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左近の桜、右近の橘。  作者: みんくん
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第33話

いきなりだけど、今現在、私と先輩はほぼ完全に同棲状態にあると言えるだろう。

と言うのも私がこの家で暮らすことになってもう1ヶ月は経っている、大体文化祭の計画を始めたのがそれくらいだから多分1ヶ月くらいだろう。

その間毎日のように先輩と一緒にいる。


それこそ授業中に先輩と離れる事すらちょっと寂しく思うくらいにだ。

私は恋人に依存するタイプだったんだなぁと気づく。


「左枝、今日の夜ご飯は何が食べたい?」

「それは私が先輩に聞く事です、先輩なのが食べたいですか?」

「うーん……ハンバーグ、かな?」

「ハンバーグ、いいですね、それじゃぁ帰りに商店街寄って帰りましょう」

「そうしようか」


私は実家の近所にある商店街へと向かった。

と言うのもいつも私と先輩は学校帰りにこの商店街へ来ていた。

昔馴染みな人ばかりでみんな仲良しだからか、よくオマケをくれたり安くしてくれたりする。


「左枝ちゃん、今日も来たね!今日はひき肉が安いよ!どうだい?」

実家のすぐ近くにあるお肉屋さんだ。

いつもお肉はここで買っていて、メンチカツとかお肉とか色々とおまけしてくれる。


「左枝、ひき肉が安いって!ちょうど良かったじゃないか!」

「フフフ、ですね」

「お、何だ?今日はハンバーグだったのか?」

「はい、そのつもりで来ました」

「なら丁度いい!よーし!おじさんさらに安くしちゃうぞ!」

「ありがとうございます」

「いつも贔屓にしてもらってるからな、んでどれくらいいる?」

「それじゃぁ…750g程お願いします」

「よし、ならこれはおまけだ!」


ひき肉と一緒に隣の牛肉まで袋に入れてくれる。


「いいんですか、こんなに?」

「いいって事よ、美人さんに良い事するといいことが帰って来るって言うしな!それはそうと左枝ちゃん、大和蜜柑の新刊出るって知ってるかい?」

「え?」

「あーその顔は知らなかった顔だな、なんでも近々出るらしいよ」

「へ、へぇ…」


私は知っていたが一般に出ていない情報だ。

やはりこう言う所で私は小説家になったんだなぁと実感する。

こう言う普通とちょっと違うなにか、そんな事がある時にふと昔の自分はこうだったなぁなんて考える。


「今のカミさんとも大和先生の本のおかげで出会えたしな…本当に大和先生サマサマだね」


先輩がニヤリと口角を上げる。

あ、これ面白いこと思いついたって顔だ…。


「じゃぁ左枝、そろそろ行こう、日が暮れてしまうよ」

「え?、あ、そうですね、それじゃぁまた来ますね」

「おうよ!また来てくれ!」


それにしてもあの顔は私の見間違えだったのだろうか?

「左枝、あの人は私のファンらしい」

「なら左枝と私の本が出たらあの人にサイン本を上げればどうだろうか?」

「え?サイン本?」

「そうさ、いつも安くしてくれるからね、ありがとうの気持ちを込めてなんて、どうだろう?」


さっきお店の前で思いついたのはこのことだったのか、そういうことなら…。


「いいですね、それじゃぁいつもお肉安くしてくれてありがとうって一緒に書いておきますか?」

「それはいい、あの人は驚いて目をまん丸に開くだろうねぇ」

「あー想像がつきますね」


目をまん丸にして驚くお肉屋さんの姿が目に浮かび、私と先輩はフフフと笑った。



「今帰ったよ」

「お帰りなさい先輩、ただいま」

「お帰りなさい左枝」


いつものやり取りをして、私は冷蔵庫にお肉を入れて寝室へと向かう。

戸を開けると既に先輩は制服を脱いで下着姿になっていた。


「左枝はエッチだなぁ、僕の着替えを覗くだなんて」

「毎日見てますしエッチも何もないですよ…それならいつも私がお風呂入ってる時に入ってくる先輩の方がエッチです!」

「なっ…!………!!」


言い返せなかったのか、色々考え目が泳いでいた。


「それよりも左枝も着替えてしまおう…それにしても、このスカートも洗ってしまいたいなぁ…」


上はブラウスにセーターやカーディガンを着ればいいが、スカートは冬服のままだ、以前洗濯したのがこの家に来てすぐの事だから一ヶ月くらい前だろう。


「あー確かに洗いたいですね…でも明日も学校ありますよ?」

「うーん…」

「うーん…」


考え込む先輩と私の間に沈黙が募る。

ふと先輩を見るとパッ!と何かを思い出したかのように顔が明るくなった。


「左枝、そういえば文化祭期間中は制服以外での登下校及び学校生活が許可されているんだ」

「あーそういえば私服のひとたくさんいましたね、今日」

「そう、つまり僕と左枝も私服で行けばいいじゃないか」

「え?学校にですか?」

「そうさ、明日は一緒に学園祭を回るんだろう?制服で回るよりも新鮮でいいじゃないか」


そう言う先輩はクローゼットを開けていろいろな服を充てがって鏡を見ている。

ふとクローゼットを見ていると、一番端のクローゼットは、私がここに来てから一度も開いたことがない事に気づいた。


と言うのも先輩の寝室のクローゼットは壁面収納になっており、ブロックが3つに分かれているのだ。


全部が一気に開くタイプではなく、大きめのクローゼットが三つ並んでいるのと同じ状態だ。


「先輩、そのクローゼットって私がここに来てから一度も開いたこと無いですけど…なにか開けないような事情でもあるんですか?」

「ん?ここかい?」


先輩は一番右側のクローゼットを指さす。


「はい、その、御札貼ってあったりとか…?」


そう言うと先輩はカラカラと笑う。


「左枝、僕がどれくらいお化けが怖いか知っているだろう?そんなものが貼ってあったら僕はこの部屋は開かずの間にしてしまうね」


笑いなが言う先輩はゆっくりと溜める様にクローゼットを開けた。

読んでくださりありがとうございました。

次話もどうぞ、よろしくお願い致します。

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