第28話
私は放課後、私の家に先輩と一緒に向かっていた。
親を説得して先輩の家に止まらせてもらうためである。
時間は遡って数時間前の部活中のことである。
「左枝、そういえば今日も家に来てくれるのだろう?君のお父さんお母さんにしっかり話しておいたほうがいいんじゃないのかい?
「はい、なので今日着替えとか取りに行くときにお母さんたちを説得しようと思うんです」
「そうか、なら僕の家で一緒に小説を書くということにすればどうだろうか?」
「小説ですか?」
先輩は大きく頷いた。
「君はまだもう少し先だが一応もうプロの小説家だ。それに僕みたいに人の声がするところで文字を書くのが苦手という人はそう少なくない」
「合宿みたいな感じですかね?」
「合宿…いいね、ならこれは文芸部の合宿といったところかな」
と言うやりとりがあって冒頭に戻る。
「左枝はいつもあのノートパソコンで小説書いているのかい?」
「はい、出先とかではノートとか原稿用紙に書く事もありますね…まぁ集中しすぎて周りの声が聞こえなくなる事があるのであまり外では書きませんけど…」
等と話しているとすぐに家に着く。
「お母さんただいまー」
「お、おじゃまします…左枝、本当にいいのかい、上がっちゃって」
「大丈夫ですよ、お母さん、先輩来てくれたよ!」
奥からパタパタとスリッパを鳴らして来るお母さんは満面の笑みだった。
「右葉さんいらっしゃい!何もおもてなしできないけどゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」
母と先輩のやり取りがこのあと少し続き、私がそこに割り込む。
「あ、お母さん、今日からしばらく先輩の家に泊まろうと思うの」
「え?」
「左枝さんももうプロの作家です。私もそうなのですが、人の声があるかけないという人はたくさんいるんです、だから左枝には静かな私の家で執筆に専念させてあげたいんです」
「で、でも…」
先輩は優しい微笑みを顔に浮かべている。
「ご心配されるのも仕方ありません。私の様な小娘に大切な娘さんを預けるのですから」
「あ、違うの、ご迷惑じゃないかなぁって…」
「これはその…ぼk…私が提案したことなんです、左枝さんももうプロ、ならば僕の技を、技術を見てなにか盗めるものがあれば盗んで欲しい、彼女の小説のファン一号として」
母と先輩のやり取りをただ見ているだけの私。
と言うかいい加減玄関先でじゃなくてリビングにでも移ったほうがいいじゃないだろうか。
「先輩、お母さんも、こんなところじゃ積もる話もできないしリビングに行けば?」
「あらやだ、ごめんなさいこんなところで立ち話させちゃって!ささ上がってちょうだい」
「お邪魔します」
丁寧にお辞儀をして家に上がる先輩。
なんというかこういう律儀なところも大好きだ。
「おかーさん、お客さん?」
「えぇ、左枝のお友達の立花右葉さんよ」
「うっわ、近くてみても超美人…髪サラサラ…ちょっと好きになっちゃうかも」
「お姉ちゃん!!」
必死に姉を先輩から引き剥がす私。
「ちょっ、何よちょっとした冗談でしょ…別にあんたの彼女を取ったりしないわよ」
「カノっ…」///
「えっと…誤解されているようですが私と左枝はあくまで部活の先輩後輩、仕事の先輩後輩であってそのような関係ではありません…以前話したとおり仕事を手伝ってもらい、また手伝っているだけでやましい関係ではありません」
にこやかにスラスラと嘘を言う先輩に私はちょっと嫌な気持ちになる。
これはもう先輩の家に行ったらいじめてやる。
「なんだ、本当に彼女じゃないんだ…つまんないー!」
「こらみっちゃん、右葉さんに失礼よ」
「はーい」
お姉ちゃんはつまらなさそうな顔をして部屋へと戻っていった。
「それで右葉さん、さっきの件なんだけども…」
「あぁ、そうでしたね、ぜひお願いできませんか?」
「本当に迷惑じゃない?」
「はい、これば僕が提案して無理言って家までついてきたんです、一人暮らしはこう、どうも寂しくて」
ハハハと笑う先輩と真剣な顔つきのお母さん。
「あ、あの…」
「思い出した!」
お母さんが大きな声を出して私と先輩の肩が跳ねる。
「ちょっとまってね右葉さん、今持ってくるから」
何を?私も先輩も頭の上に?マークが浮かんでいたに違いない。
ちょっとしてお母さんが帰ってくるとその手には料理に付いて書かれているのであろう本を持っていた。
「右葉さん、あなたあまり自炊ってしないんでしょう?さっちゃんの料理の腕は私と同じくらいですごく美味しいの、だからこれも持って行って?きっと役に立つわ」
美味しそうな料理の写真と作り方が綺麗にまとめられていた。
ふと裏を見てみると桜千代著と書かれている。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?お母さんなのこの本書いたの!?」
「えぇ、これでもお母さんもプロなのよ!」
ふんすと無い胸を張る母、と言うか本当に知らなかった。
「そのプロと同じ腕とは…左枝のご飯がどうりで美味しいわけだ」
「あら、もう左枝のご飯食べたの?」
「はい、今朝の朝食とお弁当に…本当に美味しくてちょっと食べ過ぎてしまいました」
「でしょう?更に作っているのがこんなに可愛い子なんだもの、もう食べ過ぎちゃうわよね」
親バカだなぁ
そんな事を思いながら私はふたりを眺めていた。
読んでくださりありがとうございました。
次話もどうぞ、よろしくお願い致します。




