第7話
先輩、ここでもう大丈夫です、今日はありがとうございました。」
「本当にここでいいのかい?もうすっかり暗いし家まで送るよ?」
「あ、いえ、いえ本当にすぐそこなので」
「そうか、じゃぁまたあした会おう」
「はい、また明日」
先輩と別れ家へと入ると玄関の電気はついておらず、家には誰もいないみたいだ。
「お姉ちゃんまだ帰ってないのかな…?」
部屋に上がって着替えていると母が戻ってきたのか私を呼ぶ声がする
「お母さん何?聞こえない!」
「お母さんお買い物してくるからお店頼むよ!」
「どこ行くの?」
「お隣のお肉屋さん!」
「わかった、いま行く!」
トントンと軽やかに階段を降りて裏口から出るとそこは本棚がたくさん並んでいてお客さんも数人居た。
「そうだ、今日先輩が言ってた本探してみよ…。」
エプロンをつけて売り場の小説コーナーへと足を運ぶ。
もうみなさんわかっているとは思うけどうちは本屋さんなのだ。
父と母が元々本が好きで私が生まれる数年前に開業して以来ずっと店を続けている。
そこまで広いわけではないが小説好きなお父さんのおかげで特に小説コーナーが充実していると私も思う。
注文されれば本を取り寄せるし、近所の人は大きな本屋さんよりもうちに来てくれる。
多分先輩が言っていた本屋さんもうちのことだろう。レジの下の棚を見ると確かに予約済みと書かれた紙が貼られている袋が置かれている。
「あ、あった」
本を取ろうと手を伸ばすと綺麗な白い手と偶然重なる。
スベスベとした手の甲に見とれ謝罪が遅れてしまった。
「あ、申し訳ありません」
「こちらこそ…ん?左枝?」
「あ、先輩、いらっしゃいませ」
「ん?いらっしゃいませ?え?どういうことだい?それにそのエプロン…」
「あ、ここ私の家なんです」
目を見開き驚いており、あたふたした姿が可愛い
「えっと、父と母が始めたお店で私も店番とか手伝ってるんです」
「でも今まで一度も…」
「確かに偶然会うことなかったですね」
「偶然…まぁ確かに言われてみれば納得だよ、うん」
うんうんと頷く
「小説の品揃えどうですか?特に父が力を入れてるコーナーなんです」
「お父さんが?やはりそうなのか、ここの小説の品揃えはすごい、大型書店でもなかなかお目にかかれないものまであって最近じゃここ以外は本屋さんに行ってないくらいさ」
「ご贔屓にしてくださってありがとうございます」
どうやら先輩も気に入ってくれたようだ。
「お母さんから最近良く美人なお客さんが来るって話聞いていたんです、それが先輩だったとは思いませんでした」
「私もさ、私と同年代くらいの娘が同じ学校に通っていると君のお母様が言っていてね、会ってみたいと思っていたがまさか左枝だったとは」
「私がいるのに浮気ですか?」
「ちがっ、!そういう訳じゃないんだ!違うんだ!」
「わかってます、冗談ですよ」
フフフと笑うと先輩は顔を赤くしていた。
「そういうのは反則じゃないか…」
「先輩可愛いです」
「バカ」
持っていた文庫で隠す先輩の顔は店の中でも真っ赤だった。
そんなことをしていると店のドアが開く。
「いらっしゃいませ、先輩ゆっくりしてってくださいね」
「いや、もう買う本も決まっているしね、これとこれとこれと…あとこれも頼むよ」
「ありがとうございます」
レジへ先輩の本を持っていくとちょうどお母さんがエプロンを探していた。
「あ、お母さんお帰りなさい」
「あぁそっか、さっちゃんの頼んでたの忘れてた」
アハハと笑うお母さんが私の後ろの先輩に気づく。
「あら、いつも来てくれる美人さん、さっちゃんのお友達?」
「文芸部の先輩の立花右葉さんだよ」
「あぁ、貴女がそうだったの、この子がいつもお世話になっています」
「こ、こちらこそ!お世話になっています」
楽しそうな笑顔のお母さんと緊張丸出しの先輩。
「先輩?」
「あ、えっと…お会計を頼むよ」
「あ、はい、えっと予約の品も含めて全部で5,670円ですね」
「一万円から頼むよ」
「先輩お金持ちですねぇ」
「まぁね、収入源がしっかりしているから」
「お釣りがまず大きい方が一千二千三千四千円と、小さな方330円のお返しです、ご確認ください」
「ありがとう、意外としっかり本屋さんの店員だね」
「それより先輩バイトしてたんですね…知りませんでした」
ちょっと困ったような顔をする先輩
「うーん…バイトではないかなぁ…でも正社員ってわけでもない」
「??」
「この話はまた明日の部活の時にでもしよう…今日はありがとう、また来るよ」
「あ、右葉さん、ちょっとまって」
「お母さん?」
「はい?」
お母さんが何かを閃いた!という顔をしている。
あぁ、これはもうだめだ…お母さんはこうなったら止まらない…。
「今日、うちでご飯食べて行かない?一人暮らしなんでしょう?立派なものは出せないけどみんなで食べたほうが美味しいわよ?」
やっぱりだ、こうなるとは薄々思っていた。
「え?ですが…」
「右葉さんが迷惑じゃないのならぜひ食べて行って!」
「さ、左枝…」
「いいじゃないですか、みんなで食べるご飯、美味しいですよ」
「じゃ、じゃぁ…お邪魔します…」
「ぜひぜひ!」
頭から音符が出ているのじゃないかというくらいはしゃぐお母さんは家の奥へとスキップをしていく。
「先輩、私の部屋階段登ってすぐのところに左枝ってプレートかけてある部屋あるので入っててください、私はもうちょっとお店の番しているので」
「私もここで待つよ?」
「いえ、大丈夫なのでお部屋に」
「そうかい?じゃぁ勝手に上がらせてもらうよ」
「どうぞ!」
嬉しそうな、でも恥ずかしそうな先輩の顔を見て私もさらに笑顔になるのだった。
読んでくださりありがとうございました。
次話もどうぞ、よろしくお願い致します。