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左近の桜、右近の橘。  作者: みんくん
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第43話

部誌完売記念をしにカラオケにやってきた私と先輩。

シンとした室内でおもむろに先輩はマイクを持った。


「さて、左枝はどんな曲が好きなんだい?こう、クラシックとかじゃなくて歌で頼むよ」

「私ですか?うーん…軍歌とか大好きですねぇ…恋の花の時に調べてハマったんです」

「ぐ、軍歌!?し、渋い趣味だね…」


さすがの先輩も目を丸くして引いていた。


「フフフ、冗談ですよ…そうですね、酸欠少女さユリなんかは好きですね」

「じょ、冗談…びっくりさせないでおくれ…本当にびっくりしたよもう…ハハハ」


咄嗟に思いついた冗談だがこれは使えるかもしれない。


「そういう右葉さんはどんな曲が好きなんですか?」

「僕かい?うーん…そうだねぇ…」

顎に手を当てて考え込む先輩。


「あぁ、演歌なんかは好きだねぇ、昔からよく歌っていたんだ」

「え、演歌ですか?…意外です、もっとこう男の子っぽい曲が好きなんだと思っていました」

「な、何を!僕だって女の子らしい曲が好きさ!」

「え、演歌がですか?」


あ、と言う顔をして頭を掻く。


「くぅ…ギャップ作戦失敗…」

「あ、ある意味で言えばすごいギャップです…」

「そ、そうかな?」


何故か照れている先輩は可愛かった。


「それじゃぁ僕が先に歌ってもいいかい?」

「いいですよ、何歌うんですか?」

「聞いて驚いておくれ!君の名はのスパークルだよ!」

「え、演歌じゃないんですね…」

「い、いいだろう!それより左枝は見に行ったかい?君の名は」

「あーまだ行ってませんね…まだやってる劇場あるかなぁ…?」


ふとまだ見れていないことを思い出し、不安になる。

もしかしてもう上映が終わってしまっているんじゃないかと。


「あぁそれなら大丈夫だよ、あの大きい映画館でまだやってる、今度僕と一緒に行かないかい?」

「え?」

「さ、さっき話しただろう…?デートだよ…デート」


どんどんと語尾が小さくなる先輩。

恥ずかしいのか耳が赤い。

「な、なんだいその顔は!」


ニマニマとしている私を見た先輩は私に絡む。


「いやぁ右葉さん可愛いなぁって思って」

「っ…!あーもううるさいうるさい!!うあぁぁぁぁぁぁ!!!」


照れてどうしていいのかわからなくなってわしゃわしゃと綺麗な髪を掻き毟る先輩。


「フフフ、右葉さん可愛いですよ」

「もう!意地悪ばっかりする左枝なんて大っきらいだ!!」


冗談とはわかっていても心は痛むのか、初めて知った。

見る見るうちに私の顔からは表情が抜け、頬を一本の涙の筋が通る。


「右葉さんが私の事嫌いでも…私は…私はいつまでも右葉さんの事を想い続けます…!」

「ご、ごめん左枝、うそだ、嘘だからそんな顔しないでおくれ…本当にごめんよ、もう嫌いだなんて言わないから泣き止んでおくれ」


私のことをギュッと優しく抱き、背中をトントンとする。


「右葉さん…大好きです、ずっとずっと大好きです」

「僕もさ、左枝の事ずっとずっと大好きだよ」


スパークルのサビが背景で流れる中、私と先輩はキスをした。

ふと部屋の角にカメラがあることに気づく。


「んっ…右葉さん、カメラ…カメラが…」

「見せつけてやろう、僕と左枝がこんなにラブラブだってね」


無理やり私の口を塞ぎ、舌を絡める。

室内には粘っこい水音が響き、透明の窓から誰かが覗くかも知れない、そんなスリルが興奮をより一層強くする。

薄暗い照明もその要因の一つだ。


コンコンドアがノックされ、無慈悲に開く。

一瞬ではなれ口元を拭く私と先輩。

ギリギリ見えない位置にいた私と先輩は急いで椅子に座った。


「ご注文のお飲み物をお持ちしました、ごゆっくりどうぞ」

ペコリと頭を下げて部屋を出る店員さん。


しばらく私と先輩の時間が止まった。


「み、見られちゃいましたかね…?」

「うーん…多分見られちゃっただろうねぇ」

「えぇ!?どうしよう…」

「まぁ大丈夫さ、なんとかなる!」


自信満々に言い切る先輩を見て、私もそんな気がしてきた。


「それよりも部誌完売記念さ!さぁ乾杯をしよう!」

「はい!」


「「乾杯!」」


コップをカンとぶつけ、お互いに飲む。

キンと冷えた烏龍茶が体に染み渡るような気がした。



「それにしても、いっぱいお客さん来てくれたね」

「はい、二日で完売だなんてびっくりしちゃいました!」

「そうだね、僕もびっくりだ」

「みんな読んでくれましたかね?」

「大丈夫さ、来週からは忙しくなるよ」

「え?」

「面白かった、凄い!いろんな人がそれを言いに僕たちのクラスに殺到するんだ…去年、僕も本当に驚いたよ…あんなたくさんの人の中心にいるのは初めてのことだったからね…」


そういう先輩の顔には苦い表情と、でも嬉しいという表情が浮かんでいた。


「でも、嬉しいですよね」

「うん、本当に、本当に嬉しい」


晴れ晴れと下先輩の顔をみて、怖い反面楽しみにもなる。


「本を出すって楽しいですね」

「だろう?」


怖い反面楽しみで、そんな矛盾した気持ちを抱えならが私は次の曲を入れた。


「あぁ!僕まだ歌ってないのに!」

読んでくださりありがとうございました。

次話もどうぞ、よろしくお願い致します。

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