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左近の桜、右近の橘。  作者: みんくん
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第44話

夏休みまであと三日という今日、私と先輩は部室内で雑誌の取材を受けていた。

元々先輩一人の企画だったものに、私、小桜恋華が一緒に居ると本社に電話したところ一緒に取材をしろとの命令が下ったそうだ。

質問の内容は色々なものがあり、中には私生活に関する質問もあり、身バレの危険がある質問は全て断った。


そして最後の質問だ。


「えっと、最後の質問ですが小桜先生、そして大和先生にとって、小説とはなんでしょうか?また、執筆とはどういうものでしょうか?」


ここで私が先に喋らなければ私がトリを飾ることになってしまう。元々先輩の企画だったものに私も入れてもらったのだ。最後は先輩に任せたほうがいいだろう。



「えっと…元々は私は趣味で小説を書いていました。いいシーンが思いついた、面白いプロローグが思いついた、格好いいセリフを思いついた、そんな風にふと思いついたときに書いて気づけば一冊の本になっていて、なので私にとっての執筆は趣味です。ですが強いて言うならば、私の思いついた面白いプロローグを読んで欲しい、私の思いついた格好いいセリフを読んで欲しい、私の思いついた面白そうな設定を知ってほしい、そんな事を読者に届けたいと思っています」


「つまり執筆は趣味であり、自分が思いついた最高の物を読者に知ってもらいたいから執筆をしているんですか?」

「はい、そうですね」


さすが記者だ、人の言葉をまとめるのはとても上手だ。

何かを書き終え、わたしから先輩へと視線を移す。

先輩も大きく頷き、口を開いた。


「私は恋華先生とは反対で執筆は完全なるお仕事として考えているよ」

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うーん…恋華先生の言葉を完全に否定してしまう事になるからあまり言いたくないのだけどね…」

「そこを何とか…」

「そうだね、これはあくまで僕が僕自身に課している考え方なだけであって、決して恋華先生を貶す意味合いは全くこれっぽっちも無いとわかってほしいのだけどね…」


やけに前置きをするが確かにあの内容をこの前置き無しで話せば勘違いされてしまう内容だからだ。

私は事前にこの前のカラオケのあとに先輩に聞いていた。

私とは違う考え方をしれて、私はとても満足していた。


「僕は僕自身のことを大嘘つきだと思っているんだ」

「嘘ですか?」

「うん、考えてごらん?この世界に魔法はあるかい?この世界にドラゴンは居るかな?いやいない、それを僕はあたかも本当に居るように書いている、それを嘘と言わずしてなんと言うのだろうってね」


「変わった考え方をされるんですね」

「よく言われるよ、あくまでフィクションであると言う人もいて、嘘とは別だという人もいるが僕は小説を書くというのは大嘘をつく行為だ、そう考えているんだ」


「ですが何となく大和先生の書かれる文章の妙なリアリティの正体がわかった気がします」

「だろう?嘘というのは真実を含めることでよりリアルになるんだ、だから僕は最大の大嘘つきさ」


このあとも数問のやりとりがあり、本当にすべての質問が終了した。

私と先輩の、つまり小桜恋華と大和蜜柑の素顔を知れたからか、はたまたいいネタが手に入ったからか、インタビュアーさんの顔には笑顔が浮かんでいた。

録音機材などをカバンにしまっている時、ふと何かを思い出したかのようにカバンから一冊の本を取り出した。


「この部誌なんですが、あなた方二人が書かれたモノで間違いないですか?」


インタビュアーさんが手に持っていたのは、紛れもない私たちの部誌だった。

「そうだよ、今年発行したモノさ、でも君がなぜその本を?」


ほんの少し訝しげに聞く先輩に慌てて答える。


「僕の娘がこの学校に通っているんです!それで娘がこれを読んで感動して泣いてるのを見て…僕も読んで、恥ずかしい話ですけど泣いてしまいました」


私も先輩も納得がいき、ふぅと息を吐き出す。


「びっくりさせないでおくれ、ただでさえこの室内には女の子が二人と大人の男が一人なんだ、ちょっと身の危険を感じたよ」


冗談めかして言うが、事実身の危険は少し感じた。


「あ、これはすいません…僕とした事が…本当にこの本に書かれているお話は面白くて…それでお二人にこの本についても色々と聞きたかったんです」


「答えられる範囲でいいなら答えるよ、部誌を読んで面白いと言ってくれた人だ、これくらいはサービスしないとね」


そう言う先輩はインタビュアーさんの目を見る。


「えっと、この一番最後の作品は合作となっているんですが…私はどうも小説などに疎く合作というのはどういう作業なのか想像がつかないんです」

「あぁ…」

「だからどんなことをされるんですか?合作とは」


私も先輩も合作は今回が初めてなのだ。

だから正直な話、ほかの例を知らない。他から話すとなれば私たちが今回行った方法を言うしかないのだ。


「えっと…今回のお話はヒロインと主人公、双方の視点から書かれてますよね?」

「そうですね、でもどちらもしっかりとキャラが立っていてとても読みやすかったです」

「あ、ありがとうございます…それで、主人公に関する場所は右葉さんが、ヒロインに関する場所は私が書きました」

「え?」


よくわからないといった感じだ。


「えっと、だから僕がまず最初に主人公メインの話を書くわけさ、そしてそれを左枝に渡して次はヒロイン視点で次の話を書いてもらう、それを僕が受け取って主人公視点で次の話を書く、こんな感じで書いたのがこの作品さ」

「えっと…そんなことが可能なんですか?」


半信半疑というインタビュアーさん。

私だって初めて聞いた時にはこんなことできるのかと思った、だから仕方ないのだろう。


「まぁ実際にできているしね、ちなみに世界やメインキャラクターそれから技名や武器武具、魔法などの名称や詠唱とかは完全に二人共理解するために一緒に考えたんだ、それでそれに合わせてアドリブでどんどんと話を展開させていったのさ」


あいた口がふさがらないと言った風なインタビュアーさん。

でもこの場合凄すぎて呆れるといった感じか。


「今まで僕も沢山の作家さんにあってきましたけど…そんな事を出来る人には一度も会ったことがなかったです…いやはや今見ても尚、本当は一人で書いてるんじゃないかってくらいに文体は安定していますし面白い…」


「ありがとう、何よりの褒め言葉だ」

「ありがとうございます」


こうして本当に私と先輩のインタビューが終了し、部室にはいつもと同じ沈黙とチリーンという風鈴の音が響いていた。


私の本も先輩の本も無事発売し、明々後日からは夏休みだ。

私と先輩は夏休みにどこへ行きたいか、そんな事を話しながら帰路につくのだった。


読んでくださりありがとうございました。

次話もどうぞ、よろしくお願い致します。

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