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左近の桜、右近の橘。  作者: みんくん
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第38話

ふと腕時計を見ると既に時間は一時間は立っており、あまりの時間の経つ早さに驚いた。


「先輩、もう一時間も経ってますよ!」

「ん?本当だ、いや済まない、こんなに長居するつもりはなかったんだ、僕たちのせいで営業ができないなんてことになって居たらなんてお詫びをすればいいんだ…」


焦る私と先輩。


「あ、いえ大丈夫なんです、ここ自体ケーキが焼きあがるまでにまだ時間が必要で…営業時間が昨日もそうだったんですが10時から開始なんです」

「ほ、本当かい?」

「本当ですよ、なんならここのメニューにも書いてありますよ」


テーブルに置かれたメニューには確かに営業時間10時とある。


「ふぅ、いやはや驚いたよ、まさかこんなに時間が経つのが早かったなんて…」

「喜んでいただけたようで何よりです」


ペコリとお辞儀をする宮村さん。


「それじゃぁ名残惜しくはあるけど左枝、そろそろ行こうか」

「はい先輩」


ケーキも食べ終わり、私が先に席を立ち、先輩の椅子を引く。


「ありがとう左枝」

「この部室棟を使わせていただき、本当にありがとうございました」


頭を下げる宮村さん。

「いや、なんなら来年からもずっとここでやってくれると嬉しいな、僕としてもこのケーキは大好きだからね」

「来年からもいいんですか?」

「もちろん、ね?左枝」

「はい、是非」


本当にここのケーキも紅茶も美味しいのだ。

これを食べれるのなら来年も再来年も開いて欲しいと本当に思う。


「それにしても、レジといい食器類と言いこの学校の備品ではないものが多い気がするのだけど、こういうのはどうしているんだい?」

「あ、こういうのは私の実家が喫茶店をやってたんです、それで借りてきました」

「そうか、そういうことだったんだね」

「はい!ちなみにうちの隣には写真館があってさっき写真を撮影してくれた彼女がそこの娘なんです」


そう言うと奥から出てきてペコリとお辞儀をして戻っていく。


「それじゃぁ本当に僕たちは失礼するよ、ケーキも紅茶も本当に美味しかった、ありがとう」

「ありがとうございます」


私たちの言葉を聞いて嬉しそうな笑顔になる宮村さん。

「ご満足頂けたようで何よりです。本日は文化祭終了までずっと営業しております、お暇でしたら是非またお立ち寄りください」


深いお辞儀をして私と先輩を送り出してくれる。


ドアを開けるとそこには既に人の列ができており、私と先輩は再び注目の的となった。


どうにか切り抜け、本校舎に戻ると、既に文化祭は始まっていて、校舎の中は喧騒に包まれていた。


「左枝、どこか行きたいところはあるかい?」

「行きたい所ですか…?うーん…」

「もし特にいきたいところがないならヒラの所にでも行ってみないかい?」

「宮古先輩って何やってるんですか?」

「ヒラならクレープを売るらしいんだ」

「あ、クレープ食べたいです」

「そうか、なら行こう」


宮古先輩の教室まで歩く途中、私は先輩になぜデザート系が教室での販売を許可されているのか聞いた。

と言うのもうちの学校は基本的に飲食物の販売を許可していて、基本的な物は外だが、例外がいくつかあってデザート等の溶けてしまうものや、おにぎり等の外に置いておけないもの等は教室内での販売が許可されていたのだ。


先輩曰く、昔はデザート系も禁止だったらしい。

その日は炎天下で生徒はこぞってアイスクリームを買い求めた。

頻繁に開け閉めをしたクーラーボックスの中は既に冷たくなく、アイスは溶けてしまった。

学園祭が始まる前に教師陣に何度も教室内ではできないのかと聞いたが無理との返答しかなく、屋外でやった結果アイスは溶けてしまって売れなくなった。


そのクラスは泣きながら後片付けをしていて、その姿を見た教師陣は翌年から教室内でのデザート系の販売も許可したというわけだ。


「まぁこれも僕が先輩に聞いた話なんだけどね」

「でも確かにこの暑さだと外でクーラーボックスじゃキツイですよねぇ…」

「その点屋内は直ぐに冷やせる環境があるからね、場所によっては冷凍庫を持ち込んでいるクラスも過去にはあったらしいよ」

「すごいですねぇ…」


でも旧部室棟を使った喫茶店を開いたりと、この学校の文化祭は本当にすごいと思った。


宮古先輩のクラスの教室に着くと、中から楽しそうな声が聞こえてくる。

戸をくぐると人集が出来ていた。

何事かと思い見ていると、おぉ!とかすごいと言った声が聞こえてくる。

私と先輩も移動してみてみると、なんと宮古先輩がすごい速さでクレープ生地を焼いていた。


「生地できたよ、盛りつけお願い、あと何枚?」

「6枚お願い!」

「了解っ!」


お玉のようなもので生地を板の上に垂らし、T字の道具で生地を素早く伸ばしていく。

どう見ても私には出来そうにないというのが感想だ。

それほど宮古先輩の手捌きはすごいものだった。


直ぐに6枚を焼き上げてその隣でほかの人が盛りつけを行う。

クリームを絞ってバナナを置いて、アイスをのせて何かをふりかけて包み、またクリームを絞ってイチゴを乗せて、包に入れて完成だ。


そのあまりの速さに人集ができていたらしい。

一仕事終わって「ふぅ、」と息をつく先輩は見ていた私たちと目が合う。


「あ、ユウ来てたのね」

「左枝も一緒だよ」

「え!?」


私の方を見て驚く宮古先輩。

「ごめんなさい、あまりにもいつもとイメージが違って、その…」

「私も自分のこの姿を見て驚いたので気にしないでください」

「それにしても、あなたたち並んでいるとこう、恋の花に出てくる主人公とヒロインみたいね」


あ、やっぱり宮古先輩も知っていたのか


「はい、それをイメージしているんです」

「あ、やっぱりそうなんだ、私もユウの本の中じゃトップレベルで好きよ、あのお話」

「ですよね!こう、切ないけどきゅんきゅんしちゃう感じが!!」


盛り上がる私と宮古先輩、両手で真っ赤な顔を覆って隠している先輩。

私たちを楽しそうに見ている人集り。


なんというかよくわからない空間が出来ていた。

読んでくださりありがとうございました。

次話もどうぞ、よろしくお願い致します。

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