目覚めたそばから殴り倒す
トンネルを抜けるとそこは雪国、じゃなかった。
意識が戻ると、まずは騒がしいと王田は感じた。ぎゃあぎゃあと何かが泣き叫ぶ音と、時々混じる人の雄たけび。そしてようやく、そうか、異世界に来たのかと思い出した。
王田は目を開ける。木々が開けた森の中、そこには見慣れた光景が広がっていた。
緑色をした体の生物が、血を流して倒れているのが数匹。そして、中心にいる人間を囲むように十数匹の群れがいた。緑色の奴らが人間だったなら何度も見慣れた光景だ。
「さすがに今まで殴り倒してきた奴でも、全身緑色の塗装した奴なんかいなかったぞ」
とするとあれは、異世界の生物か。
見たところ、どうやら人間を攻撃しているようだ。対して、人間の方も剣を持ってる人や、魔法使いのような杖を持った人もいる。
「なんだよ、ゲームかよ」
異世界っていうのはゲームのようなものなのか。なら話は簡単だ。
王田は寄りかかっている木から立ち上がり声をかけた。
「おい、お前ら」
突然の呼びかけに、人間も緑色もポカンとした表情でこちらを見ている。
「これがゲームだとしたら、そうだな。オイ、お前ら、敵と戦ってんのか? 加勢してやんぞ」
仮に違ったら面倒なので、一応尋ねてみる。
「だっ、誰だお前!」
「いつの間にそこに!」
人間の方は、突然声をかけられ動揺しつつも返してきた。というか、質問してんだから答えろよ。
戦っていたから気づかなかったのか、緑色の生物も怪しんだらしき表情で見てくる。
「ここは危ないから、下がってろ!」
剣を持った男が命令してくる。
……命令だと? この俺に向かって、命令?
「テメェ、ふざけてんのか。この俺に向かって、命令だと?」
王田は撲殺丸を持ち、ゆらりと前に出る。今まで何度も天下を取ってきた王田は命令されるのが大嫌いなのだ。そこへ人間たち――冒険者の味方だと思ったのか、緑色の生物――ゴブリンが王田に向かって襲い掛かる。
「キシャー!!」
「危ない!」
目の前に小柄ながらも明確な敵意を持った怪物が迫り――直後、頭部が砕け散った。
冒険者の目には、一瞬何が起こったのかわからなかった。ただ、突撃したゴブリンが砕け散ったのだ。
「え……?」
魔法使いらしき人が間の抜けた声を出す。
今の状況を引き起こした本人は気にも留めず、王田は大きく息を吸い、
「オラああああ!! 全員まとめてかかってこいやああああああ!!!!」
怒声を浴びせかけた。その声量は周辺の木々がざわめいたほどだ。冒険者もゴブリンも思わず身がすくむ。王田はさらに息を吸い、
「来ねえんなら、こっちから行くぞおおおおおおお!!!!」
突撃した。
まず、近くのゴブリンから、撲殺丸を横薙にフルスイングする。首元に当たり、そのまま頭部を引きちぎった。続いて左にいたゴブリンに向かって、撲殺丸を下から振り上げる。顎に直撃した釘バットの先端が、ゴブリンの顔を釘で引っ掛け抉り取る。
瞬く間に仲間を屠られたゴブリン勢が王田の圧力に押され、じりじりとひいていく。やがて一匹、また一匹と踵を返し一目散に逃げていった。だが、それを見逃すほど王田は仏ではない。
「待てやぁぁぁああああああ!!」
この瞬間、王田は無意識のうちにスキル『敏捷』を使い逃げるゴブリンの先頭まで一瞬で追いついた。
「ギシャー!!」
あまりの素早さに対処できないゴブリンを相手に、王田は撲殺丸を次々と振るっていく。
腕がちぎれ飛び、返り血を浴び、脳天を叩きつけ、口角がゆがむ。それはまさしく、かつて呼ばれていた、悪魔そのものに他ならなかった。
やがて蹂躙は終局を迎え、最後の一匹をホームランのごとく高く高く弾き飛ばした。もちろん、インパクトの瞬間にゴブリンは絶命している。
「ふはっはははははははははぁ!」
ゴブリンの屍の中心に立ち、返り血を浴びた姿で笑う王田に、冒険者たちは唖然とするほかなかった。