第6話
息遣いと一定間隔でめくられるページと時計の音が響く部室にパタンという本を閉じる音が響いた。
文芸部の終わりの合図である。
「最近はその音にも慣れてきました」
「そうだろう?僕もずっと黙っているからね、声をいきなり出すのはやはり気が引けるものさ」
「先輩って意外にそう言う所で遠慮しますよね」
「遠慮じゃない、ただ僕の気が小さいだけさ」
そう言うと先輩は本を大切そうに本棚にしまい帰り支度を始める。
日が傾き暗くなってきた室内に再び沈黙が流れる。
それぞれが支度をして部室を出ると先輩は鍵を閉めてポケットへと入れた。
「そういえば先輩鍵って職員室に返しに行かなくてもいいんですか?」
「ん?あぁ、これかい?」
ポケットから鍵を取り出し私に見せる。
よく学校にあるような札のついた普通の鍵だ。
「はい、いつもポケットにしまってそのまま帰っている様なので」
「えっと…これは実は秘密なんだが…この鍵は僕が勝手に作ったものなんだ」
「え?いいんですか?」
「うーん…ダメなんじゃないかな、多分」
笑顔の先輩と顔を青くする私。
バレたらことである。
「でも、バレたら…」
「大丈夫、僕がこの鍵を作ったのは入部した次の日だ…今までこの鍵を使っていたが一回もバレたことはないよ」
「で、でも…」
「あ、これ君の分も昨日作ったんだ、はいこれ」
スカートのポケットからもう一本の鍵を取り出し私に渡す。
まだほんのりと暖かく、先輩の体温を感じた。
「まだちょっと暖かいですね、この鍵」
「こらこら、そういう恥ずかしいことを言うのはズルいよ」
夕日に照らされた先輩の顔は赤かった。
「そうだ、家の鍵と一緒につけておこ」
「ほう、左枝は鍵っこなのか」
「鍵っこって今日そんな聞きませんよ…?親が両働きなので鍵もたされてるんです」
「そうなのか、因みに僕も鍵っこだよ!」
くだらない話をしながら校舎を出た。
いつもならここでお別れなのだが今日は先輩がなぜか話を切り上げない。
「それでね、その本はその主人公が」
「先輩、何かあったんですか?」
「ん?何がだい?」
「いつも先輩ここで話切り上げて帰りますけど今日は話が続くので…」
無自覚だったのか先輩が振り返ると校門を既に出て校門が遠くに見える。
「じゃぁここまで来たんだ、左枝を送って行くとしようじゃないか」
「え、いいんですか?私の家駅前ですよ?」
「なら都合がいい、駅前の本屋さんで新刊を数冊予約しているんだ」
「そうですか、じゃぁ行きましょう先輩」
「それでね、その本がちょうどいいところで終わってしまうんだ…」
「それは気になりますね…あーちょっと今日読んでみますねその本」
「うん、是非オススメするよ」
「先輩は色々な事を知っていますよねぇ…私の知らない本をいっぱい知っている」
「そんな事はない、私が知っているのは私が知っている事だけさ」
フンとドヤ顔をする先輩を見てそのセリフが何で使われていたのかを思い出した。
「それ、物語シリーズですね?」
「やはりバレてしまったか」
「バレバレですね」
「ハハハ」
カラカラと笑う私と先輩。
こんな楽しい時間がいつまでも続けと私は切に願う。
そんな気も知らずに先輩は私を見て微笑むのだった。
読んでくださりありがとうございました。
次話もどうぞ、よろしくお願い致します。