研修!
昨日、ネコの調査に同行した時に色々な事が起こりすぎて頭の整理がまだつかない。
あれから、結局皆はすすきのに飲みに行くことになって行ったらしいが、オレは正直、精神的にも身体的にも余裕がなかったので帰らせてもらった。
今日はカッパと研修を行う予定になっている。
研修って何やるんだろう?
ネコの話だと新人は調査に出る前に研修でほぼ退職するって言ってたな。
オレは着いていけるのだろうか? 大丈夫かな……
あぁ……憂鬱だ……
あれこれ考えながら家を出ると、あっという間にピース事務所前に着いていた。
「あ、ヒヨッコおはよー!」
瓜坊が車のキーをくるくる回しながらエレベーター前で一緒になる。
「おはようございます……」
「ヒヨッコはいつも元気ないねー! そんなんじゃ研修耐えれないぞー」
瓜坊はいつものように笑いながらエレベーターにオレを押し込む。
「あの……研修って何するんですか?」
「んー、色々なことだよー。今日分かるからお楽しみに!」
エレベーターが3階に止まると、瓜坊はオレを追い出すように背中を強く押して、エレベーターの扉を閉める。
「おはようございます!」
オレはカッパが会議室にいるものと思い、ドアを開けると同時に挨拶をするが、会議室には誰もいなかった。
ん? まだ来てないみたいだな
掃除でもしてるか。
オレは掃除用具入れから、箒と塵取りを取って会議室の掃き掃除を始める。
意外と早く終わり、通称ボス部屋と呼ばれる社長室の掃除をしようとドアを開けようとするが、鍵が掛かってるので止めることにした。
カッパは4階にいるのか?
いずれここに来るだろうが4階に行ってみるか
エレベーターに乗り、4階へ移動する。
あれ? 4階を通り過ぎたぞ。
しまった! ボタンを間違えて5階を押してしまった!
しょうがない……また押し直すか
5階でエレベーターの扉が開くと、なにやら話し声が聞こえる。オレはエレベーターの扉が閉まるのを中断し5階で降り、何も表記されてないドアに耳を当てる。
!!!
急に後ろから口を押さえられ、驚いて後ろを振り返る。
「静かに!」
カメとキツネがオレを屈ませて、ドアの奥の会話を盗み聞きしている。
「だから、無理と言ってるじゃねーか!そもそもおれは3ヶ月前から申請出してるんだよ!」
「お願い! 明後日はどうしても代わってほしいの!」
ネコと瓜坊の声だ!
何やら揉めてるみたいだ。
カメとキツネは怪しい笑みを浮かべながら盗み聞きに没頭している。
「前回もそうだったよな? 理由は何なんだよ?」
「それは掟破りになるよ?調査員のプライベートへの介入は禁止だからねー」
「なら、この話は無しだ! 大体よ、昨日の見舞金だってお前も共犯なんだからな? おれを脅しても無駄だからな!」
「わかったよ! 言うから……」
「ちょっと待て!! 誰かいるぞ」
ネコが瓜坊の話を中断し、ドアに近付いてくる。
「ち、厄介な能力だ」
カメが小声で呟いたので、横を見るとカメとキツネの姿は既にそこには無かった。
ドアが開くとネコは「お前一人か?」と聞き、辺りを見渡す。
「あ、はい。間違えて5階に」
オレはカメとキツネについては隠すことにした。
「まぁ、いい。おら瓜坊、出るぞ」
「う、うん」
「あの! すいません! 掟って何ですか?」
オレは思いきってネコに聞いた。
「おれ達の個人情報を探るのは禁止なんだ。もちろん会社の規則ではなく、おれ達で決めたローカルルールだ。お前の盗み聞きも審議もんだぞ?」
「すいません……知らなかったんです!」
「ヒヨッコは知らなかったんだし、許してあげてよ」
瓜坊はネコを宥めるように優しく言う。
その後、ネコと瓜坊は4階で降り、オレは3階で降りた。
「ヒヨッコおはよう、今日は編集室で朝礼やるから、会議室には誰も来ないからゆっくり研修しようねー」
カッパが会議室に入るなり声を掛けてくる。
「おはようございます。よろしくお願いします!」
「じゃー、早速だけど」と言いながらカッパは辞書並に厚いA4の冊子を4冊持ってきて、テーブルの上にドンと置く。
4冊の表面にそれぞれ[張り込みマニュアル]、[尾行マニュアル]、[撮影マニュアル]、[機材マニュアル]と書かれている。
すげー、ボリュームだ。
既に頭から煙が出てくる感じがする。
「とりあえず、読んで。今日はそれだけ」
「1日でですか??」
「何日掛けてもいいよ、終わったら報告してよ」
「そう言われましても……具体的な目標とかあると助かるんですけど」
「そうか(笑) 電話の面接でも言ってたね。ヒヨッコは頑張るタイプって」
カッパは分厚いマニュアルをポンポン叩いて笑っている。
「じゃー、今日中でやってみようか! ちなみに上にいる先輩方の最短記録は2時間だよ」
オレは一応、一番遅い人の記録も聞いてみた。
「1週間くらいかな」とカッパは笑いながら答え、「ちなみに新人のほとんどは読み終える前に辞めるよ」と付け加えた。
「それじゃ、頑張ってね!」
カッパはオレとこの分厚いマニュアル4冊を残して、会議室を出る。
さて、どれから取り掛かろう……
ってか、2時間でこの半端ない量を読んだやつって誰だ? ほとんど化け物じゃねーかよ!
読むだけなら簡単だが、最終的なまとめたテストがあるのは間違いないだろう。
しかし、このくらいで辞めるって理解できないな。
「よし! 張り込みマニュアルからいくか!」
オレは腕を捲り張り込みマニュアルを目の前に持ってきて読み始める。
ほう、ほう、なるほど……
ふむふむ
張り込みマニュアルは意外と楽しくて、苦もなく楽しい小説を見るように次々とページが進んだ。
張り込みマニュアルを読むのに1時間掛かった。
休憩なしで次に尾行マニュアルを取り、読み始める。
張り込みマニュアルと尾行マニュアルはセンスというか感覚によるものが多く、対象者にバレなければ正解で、パターンは何通りにもなるという。
尾行マニュアルは30分ほどで読み終えた。
コンコン
会議室のドアがノックされ、カメとキツネが入ってくる。
「今朝のことはどうも」
カメとキツネはオレの手を取り礼を言う。
「いえ、別に……それにネコも大した怒ってなかったです」
オレはぶっ通しで読んでいたので両手を上に伸ばし背中を反りながら答える。
「お礼にいいこと教えてあげるよ。それの最終テストは実技だよ。筆記テストはない」
キツネはマニュアルを指差しながら教えてくれる。
「最短記録の2時間って誰何ですか?」
オレはどうしても気になったのでキツネに聞いてみた。
「ゴリさんだよ。ゴリさんは俺達と違って特殊だからね」
「キツネ、それ以上はまずいぞ」
カメはキツネに口止めする。
「じゃー、またね」
カメとキツネは回りを見渡して警戒しながら会議室を出ていく。
「次は撮影マニュアルいくか!」
オレは昼食も取らずにマニュアル朗読を再開する
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