また研修!
オレは1時間半掛けて、撮影マニュアルを読破した。
残りは機材マニュアルだ。
今の時刻は14時ちょい過ぎだ。
機材マニュアルは今までのマニュアルより薄いので、30分あれば読み終えることができるであろう。
もう4時間以上会議室に缶詰め状態だ。
ちょっと小休憩がてら外の空気を吸いに非常階段の踊り場に出た。
「よう、休憩か?」
ネコが灰皿を持って一服していて、オレに声を掛ける。
オレは「はい」と頷き、手すりに寄りかかる。
外の綺麗な空気を吸ってリラックスしたかったが、ネコがいることと、タバコの煙で逆効果になってしまってタイミングの悪さを呪った。
「どこまでやった?」
「マニュアルですか?」
「それしかねーだろ!」
「あとは機材マニュアルだけですよ」
オレはここまで頑張った経過を「どうだ?」と言わんばかりのどや顔を見せる。
「読むだけなら誰でも出来るからな。問題はその後だ」
ネコは灰皿に吸殻を入れて、再びタバコを取り出して、火を付ける。
オレは昨日の調査が気になり、ネコに聞いた。
「比羅田の調査どうなりました?」
「今日は普通に出勤したから、あとは夜だな。今日はダルいから真っ直ぐ帰ってほしいわー」
ネコはタバコの煙をふぅーと外に向けて吐く。
「意外ですね、面白い展開が好きだと思ってましたよ」
「お前なー、現場に出たらこの辛さわかるぞ? 無事に研修終わったらだけどな」
「実技試験って難しいんですか?」
ネコはオレの質問に一瞬「何で知ってる?」って顔を見せるが直ぐにダルそうな顔に戻る。
「お前も探偵らしくなってきたってことか。実技試験は宅割りだ。おれからのヒントはここまで」
ネコは無言で手を上げ、灰皿を持って非常階段を上っていき、4階へ入る。
実技試験は宅割りか……
確か、二対象者の自宅を割り出すことを宅割りって言うんだっけな……
とういことは、実技試験に必要なスキルは尾行ということが分かったぞ。
オレは会議室に戻り、機材マニュアルを30分で読み終わらせ、尾行マニュアルを復習することにした。
尾行マニュアルを復習し終えたと同時に、会議室のドアにコンコンとノックされる。
「進み具合はどうだい?」
カッパが目を光らせて入ってくる。
「全部読み終えましたよ」
オレは4冊のマニュアルをカッパの前に出す。
「よく頑張ったね! でも本当に覚えたかどうかテストさせてもらいますからね?」
「どんなテストですか?」
オレはわざとらしくカッパに聞く。
「知りたいですか?でも楽しみは明日に取っておきましょう」
カッパは嬉しそうに笑いながら言う。
「今日は疲れたでしょう?上で弁当を用意したので食べてください」
そう言われるとそうだ、今日は何も食べてない。
急にお腹空いてきた。
オレはカッパとエレベーターに乗り、編集室へ向かった。
編集室のテーブルの上にはお弁当屋さんの焼き肉弁当が置いてあり、調査員達は既に食べ始めていた。
「ネコ、N区 二志河の案件なんだが、対象者の車輌に付けた発信器の電池をこれから取り替えてもらえるか?」
カメが弁当を食べながらネコに言う。
「は? 何でオレが? やだね」
「お前、仕掛けるの得意だろ?」
「そんなの理由にならねーし。それにその案件はカメと瓜坊のだろが」
ネコはご飯粒を飛ばしながら話すので、隣で弁当を食べている獏が嫌そうな顔をする。
「瓜坊は用事があるからお前に頼んでるんだよ」
「あいつまたかよ!? たまにはノロマなカメさんも動いてくださいよー」
ネコが嫌味たらっしく可愛いげのない顔をする。
「牛丼メガ盛り2つでどうだ?」
カメがネコに人差し指と中指を立てて提案すると、ネコは悩んでいる様子を見せる。
「プラス、ラーメンだ」
やるんかい!
オレが心の中でツッコミを入れたと同時に、同じ事をキツネと獏がシンクロしてツッコむ。
「それでは、ヒヨッコも連れてってください」
カッパはもう食べ終わったのかゴミ箱に弁当の容器を捨てながら言う。
「ヒヨッコ、マニュアルは完璧なんだろうな?」
「夜間での発信器の設置の際は、黒い服装で、周囲を十分に警戒して車輌に近付き、車輌後ろバンパーのナンバープレート付近に設置する、ですよね?」
オレは機材マニュアルの発信器に記載された文をそのままネコに伝える。
「お前にマニュアルにない現場の辛さを体験させてやるよ」
ネコはまた不適な笑みを浮かべながら楽しそうに言う。
何でもいいので感想よろしくでーす!