたいなもので、実際に魔王と対峙できるのは勇者だけだ。力量差の問題でな。何千年も前から繰り返されていることらしい」
何千年か。それだけあれば海外の高校を制圧して、火星に高校ができても特攻しに行けるな。
「勇者が魔王を討伐するから、基本的には俺たちみたいな冒険者はときどき現れる魔王の配下、魔族を倒すことが最近は多いかな。これも魔王復活の兆しか。しかし、こうして勇者と話すことができるとは光栄だな」
「あんまり勇者勇者連呼するな。どちらかといえば、俺は悪魔って呼ばれてたんだぜ」
王田は自身が勇者として存在していることにいまだ多少の違和感がある。なんなら、同じ高校の生徒から他校の生徒にまで呼ばれていた、悪魔の呼び名の方がしっくりくるくらいだ。
「悪魔って、オウダ殿が悪魔……いや、なんでもない」
王田は忘れているが、ゴルドはゴブリンの頭無し屍をいまだ鮮明に覚えている。
話も尽きかけてきたころ、ようやく満腹になり店を出た。
「いやあ、うまかった」
「オウダ殿に喜んでもらえて何よりだ。ところで、今晩の宿はあるのか?」
そういえば忘れていた。普段は家に帰っているから、その習慣で家があると思い込んでいた。
「しまった。この俺が、なんて凡ミスを」
「それだったら、俺たちの宿に泊まりに来ないか? もちろん費用は持つ。俺たちは明日別の街に出発するから、オウダ殿に会えなくなってしまう。その前に勇者に、オウダ殿について皆興味があってな。どうだろうか?」
「ああ、そういうことだったらぜひ泊めてもらおう。俺の武勇伝を聞かせてやる」
そうして今晩は、この世界に来て初めての知り合いと夜遅くまで語らいあった。