第12話
とある喫茶店の一角で打ち合わせは行われていた。
プロと編集さんの会話を、仕事を間近で初めて見た私は只々圧倒されていた。
「それではここのシーンはこういう形で大丈夫ですか?」
「うん、それが最良だね、あとここなのだが…」
「はい、確かに…」
先輩の顔はいつにも増してすごい真面目でいつもの冗談をいう人とは別人のようだ。
「それでは今回のテーマはこちらでよろしいですか?」
「うん、これで頼むよ」
「はい、ではこれで進めさせていただきます。それと…」
先輩の担当編集さん、杉浦さんが私の方を向く。
改めて見てみると杉浦さんも相当綺麗な人だ。特に目が大きくてすごい綺麗だ。
「杉浦くん、すごい綺麗な女性だろう?でも左枝、浮気は許さないよ」
冗談めかして言う先輩の声は幾分かいつもよりも硬いものだった。
「せ、先輩っ、その話はっ!」
「あぁ大丈夫、杉浦くんはすべて知っているからね」
「え?」
ニコッと笑う杉浦さん
「大和先生からは色々と伺っていますよ、相思相愛で二人共一目ぼれだったとか」
「こ、こら!杉浦くん、あんまり大きな声で言わないでおくれ!は、恥ずかしいじゃないか…」
「すいません、つい」
楽しそうに笑う杉浦さんと翻弄される先輩。
「もうチューもしたんですよね?若いなぁ…」
「ちゅっ…!」///
「杉浦くん!やめておくれ!さ、左枝が真っ赤になっているじゃないか!!」
「あれー?でも大和先生も真っ赤ですよ?桜さんだけじゃないみたいですねぇ」
「あーもう!なんで僕の周りには意地悪な人ばっかり集まるんだ!!」
カラカラと笑う杉浦さんとこうは言って12:57 2017/05/08も笑顔の先輩。
「あ、ごめんなさい、それで聞くところに拠ると桜さんは本日原稿を持ってきて下さったとの事なんですけど…もしかしてそのカバンですか…?」
私の横に置かれたパンパンに物の詰まったカバンを指差す。
「はい…その、もし面白くなかったらと思って…いっぱい持ってきちゃいました…」
「ゴクリ…」
「すごいだろう?左枝は…書くスピードもさる事ながら内容もしっかりしていてね…」
「ほう…」
「正直、恋愛ものとして比べたとき…僕の完成品と彼女の原稿を比べて尚、彼女の作品の方が面白かったよ」
さっきまでの冗談を言ってた顔から真剣な顔に戻る先輩。
「それは楽しみですね…」
「正直私は昨日これを読んでとても悔しかったよ…僕じゃ思いもよらないような事をポンポンと出してきて、僕が得意だと思っていた描写を楽々と超えていくんだ…」
「それほど…」
「僕は正直彼女にこの分野では勝てる気がしない…そう感じたよ…圧倒的な壁だった」
嬉しかった。ただただ嬉しかった。先輩がプロと聞いたときにはすごくショックだった。
近くに感じていた先輩も実はすごい遠くに居て、私は追い付く事ができないと思っていた。
だからこんな風に私の作品を褒めて、認めてくれる事が心の底から嬉しかった。
「桜さん、今日持ってきてくれたので全部ですか?」
「い、いえ…もっといっぱいあるんですけど、その…バックに入りきらなくて…」
頭を抑える杉浦さんと開いた口がふさがらない様子の先輩。
因みにこの場合実際に呆れというのも含まれているのだろう。
「因みにそのカバンにはどれだけ入っているんだい?」
「えっと…いちに…」
指を折って数えてゆくが驚いたことに20を超えてしまった。
「えっと…わかる限りだと20は超えています…」
固まる杉浦さんと先輩。
「た、短編ですか…?」
「いえ…数えたわけではないんですけど…大体10万字は超えてると思います…」
「…」
動かない先輩と動かなくなった杉浦さん。
どうしていいのかわからなくて涙目になる私をみて先輩はニコニコしていた。
このやろう、覚えておけよ!!(涙目
「すいません、取り乱しました…それでですね、今回はとりあえず全部一度編集部の方へ持って帰ってそこで数人で読んでみますが構いませんか?」
「は、はい…その…よろしくお願いします!」
「はい、では原稿たしかにっ!!!重ッ!?」
私から原稿が詰まったカバンを受け取ると杉浦さんの手に渡った瞬間、そのカバンは重力に引かれて床へと迫る。
「うわっ、なにこれ、左枝、君は今日一日ずっとこれを持っていたのかい?」
「え?はい?」
そこまで重かったかなぁと考えるがやはり別にそこまで重いわけではないと思う。
「そんなに重いですか…?」
「ほ、本屋の娘恐るべし…」
「コホン、では後日、日を改めて結果をお伝えしますので電話番号…聞いても大丈夫ですか?」
「は、はい!」
このために準備していた電話番号とメールアドレス、それからLINEのアカウントIDが書いてあるメモを渡した。
「それでは本日はこれで打ち合わせは終了となりますが、お二方から何かありますか?」
「杉浦くん、この子のペンネーム聞かなくていいのかい?」
「そうでしたっ!すいません、桜さんのペンネームを聞いてもよろしいですか?」
「小桜…小桜 恋歌です」
「小桜恋歌…いい名前ですね…それでは私はこれで失礼します」
会計をして出て行く杉浦さんを見送る私と先輩。
「いい人だったでしょ?杉浦くん」
「はい…これから何度もお世話になるような気がします」
「そうか…そうだね」
こうして私の初めての持ち込みはとりあえず終わったのだった。
読んでくださりありがとうございました。
次話もどうぞ、よろしくお願い致します。




