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情報収集1

 ひとしきり笑った後、ようやく落ち着いた王田は冒険者の方に目を向ける。


「ひっ」

 誰かからひきつった声が聞こえてきた。なんだよ、こんなの日常茶飯事だろ、俺もお前たちも。なに怖がってんだよ。

「おい、お前ら。俺の巻き添え食ってねえか?」

「あ、ああ。こちらに被害はない」

「ならよかった。ときどき仲間もブン殴っちまうことがあるからな」

 その言葉で冒険者たちはゾッとした。あんな力で仲間も殴るのか。殴られたら本当に死んでしまう。恐ろしい。


 よし、できるだけ怒らせないようにしよう。冒険者たちはそう決めた。

「ありがとう、助かったよ。ゴブリンの集団に襲われてて身動きが取れなかったんだ」

「そうか。ところで聞きたいんだが、こいつらは魔王の配下か?」

 彼はなにをそんな解りきったことを言うのだろう。よく見れば服装も見かけないものだ。もしかしたら彼は魔王軍の侵攻がうすい地方からの出なのだろうと考えた。

「このゴブリンはおそらく、はぐれだろう。魔王軍に属するゴブリンもいるが、この辺りで遭遇するのははぐれが多い」

「そうか。チッ、骨折り損だな」


 なんだか機嫌が悪くなっている気がする。

「そ、そんなことはない。俺たちを助けてくれたじゃないか。そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はゴルド。このチームのリーダーだ」

「俺は王田故露栖だ。なんか、勇者だかで女神に召喚されちまってな、右も左もさっぱりだ」


「えっ、勇者だって!?」

「本当に召喚されたのか!」

「でもあの強さ、本物じゃない!?」


 王田が勇者かもしれないとわかると、口々に声を上げる。そんな中、ゴルドは冷静に口を挟む。

「オウダ殿、もしあなたが本当に勇者なら、教会に行ってもらいたい。そこに行けば聞きたい情報も聞けるだろう。どうだろうか。俺たちと一緒に街まで来ないか?」

「……。それは命令か?」

 また機嫌が悪くなった。命の危機を感じ、ゴルドは即座に弁解する。

「いや違う! ただのお願いだ。それに、一緒にきてくれればメリットもある」

「ほう、それは?」

「俺たちを助けてくれたお礼に、飯をおごろう!」

「メシか……。」

 そういえば転生される直前、カップ焼きそばをぶちまけ、結局朝から何も食べていないことになる。

 それにこの世界でのタダ飯はあまりできることではない。

「いいだろう。教会とやらに行ってやる」

「ああ、ありがとう!」


 交渉成立だ。実際は交渉という名の譲歩であったが。とにかく、これで街までは安全に戻れるとゴルドは内心では安心していた。


 その後、街に戻る途中ではぐれゴブリン数匹と何度かであったが、そのたびに王田が頭がぐちゃぐちゃ、もしくは無くなった屍を量産しながら、夕暮れになるころにようやく街に着いた。


「教会はこっちだ」

 ゴルドの案内で教会まで行く。教会は街の中央にあった。よほど権力が集中しているのか、教会はどの建物より立派だった。

「この教会に司祭様がいらっしゃる。その人に事情を尋ねるとよいだろう。俺たちはこれで。話が終わったころにまたここに来るよ」

「ああ、わかった」

 そうして王田はゴルドのチームと別れた。


「さて。面倒だが、話ぐらいは聞かないとな」

 他校と抗争していた時も、王田は配下に情報収集をさせていた。情報は重要だと知っていたからだ。

 情報は集められるときに集めておく。それが王田の流儀だ。


 教会の扉を開き、中に入る。中はいわゆるキリスト教の教会に酷似していた。椅子が並び、奥には女性の像。そして荘厳なステンドグラス。しかし王田には、そんなもの見えていないとばかりに見とれることもなく、司祭を探して歩いた。

 像の前まで来たものの、司祭らしき人は見当たらない。そういえばこの像、どこかで見た人物だと王田は思った。それがあの女神であることは、王田はとっくに忘れている。

 司祭が現れずしびれを切らした王田は先ほどと同じように息を吸い、


「オルァアアアアアアア司祭ィイイイイイイイ!! 出てこいやぁぁああああああ!!」


 再び怒号を響かせた。この怒号は、他校の相手を呼び出すため、校庭から叫んでも聞こえるように備わった王田の特技の一つだ。敵には怯みを、仲間には気合を入れさせるという効果がある。しかしスキルではない。


 王田の怒声に、近くにいたシスターが耳をふさぎ、赤ん坊が喚くことをやめ白目をむき、老人が気絶した。


「い、いったい何があったんですか!?」


 奥の扉が開き、誰かが駆けてくる。王田はその方向をジロリとにらむ。が、その姿を見て、王田は一瞬呼吸を忘れた。

 まさに天使という言葉がふさわしい女性だったのだ。金髪碧眼、大きな双丘。すらっとした手足。これほどまでの美人を王田は見たことがなかった。


 しかし王田は、かつての配下No.2の言葉を思い出した。曰く。

 ――女が敵でも油断しちゃいけませんぜ。最後にゃ寝首を掻かれることになる。

 そういって首元の大きな傷を見せてきた。


 女だからと言って油断はしない。それがどんなに美人でも。それが王田の流儀だ。


「今の声はあなたですね。いったい、何の用ですか」

 すこしピリリとした声で訪ねてきた。

「俺が勇者だと言ったら、教会に行けと言われた。で、あんたは?」

「あ、あなたが勇者様!? それでは、女神エルミラ様はついに召喚の儀を……!」

 またそれか。勇者ってのはそんなに偉いのか。

「確かそんな名前だったな。それで、俺は魔王を倒せばいい。それだけなんだろ。だったら早くそいつの居場所を教えろよ」

「……わかりません」


「あ”あ”?」

「魔王は南方に居城を構えている、ということ以外ほとんどの情報がないのです。何度も送り出した先遣隊は毎回全滅。こればかりはどうすることも……」

「チッ、使えねぇ」

「申し訳ありません……」

「まあいい。ほかには何か情報はないのか」

「少しでしたら。立ち話もなんですし、別室にてお話ししましょう」

「ああ」


 これで少しはまともな情報が手に入るといいんだが。王田はそう思った。

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