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左近の桜、右近の橘。  作者: みんくん
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第36話

先輩と決めた待ち合わせ場所で一人待つ私は、皆の話題の種となっていた。

中には格好いいとか、話しかけちゃおうかなとか、そんな声が聞こえてきていよいよ恥ずかしい。


すると向こうから先輩が下駄を鳴らして歩いてきた。

正直に言おう、本当に助かったと思った。


「左枝、遅くなってしまってすまない…ホームルームが長引いてしまってね」

「いえ、今来たところなので気にしないでください」


五分なんて時間は今で十分だ。


「それじゃぁ回ろうか」

そう言うと先輩は私の腕を取り、腕を組む。

キャーという黄色い悲鳴が聞こえてくるのは多分幻聴なのだろう。


「せ、先輩!?」

「だ、だって今日は、その…デート…なんだろう?」


耳を赤くする先輩はその着物も相まって相当な破壊力だった。


「そ、それじゃぁいきましょうか」

先輩の歩調に合わせてゆっくりと歩く。

最初は恥ずかしかった腕組みも、すぐに慣れて、気になるのは人の視線だけとなった。


「大丈夫さ、そのうち視線にも慣れるよ」

と私の心を読んだかのようにベストタイミングで声をかけてくる先輩に驚いた。


「さて左枝、どこか行きたい所はないかい?」

「いきたいところですか?でも先輩、基本的に今ってどこも準備中なんじゃ…?」

「あ」


本当にあ、と言う顔をしている先輩を見て、私は吹き出す。


「先輩ってそういうおっちょこちょいなところありますよね」

フフフフと笑う私と口を尖らせる先輩。


「どうせ私はおっちょこちょいだよ」

「あー先輩、拗ねないでくださいよ…私先輩のそういうところも好きですよ」

「す、好きといえばなんでも許すって思ってるんじゃないだろうね!!」

「でも先輩、顔真っ赤ですよ?」

「うるさい!バカ!私も好きだ!」


先輩の大きな声に周りの人の視線が集まる。

「せ、先輩、声…」

「あ・・・」


ニヤニヤとした視線が集まり、小さくなる私と先輩。

そのふたりの耳や顔は大層赤かったことだろう。


足早にそこを抜け、階段を下りて中庭に出る。

中庭には準備中の喧騒が響いていて、何かこう、創作意欲を高めてくれる。

皆同じ事を思うのか、スケッチブックを持った人とかもいた。


「学園祭をテーマに何か一つ作品を書くのも面白いかもね」

目線を中庭から外さず、先輩は呟いた。


「それは面白そうですね…どんなお話にするんですか?」

「あ、聞こえていたのか…そ、そうだなぁ…」


私に聞こえるとは思って居なかったのか、ちょっと驚いた顔をしていた。

「そうだ、こうしよう!…学園祭中に色々な部に一通の封筒が届けられるんだ」

「封筒、ですか?」

「そう、そして封を開けるとそこには○○部の□□は既に闇へと消えた。怪盗なんちゃらって書かれたカードが一枚入っているんだ」

「ミステリーものですか、面白そうですね」

「そしてその怪盗を捕まえるため、主人公の所属する文芸部がミステリー知識を持つミステリー研究会の友人と二人で怪盗を追い詰めるって話なんだ!」


「ほ、本当に面白そう…」


「それで実は犯人は」

「だめ!!先輩、その話私すごい気になるので今犯人言わないでください!!」

「え、でも本当に驚くと思うんだ…今思いついたから君にも話したい…」

「じゃぁ先輩、私の小説の二巻の内容ネタバレしますよ…」


ジト目の私と、あぁそういうことかと納得顔の先輩。

「確かにそうだね、ここまで話して実は犯人は誰だなんて言ってしまうのは小説家としてはダメな事だったね」


困ったような顔で肩をすくめる先輩。

分かってくれればそれでいいのだ。


「出来たら読ませてくださいね?」

「いいだろう、僕の思いついた最高の学園ミステリーを楽しみにしておいておくれ」

「それはそうと…」

「うん、意外に準備って時間がかかるんだね…」

「ですね…こう、アニメとか小説では準備って意外に省かれたりしますもんね…一回部室行きます?最近行けてませんし」


「あぁいいね、ちょっと執筆してから来ればもう始まっているだろう」


校舎を出て旧部室棟へと向かう私と先輩。

変わり果てた姿となった旧部室棟を見るのは、このすぐ後のお話。

読んでくださりありがとうございました。

次話もどうぞ、よろしくお願い致します。

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