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左近の桜、右近の橘。  作者: みんくん
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第22話

【左枝視点】


先輩が話をしている時、今にも折れてしまいそうな程に先輩は弱々しく見えた。

そこにいるのはいつもの先輩ではなく、心の大きな傷を抱えた弱々しい少女。


私は先輩を抱きしめた。力いっぱい抱きしめて耳元で囁く。

「先輩、大丈夫ですよ、大丈夫です…私は先輩を置いてどこかに行ったりはしません」


「…本当かい?」

今にも消え入りそうなそんな小さな声が先輩から聞こえた。


「はい、本当です、これでも私は先輩の事が大好きですから…それこそ一秒たりとも離れたくないくらいに…」

「左枝、君は優しいね…本当に優しいね」


静かに涙を流す先輩の頭を私は撫でた。


大丈夫、大丈夫。

先輩の耳元で囁き、左手で背中を優しくぽんぽんとしながら右手で頭を撫でる。


「左枝っ…僕は…僕はっ!!」

「先輩、大丈夫、大丈夫ですよ」

「くっ…!」


声を押し流して泣く先輩を見て私も泣きそうになる。

でもここで泣いてはいけない、先輩は今、頼れる人は私しか居ないのだから。


「左枝はもう、どこにも行かないでおくれ…僕のそばに居ておくれ…」

「はい、ずっと先輩の隣にずっと一緒にいますよ」


優しく語りかけるとコクコクと胸の中で先輩は頷く

このまま先輩はしばらく泣き続けた。


「先輩、落ち着きましたか?」

「うん、その…格好悪いところを見せてしまったね…この話をするのは君が初めてだよ」

「あれ、宮古先輩にも話したんだと思ってました」

「さっきみたいになったらその…恥ずかしいじゃないか」


やっぱり先輩はいくら大人っぽくても、いくら格好良くても、やっぱり普通の女の子なのだ。16歳の普通の女の子。


「左枝、今失礼なこと考えてただろう?分かるぞ、その目」

先輩がジト目で見てくる。正直アニメ以外でここまで綺麗なジト目を久しぶり見た。


「失礼なことってなんですか…私はただ、先輩は普通の可愛い女の子だなぁって思ってただけですよ」

「ふ、普段は可愛くないのかい…?」

「あ、先輩もそう言うのは気にするんですね…」

「こ、これでも一応は女の子だからね…それに僕だってその…好きな女の子の前では可愛くありたいと思うよ」


顔を真っ赤にしてさっきとはちょっと違う、でも消え入りそうな声で先輩が呟く。

綺麗な黒い前髪で目が隠れて、でも肌が白いから顔が赤いのが一瞬でわかる。


「先輩、大丈夫、可愛いですよ…そんな先輩が私は大好きですよ」


思わずおでこにキスをする。


「左枝は意地悪だよ…本当に」///


いつもの調子が戻って来た様だ。ひとまず私は安心した。


「それで左枝、そろそろご両親に連絡したほうがいいんじゃないかい?」

「え?」

「え?」


最初のえ?が私で次のえ?が先輩。

え?何を言っているんだろう、今から帰っても十分間に合う時間だ。


「え?だって今日一緒に居てくれるんだろう…?ち、違うのかい…?」


一気にシュンと萎れる先輩を見て私は即座に携帯を取り出した。


「あ、お母さん、先輩の家に今日泊まるね、それじゃぁ」


何も言わせず電話を切った。電源も切った。これで完璧だ。


ム゛ーム゛ーム゛ーム゛ー


「あ、先輩、電話来てますよ」

「僕に?誰からだろう…」


「はい、もしもし」


先輩は一瞬ニヤっとした顔になって私に電話を差し出した。


「え?私ですか?」

「らしいよ」


電話を変わると、母の声が聞こえた。


「別に反対とかしないから、電話の電源は入れておいてね?」


そう言うとブツっと切れた。

と言うか先輩いつの間に母と番号を交換していたのだろうか。


「さぁ左枝、僕は話したよ…よければ君の話も聞かせてくれないかい?」


そう、あれは私がまだ中学一年生だった頃の話だ。

読んでくださりありがとうございました。

次話もどうぞ、よろしくお願い致します。

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