第41話
【宮古視点】
私がお兄さんのことを好きになったのはいつの事だっただろう、そう考えても思い出せないくらい昔から私はお兄さん…山倉先生の事が好きだった。
私が小学生の時にお兄さんは既に高校生でその頃からずっと夢は学校の先生になることと言っていた。
「お兄さんが先生になったら私にお勉強いっぱい教えてね!」
「おう!約束だよ、宮古ちゃん」
ガシガシと無遠慮に私の髪の毛をぐちゃぐちゃにするお兄さん。
でも私はお兄さんのその大きくて暖かくて、ゴツゴツとした手が大好きだった。
私が中学校に上がった時、お兄さんは既に先生になっていた。
この頃になると一人暮らしをしているお兄さんの家まで行ってお兄さんに勉強をたくさん教えてもらった。
自分も忙しいくせに私には明日もおいでとか言ってきて、それで私がお礼にご飯を作るといつも「この○○は最高においしいよ!」と頭をガシガシと無遠慮に撫でてきて、「私もう中学生なの!」とお兄さんの手を除けると「そうか!もう宮古ちゃんは中学生だもんな!」と言ってやっぱりガシガシと頭を撫でた。
気持ちよくて、心地よくて、私はそんなお兄さんの手が大好きで…。
私が中学校三年生になって進学校について悩む時期になった。
この時もお兄さんは私に沢山の事を教えてくれた。
この学校はどうだ、この学校はこうだと本当に沢山の事を。
でもごめんなさい、全部聞いたけど私はもう学校を決めていた。
お兄さんが勤務している女子高だ。
私の学力でならもっと上にいけると担任も言うけど、私はそんなのどうでもいい、この学校の評判はいいし就職に何ら問題は出ない。
確かにもっと上の学校のほうが有利になるかもしれないが、三年間もお兄さんとあまり会えないなんて辛い事を私は選びたくなかったのだ。
私が高校に入学するとお兄さんはすごい格好いい先生になっていて、入学式で私を見つけた時のあの顔は今でも忘れない。
私はお兄さんの事を先生と呼ぶようになった。
お兄さんも私のことを宮古ちゃんではなく、平安と呼ぶようになった。
また、お兄さんは私に触ってくれなくなった。
教師と生徒と言う壁が邪魔しているのはわかる。
それでもいつものように出した手を引っ込めるお兄さんを見て、私の心はチクリと痛んだ。
何でこんな事を思い出しているのだろうと頭を振り、私はユウと左枝ちゃんの待つ教室へと急いだ。
多分ユウは怒ってるだろうなぁ…左枝ちゃんは止めてくれるんだろうなぁとか色々な事を考えていると、先生が教室の前で立ち止まっているのに気づいた。
その混乱して狼狽えるような姿に私は驚き、声をかけた。
「や、山倉先生!?どうされたんですか!?」
「な、何でもない!何でもない、だから一緒に無効へ行こう!な?!今この教室はダメだから!!」
そう言うと強引に私の手を掴み、先生は走り出した。
久しぶりに触ったあのゴツゴツとした手はやはり前のように温かかった。
廊下の端っこまで来た私と先生は息を切らせて立ち止まった。
「お兄さん、どうしたのいきなり…」
「み、宮古ちゃん、あの教室は今はダメなんだ…その、桜と立花が…」
そこまで言って言い淀む。
あぁそうか、とうとう先生にまでバレてしまったのか。
さっきから繋ぎっぱなしの手が汗で濡れる。
「あっ、すまん!」
「あっ・・・」
バッと手を離され、また一つ心が痛む。
「そ、その…すまん…」
シュンとした表情の先生。
あぁ、やっぱり私はこの人のことが好きだなと再確認した。
「いいですよ別に、どうせ私と手なんて繋ぎたくないんでしょう?お兄さんは!」
ちょっと意地悪を言ってみた。
すると驚いたことに私の手を再び強引に取り先生は強めに言う。
「そんなわけがないだろう!」
私はびっくりして先生の顔を見ると先生の顔が見る見るうちに赤くなっていく。
ふと目をそらす先生はそらした先に何かを見つけたのか、口を開く。
「宮古ちゃん…じゃなくて平安、あそこで占いをやってるみたいだぞ?ちょっと行ってみないか?」
名前が宮古ちゃんから平安に戻ってしまった、やはりちょっと悲しかった。
多分この雰囲気をどうにかするために特に何も考えずに言ったのだろう。
「そうですね、行ってみましょう」
二人して教室に入ると一人の生徒が怪しげな格好でタロットカードを点切っていた。
対面して座る椅子があり、私と先生が座る。
「何を占いますか?」
「そうだなぁ…」
「私と先生の相性を!」
すかさず言う私と驚き私の方を見る先生。そしてニヤリとして占いを始める生徒。
しばらく間があり、その後彼女はボソッと結果を口にした。
「恋人の正位置…」
恋人の正位置…。意味は恋愛、結婚、出会い、魅力、決断…そして、交際の始まり。
先生の手をギュッと握り、席を立つ。
「ありがとう、おかげで勇気が出たわ」
「…頑張って」
女性同士で分かり合い、どういう事かわかっていない先生は頭の上に?マークを浮かべていた。
場所は変わって屋上。
普段は上がっちゃいけないのだけど文化祭の時だけは秘密裏に解放されている。
先生に今日知られてしまったからもしかしたらこれからの開放はないかもしれない、それでも私は先生に思いを伝えるのにはここで伝えたかった。
「ここからの見晴らしって最高ですよね」
「そうだな、遠くまでしっかりと見える…」
「あのあたりに私の家ありますね」
「そうだね、それであっちに俺の家がある」
お互いに家のある方へ指をさす。
「お兄さん、さっきの占いの意味、知りたいですか?」
「あ、わかるのか?教えてくれ、俺どうもこういう事には疎いんだ…」
「耳を貸してください」
「ん?」
私に顔を近づける先生のネクタイをつかみ、キスをする。
「んっ!?」
驚きのあまり目がまん丸になる先生。
舌を入れてやろうと思った瞬間に先生は私から離れる。
「み、宮古ちゃん…これって…」
「恋人の正位置、恋愛、結婚、魅力…交際の始まり。…大好きです…私が小さかった時から今の今まで、ずっとずっと先生の…お兄さんのことが大好きです」
多分顔は真っ赤になっているのだろう。
鏡がなくてもわかる。顔が熱くて熱くて恥ずかしくて。
固まる先生の顔がおかしくて、私はふっと笑顔になる。
「で、でも俺とお前は教師と生徒で…」
「お兄さん、そんなの後一年だけ…でしょう?」
「で、でも…」
いつまでも踏ん切りのつかない先生のネクタイを引っ張り、耳元で囁く。
「Yes or No」
ふっと香る先生の匂いは少し汗臭くて、私の大好きな匂いだった。
背中に回る先生の手に抱きしめられ、圧迫感を感じる。
「宮古ちゃんが在学中はごめん、答えられない…でも、でも絶対に宮古ちゃんが卒業したら、そのときは…」
沈む太陽を見て私はあの日の、小さな頃の私を思い出した。
本当にお兄さんと付き合うことになったよ、まだもうちょっと先だけど、やるでしょ?私
多分昔の私も拍手をしてくれる事だろう。
オレンジ色の夕焼け空の中、私とお兄さんは抱き合っていた。
読んでくださりありがとうございました。
次話もどうぞ、よろしくお願い致します。




