第18話
そろそろ春も終わり私も先輩も冬服から夏服へと移行していた。
そもそもうちの学校はこの期間は冬服、この期間は夏服と言う細かな決まりがなく、寒ければ冬服、暑ければ夏服を着なさいと言う感じなのだ。
自由というか何というかといった感じである。
「熱くなってきましたねぇ…」
「本当だねぇ…それにしても左枝、夏服も似合うねぇ」
「先輩だって、黒い髪と白いブラウスがすごい合ってて、その…綺麗です」
「そ、そうか…ありがとう…」
「い、いえ…」
真っ赤になる私と先輩。
「そ、そうだ、今日の放課後、いつもの喫茶店で杉浦さんが待っているって」
「あ、わかりました、原稿取りにお家に一度戻ってもいいですか?」
「ならついて行くよ、あ、そういえば予約していた本入ったかい?」
「あ、そういえば今日入る予定でしたね、ならその時一緒に」
杉浦さんとの打ち合わせは基本的に先輩と同じ時に行われていた。
先輩のと一緒の方が安心するだろうと言う配慮なのだろう。とてもその配慮がありがたかった。
「じゃぁ先輩、そろそろ帰りますか?」
「そうだね、今日はもう帰ろう」
パタンと音を立てて先輩は本を閉じた。
場所は変わってうちの本屋さんにて
「えっと…お会計が…先輩、さすがに買いすぎじゃないですか…?」
「いやはや、最近読んでも読んでも満足できなくてね…気づけば本棚に入りきらなくなっていたよ…」
タハハと苦笑い
「よし、本も無事ゲットできたしそれじゃぁ行こうか」
「はい」
喫茶店へ入りいつもの奥の席へと向かう。
そこには既に杉浦さんが座っており、とても美味しそうにパンケーキを食べていた。
「杉浦くん、そのパンケーキ美味しそうだね、僕に一口おくれよ」
ビクッと肩を跳ね上げ私達の登場に驚く杉浦さん。
と言うか今聞き捨てならないことを聞いた気がする。
「先輩、今なんと?」
「い、いや、何でもないよ…?」
泳ぐ先輩の目をジッと見ると先輩は諦めた顔で続ける。
「ごめん左枝、今のは私が悪かった、許しておくれ」
「仕方ないですね、許してあげます」
「やった」
いざ打ち合わせが始まれば三人とも目の色が変わる。
さっきまでパンケーキを食べて「ん~」と幸せそうな声を上げていた杉浦さんも出来る女といった感じでピシッとなる。
「では大和先生はそう言う形でお願いします、続いて小桜先生ですが修正原稿を見せていただいでも大丈夫でしょうか?」
「はい、これです」
手渡すとパラパラと読み始める。
数分たったくらいで最後の一ページを読み終わり私のほうを向く。
「いいですね、大分よくなったと思います。では小桜先生に関してはこちらの方を完成稿としての提出でよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
すべての原稿の修正が終わり、これで私のできる執筆作業はほぼ全て終わった。
本の発売に一歩近づいた私は今更ながらプロの小説家になったのかと言う実感を得ていた。
「それではこれからは桜さんと立花さんに質問なのですが…」
杉浦さんは仕事ではペンネームを、プライベートでは本名を使い分けており、私もそのほうが切り替えやすいから割とありがたかったりする。
「お二人が自分は女の子が好きだと気づいた瞬間というのを教えて欲しいのですが…いいですか?」
杉浦さんはこの手の質問は強要はせず、一々確認を取ってくる。
それこそこの話題を出すことにすら許可を取ることもある。
「すまないね杉浦くん、僕自身まだ左枝には話していないんだ…だから…もう少し待ってくれないかな?」
「そうですか、わかりました。それでは大和先生、修正の方、お願いしますね」
杉浦さんはあっさりと話を切り上げ残っていたパンケーキを食べて出て行く。
そのてきぱきとした動きに圧倒されていた。
「左枝…やっぱり左枝には話しておかないといけないね…僕が女の子を好きになった理由を」
先輩はそう言うと席を立って喫茶店を出た。
「左枝、今日僕の家に来れるかな…?」
どうやら私は先輩の家に行くことになったようだった。
読んでくださりありがとうございました。
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