第16話
あの例のキスの件から数日が経ち、私と先輩は部室で何気ない話をしていた。
「それでそうそう、あの作品が」
ガガガ
先輩の話の途中で上の階から何かを引きずる様な音がする。
先輩を見ると完全に固まっていた。
「先輩?どうしたんですか…?」
「い、今何か聞こえたかい…?」
泳ぐ目と青くなる顔。
「えっと…強いて言うのなら上の階から何かを引きずる音が聞こえましたね?」
「…左枝、この旧部室棟はね…その…文芸部しか使っていないんだ…」
真っ青な顔で震えながら私に新事実を打ち明ける先輩。
確かに静かだとは思っていたけどまさかここを使用しているのが私たちだけだとは思わなかった。
「そういえばなんで文芸部だけこっちなんですか?新しい部室棟の方が綺麗だし部屋も余ってるらしいじゃないですか」
「それは色々理由があるんだけど…僕は人の声がすると文章が書けなくてね…うるさい向こうじゃ本を読むのも難しくて…そのことを相談したら仕事だし仕方ないと言って顧問が上に掛け合ってくれたのさ」
「そうだったんですね…」
じゃぁ今の音は…
「文芸部以外使っていないなら今の音は何なんでしょう…?」
「ししし…知らない!わ、私には関係ない!!」
僕から私になった…しかもめちゃくちゃ震えている…もしかして先輩って…?
「先輩、もしかしてお化けとかダメな人なんですか…?」
ビクッと肩が跳ね上がり私の方をギギギと言うかの様に見る。
「ななななな、何を言っているんだ!わ、わたっ‥僕がお化けが苦手だって!?」
あ、これ黒だ…
「そそそそそ、そんなわけが、な、ないじゃないか!!」
ガガガ
「いやぁぁぁ!!!左枝!助けて!!」
涙目になりながら私に縋る先輩。
腰に抱きついて泣いていた。
「僕怖いの本当にだめなんだよ…もう嫌だ…今年になって無くなったって安心してたのに…」
なんでこんなに怖がりな先輩がここに居続けられたのかの方が個人的には気になる。
「先輩、去年一年間一人だったんですよね…?よく一人で居れましたね…」
「だ、だって仕方ないじゃないか!!お仕事なんだもん!!こんな怖いまま家帰ってそこでも同じ事になったら僕お家に帰れなくなるぞ!!」
泣きながら叫ぶ先輩。
私もそこまで得意と言うわけでもないけどここまで取り乱している人が居てなんというか怖い感じはしない。
「うーん…見に行ってみます?上」
「やだ!!絶対に嫌だ!!」
「じゃぁ私見てくるので先輩はここで待っててください」
歩き出そうとすると腰に巻かさっている先輩の腕がさらに強く私の腰を締める。
「行かないでおくれ…本当に怖いんだ…左枝がいないと僕は…」
比喩等抜きにガチ泣きしている先輩を見て不謹慎かもしれないけどもちょっと萌えた。
「よしよし、先輩、怖くないですよ、私が居ますから…怖くない、怖くない」
優しく頭を撫でる私とまだ泣いている先輩。
今思えば大和先生の作品が一時期とても弱々しかったのはこのせいだったのか
ガガガドンドンドンドン
何かを引きずる音と一緒に床をどんどんと叩くような音までする。
ビクッと跳ねる先輩の肩と天井を見る私。
ふと扉を見るとそこには人影が見える。
「きゃぁっ!!」
「うわぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁあ」
先輩はパニックに陥り私が必死になだめる。
「嫌だ嫌だ!!来るな!嫌だ!!」
私に必死に抱きついて来る先輩は可愛く、こんな状況なのにちょっと体が疼いた。
ゆっくりと開くドアを凝視するとその先には…
一年生の国語担当の先生が立っていた。
「うわっ、何で立花泣いてるんだ!?え!?何があったの!?」
身長は180を超えており、スーツが異様に似合う格好いい人だった。
顎の武将髭がさらに映える
「え?山ちゃん…?」
先輩は先生の顔を見て固まる。
「え、桜何でコイツこんなに泣いてるの…?」
「えっと話せば長くなるんですけど…」
カクカクシカジカ四角いキューブっと
「え?上から物音がする?もしかして…」
「心当たりあるんですか?」
「いやな、昔この部室棟でな…亡くなった生徒が」
「聞きたくないぃぃぃぃ!!!」
耳を抑えてしゃがみ込む先輩。
「居た訳ではなく昔この部室棟で小さな火事があってな…3人の学生がタバコ吸ってたんだよ…そんで小さく火事になってな…すぐに火は…って桜お前何て目してるんだよ!怖い怖い!!」
「もう!先輩本当に怖がってるんですからいじめないでください!相手が先生でもこれ以上やるなら私許しませんよ!!」
先生のネクタイを掴み上げ言い放つ。
「ごめんなさい!もうしない、もうしないから許してくれ!!頼む!!」
「謝る相手が違うでしょう!!私に謝ってどうするんですか!!」
「立花、すまん、悪気が無かったわけではないがその…すまん」
シュンと萎れる先生を見てしょうがなく許してあげることにした。
「それで、何か思い当たることはあるんですか?」
「あ、あぁ…どうやらその一件が生徒にも広まっているみたいでな…もしかしたらまたここで悪さをしている生徒がいるんじゃないかと思ってな…」
「つまりお化けとか幽霊じゃなく生徒の仕業ってことですか?」
「あぁ、お化けの可能性は0とは言えないが多分生徒だな…よし、ちょっと見てくるわ」
先輩は心配そうに先生を見ている。
「大丈夫だって、俺これでも神社の息子だぜ、三男だけど…神様がしっかり守ってくれるさ!」
ニカっと笑う先生を見て先輩もこくりと頷いた。
30分後、先生の怒鳴り声と聞こえてくるドタドタと言う足音
部室棟から出ようとしても扉がうまく開かず逃げ遅れた男子生徒5人は先生に連行されて行った。
そして数日後、私は先生に呼び出され、あの一件の結末を聞いた。
「俺があの日連れて行ったのは5人だったよな?」
「はい、そうですね」
「その五人からな、しっかり生徒手帳を没収して名前とクラスを確認したんだ」
「はい」
「3年ってクラス何個あるか知ってるか?」
「えっと…8ですか?」
「あぁ、8クラスあるんだがな…一人の生徒手帳は3年10組になっていたんだよ」
「どういう事ですか…?」
間を十分明けて先生は語りだす。
「20年前は3年生も13組まであってな、その時に部室棟じゃないんだが一人生徒が亡くなってるんだ…」
「も、もしかして…?」
「あぁ、その亡くなった生徒の名前は三口 和也…遺体は綺麗に残っていたんだがカバンやら何やらが未だに見つかっていなかったんだ…」
すっと机の上に出した生徒手帳には三口 和也と言う名前が書かれていた。
「え?つまり…?」
「あのあとあの部室を先生方で夜に色々と物色してみた。元々はそいつらのタバコやらが見つかるかもしれないってことで始めたんだが…そこにあったんだわ、この三口和也のカバンが…」
先生は机脇に掛けてあった古いカバンを私に見せる。
「それとな、あの時居たほかの四人はこの三口和也にバレない良い場所があるって誘われてあの場所で悪さをしていたらしい」
「もしかして…?」
「そうなのかも…しれないなぁ…」
多分このカバンを見つけて欲しかったのかもしれない。
先生は生徒手帳を眺め、深いため息をつくのだった。
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