第42話
「つ、つまり…ヒラと山ちゃんは卒業とともに交際をする事になったということかい!?」
「えぇ!?」
「も、もう!大きな声で言わないで!恥ずかしいのよ…」
手の甲まで真っ赤にして照れる先輩は顔を手で覆っていた。
「おめでとうヒラ!!いや、本当におめでとう!!」
「おめでとうございます宮古先輩!これで一安心ですね!!」
「う、うん…」
こくりと頷く宮古先輩は未だに真っ赤だった。
ちなみに現在地は部室棟1階の文芸部室である。
テーブルの中央には美味しそうなクッキーがあるのは紅茶菓子研究会のみんなが届けてくれたからである。
サクサクと各々がクッキーを食べながら感慨深そうにしていた。
「それにしてもあの話が本当になるとはねぇ…」
「本当ですね、私も驚きました」
そう、あの日、文化祭二日目の売上金を職員室へと持っていった時の話だ。
「あの話って?」
「あぁ、山ちゃんが君を連れてどっかへ行ってしまっただろう?だから売上金を職員室へと直接持っていったのさ、したら山ちゃんは?と聞かれてね」
「そしたら右葉さん 一世一代の何かをしているところかもね なんて言うんですよ!」
「なっ!」
「そうそう、そしたら先生が まぁ!とうとう山倉先生にも春が!? って」
フフフと笑う私とハハハと笑う先輩。
「多分今頃山ちゃんもタジタジだろうねぇ」
「ちょっと私急用思い出した!!それじゃぁまたね!!」
脱兎のごとく走り出した宮古先輩、どこに行ったかは既に私も先輩もわかっていた。
「山ちゃん、案外隅に置けないねぇ」
「そうですね」
ハハハと部室に笑い声が響いた。
窓から入るそよ風に風鈴の音がチリンと鳴る。
「そういえばもうすっかり夏だね…あともう少しで夏休みだ」
「あーそういえばそうですねぇ…結局ゴールデンウィークはずっと執筆してましたからねぇ…夏休みは一緒にどこか行きたいですね」
「それってデートかい?」
「そうですね、デートですね、可愛い服用意しないとなぁ」
何事もないふうに言う私に顔を赤くした先輩。
「さ、左枝って以外にその…こう言う攻めには強いのかい?」
「そうかもしれませんねぇ」
なんとなくだが今多分私の耳は赤くなっている事だろう。
それとは全く関係なしにふと気になったことがあった。
「そういえば私、あの先生の事よく知らないんですよねぇ」
「あの先生?山ちゃんの事かい?」
「いえ、あの私たちの売上金とかやってくれた女性の」
「あぁ、優羽ちゃんか、えっと本名が浅羽優羽で三年生の担任だね、ちなみにこう、ヤクザ屋さんみたいな旦那さんがいるよ」
「会ったことが?」
「うん、以前にに一回ね、優羽ちゃんが体調不良でフラフラな時に助けに来たのが旦那さんでね、その時は何故か色紋付を着てたよ…さすがの僕も驚いたね」
「色紋付?」
色紋付、なんとなく着物というのはわかるけどどんなものかは正直わからない。
そんな顔を察したのか、先輩が着物の種類についての簡単な説明をしてくれた。
「つまり、この襟と両胸、そして両腕に計5個の家紋が入った色のついた紋付袴のことだね…準礼装で普段着では決してない様な着物さ」
「着物って奥が深いんですねぇ」
「あぁそうさ!着物っていうのはね…って今は着物じゃなくて優羽ちゃんの旦那さんの話だよ…その旦那さんがまたすごいおっかない顔の人でね…焦っていたのか眉間にシワが寄って初めて見たときは冗談抜きで本物だと思ったよ」
「という事は?」
「うん、後で優羽ちゃんに写真見せてもらったらすごい楽しそうに笑う人でね、物腰も丁寧で驚いたよ…」
ちょっと会ってみたい気がする。
「それで左枝、今日は帰り特に用事とかは無いんだよね?」
「ないですね、強いて言うならいつもと同じくご飯とか洗濯とか家事くらいですね」
「そうか、なら是非僕と君、二人だけで部誌完売を記念して打ち上げでもどうかな?」
「打ち上げですか?」
先輩のことだからやりたいと言い出すとは思っていたけどこんなタイミングだとは思わなかった。
「いいですけど…ケーキでも買って帰りますか?それとも明日でもいいなら作ってもいいですよ」
「えっとね、ケーキとかじゃなく…一緒にカラオケに行かないかい?」
「え?カラオケですか?」
「あぁ、こういう時にはカラオケに行くのがいいってヒラに聞いてね…だめ、かな?」
控えめに聞いてくる先輩、私がその問に断れるわけがないと知っているのだろう。
「もう、仕方ないですね…私あまりカラオケとか行ったこと無いのでエスコートしてくださいね?」
「もちろんさ!」
先輩は本を音を立てて閉じ、帰りの支度を始めるのだった。
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