第35話
翌朝、私が目覚めると既に先輩はベッドの中にはいなく、ほんのりと温もりだけが残っていた。
寝ぼけた頭でノロノロと起き上がり、私は先輩を探す。
「ん、おはよう左枝、今日はいい天気だね、デート日和じゃないか」
笑顔の先輩に抱きついた。
「こらこら、寝ぼけているのかい?顔を洗って来るといい、目が覚めるよ」
先輩は困ったような顔をして私を抱きしめる。
「左枝は本当に甘えん坊さんだ」
私の寝癖だらけのボサボサの頭を撫でる先輩。
「離れるのが嫌なら一緒に行こうか」
先輩に連れて行かれて洗面所へと向かう。
先輩もなれた物で私の手をグッと持ち上げてクルッと周り、私を背中の方へやる。
両手が自由になった先輩はタオルを水で濡らし絞って私に渡した。
毎日の事だからもうなれているのだろう。
たまに早くはっきりと起きれる事はあるが、基本的に私は朝が非常に弱く、いつも先輩が介抱してくれる。
顔を拭くと私は先輩から離れ、寝室へともどる。
まだ半分寝ぼけている頭でシーツを剥がし、枕カバーも剥がして洗濯機へと突っ込む。
その間に先輩は朝ごはんの準備をしていた。
私が作るときには基本手の込んだものだが、先輩がつくると基本パンをトースターで焼いてジャムを塗るだけ等で、とても簡単なものが多い。
「左枝、朝ごはんできたよ、こっちにおいで」
先輩の声に釣られ、フラフラとリビングへ向かう私を見て、先輩はいつものように笑った。
「本当に左枝は朝が弱いんだね」
「うー…眠い…」
もそもそとパンを食べて学校の準備をする。
と言っても今日はいつもと違う服だ。
そろそろ私の目も覚めてきて意識がはっきりしてくる。
「あ、左枝目が覚めたね?おはよう」
私の目を見て覚醒したと判断したのか先輩が笑いかけてきた。
「おはようございます、えっと今日は先輩着物ですよね?」
「うん、だからちょっと早めに起きていたのさ、いつもなら左枝はまだ起きていない時間だからね」
時計を見るとまだ6時ちょうど、それは確かに起きていないし異様に眠かったわけだ。
「まさか左枝がこんな時間に起きてくるなんて思っていなかったからびっくりしたよ」
カラカラと笑う先輩。
「こう、寒くて起きたら先輩が居なくて…」
「左枝は以外に寝相が悪いからね、いつも僕は抱き枕にされているんだよ」
このやりとりもいつもの事だ。
すると先輩は寝室のドアを開け、隣の部屋へと行く。
「左枝、こっちにおいで、化粧をしてあげる」
隣の部屋に行くと、そこは三面鏡や化粧品などが置いてあり、先輩の書斎でもあった。
最近は一緒に小説を書いているため、よく私もここへ入る。
「左枝、ほら座って?」
先輩に言われた通りに椅子に座る。
手際よく私に化粧を施す先輩は、基本作品を途中で見せることはせず、必ず完成してから私に見せるようにしていた。
「左枝、出来たぞ、鏡を見てご覧?」
振り向き、三面鏡を見ると、そこには男の子のように格好良くなった私の顔が映っていた。
「こ、これが私!?」
「そうさ、これで軍服がよく似合うと思うよ、僕は自分の分をやってしまうから左枝は先に着替えておいで」
そういうと先輩は椅子に座り、化粧を始める。
私はこの部屋を出て寝室に入り、白い軍服を取り出した。
これからこれに袖を通すと思うとなにか緊張してきた。
「左枝、そういえば左枝に制帽とか短剣とか私ていなかったね、ちょっと待っていておくれ」
部屋の入り口にいた先輩はいつも以上に綺麗になっていて、私は先輩に見とれた。
「どうしたんだい左枝?僕の顔にって確かに化粧がついているね」
ハハハと笑う先輩はクローゼットの中をゴソゴソとし、制帽が入った丸い箱と短剣と剣帯が入った箱を出してきた。
「こっちが制帽でこっちが短剣と剣帯だよ、剣帯のつけ方は後で教えてあげるから先に服を着てしまってくれ」
そう言うと先輩は着物を着るのに取り掛かる。
手際よくシュパパパパと着物を着ていき、既に帯を巻くところだった。
私はシャツを着てズボンを履き、サスペンダーを付けて襟を見て困った。
ボタンが付いていなく、ボタンホールが二つあるのだ。
ボタンが付いていなければいけない場所に付いていなく、私は困惑していた。
また、衿の形も独特で、完全にどうしたらいいのかわからなかった。
「あ、左枝、カフスは右のポケットの中にある、見てみてくれ」
ジャケットのポケットに手を入れてみると、金属のなにか二つに触る。
取り出すと四角い形をした金属のなにかだった。
帯を締め終わったのか、結び目を背後に回し、襟を確認して先輩はこちらへと向かってくる。
そのあまりにも綺麗な姿に、私は言葉を失った。
「さ、左枝…もしかして僕に幻滅してしまったのかい?」
泣きそうな顔で私に近づくのをやめ、立ち止まる。
「い、いや、その…あまりにも綺麗でその…言葉が出てこなくて…」
「ふぇ!?え、いやっ、そのっ!!………そういう事をいきなり言うのは反則だろう」///
そのまま私の方へ近づき、私の手から金属の何かを受け取って袖へと付ける。
「これはカフスシャツと言ってね、ちょっと特殊な形のシャツなんだ」
金属のカフスと呼ばれるモノを袖につけ、付け襟を付けて、ベストを着せる。
「先輩、昔の人ってボタンの数で偉さをしているんですか…?」
ベストについたぼたんのかずを見て呆れる私に、同調する先輩。
「本当にそうだったんじゃないかって疑わしい…これを見るとね」
全部ボタンをして、最後にジャケットを着る。
5つすべてのボタンを締め、先輩に剣帯を付けてもらって短剣も吊る。
「そういえば髪は結った方がいいよね?」
そう言うと先輩は私の返事を聞かず、髪をゆい始めた。
「軍人さんって設定だからね、ちょっと雑にするけど許しておくれ」
髪結いが終わり、制帽を受け取りかぶる。
髪は邪魔にならないように後ろで雑にまとめているだけだが、鏡に映る私の姿はまさに物語に出てくる青年将校といったものだった
そして最後に制帽をかぶり、私はまさに青年将校といった風貌になっていた。
読んでくださりありがとうございました。
次話もどうぞ、よろしくお願い致します。




