初尾行!
対象者が先程とは違う服装、カラーシャツにジャケットを着て玄関から出てくる。
「何処に行くんですかね?」
オレの心の声がポロっと出てしまった。
「二対象者のとこだろ?撮影中なんだ、少し黙ってくれるか?」
ネコは器用にビデオカメラの画面を見ながら撮影している。
対象者は車に乗り、張り込み位置とは逆の方へ去っていく。
「あの車を追えばいいんですか?」
オレは緊張からかハンドルを持つ手が震えている。
「待て!自宅の外観を撮るから」
もう何やってんだよ!
既に対象者は見失ってる、そんな余裕ないぞ!
「よし、車を出せ」
「はい!」
オレは焦りから急発進して対象者を追う。
「焦るな、この住宅街から大きな国道に出るには信号のない角を曲がるしかない、まだ国道には入れてないはず」
ネコがそう言った瞬間に、角で右ウィンカーを出して進入待ちの対象者車輌が見えた。
「ゆっくり行けよ、真後ろに並ぶと怪しまれる」
「わかりました」
うわ、めっちゃ緊張する
対象者車輌を直視するのも怖い
対象者車輌が国道に入り、同時に尾行を開始する。
「車での尾行は最低2~3台間に挟め」
「そう言われましても中々難しいです」
オレはルームミラー、サイドミラーを交互にチラチラ見ながら車間距離を30メートルほど空けて対象者車輌を尾行する。
「二対象者の自宅とは反対方向だ。もしかしたら駅で待ち合わせかもな」
ネコが国道の青い一般道路情報の標識を見て呟く。
「でも対象者は浮気する感じでは無かったですよ?」
「おれは十中八九浮気してるって言ったよな?」
ネコが後部座席から鋭い目付きでオレを睨んでいるのがルームミラーにハッキリと映っている。
「ネコさんも見たじゃないですか?あのキャッチボール」
「『さん』は付けるな! 二度目だぞ」
こえー、まじでネコみたいな目だぞ!
なんで先輩に『さん』を付けて怒ってるんだよ!
「お前は何も分かってないな、ヒヨッコがぴったりだ、対象者が左曲がるぞ」
「はい!」
こいつムカつくけど、集中力半端ないな。
悔しいけど今のオレはこいつと比べたらヒヨッコどころかゴミ虫レベルだ。
「ヒヨッコ、調査に感情移入するな。対象者が子供と遊ぶあの笑顔の裏を暴こうとするのが調査員の仕事なんだ。ただ黙々と追っ掛けてればいいんだよ」
「でも、これで浮気してたらなんか許せませんね」
「許す気ないから依頼してるんだろ?」
「そうか!慰謝料の為ですか!!」
「そう、初めから浮気は確定していて、依頼者は離婚する気満々で、慰謝料狙いの証拠として探偵に浮気調査を依頼する。だから浮気調査の依頼は十中八九浮気している。慰謝料狙いじゃなきゃ高い調査料払えないだろ。」
なんか嫌な業界だ
人の不幸を食い物にしてるみたいだ
オレに感情を捨ててロボットみたいになれって言ってるのか?
対象者車輌が小道の住宅街に入り、スピードが遅くなり、オレもスピードを落としてさらに距離を空ける。
「ヒヨッコ、よく見とけ」
「車ですか?」
「いや、もしかしたら……」
ネコは舌舐めずりをしてから、トートバックからビデオカメラを取り出して、楽しそうに目を輝かせながら撮影の準備をする。
「車を止めますか?」
オレはネコの言動と行動の真意が分からず、とりあえず聞いてみた。
「おそらく、そろそろ対象者車輌が停車する予感がする。停車したら距離を空けて、おれ達は待機だ」
「わかりました」
こんな所、資料になかった。
おそらくネコはこの後起こる出来事を予想した上で楽しそうにしている。
オレは考えられることをあれこれと推理しながら対象者車輌を尾行する。
「止まるぞ!」
ネコが叫んだ瞬間に対象者はあるマンションの入口前の路肩にハザードランプを点灯させ車を停車させる。
「ここで張り込むんですか?」
オレは対象者車輌から20メートルくらい離れた位置で車を停車する。
「いや、そこの角を左に曲がって、すぐに右に行く、そしてまた右だ」
ネコは後部座席から指を差して説明するがさっぱり分からなかったのでとりあえず左に曲がる。
「すぐ右!」
「はい!」
「あそこをまた右!」
ネコの言われた通りに進むと対象者車輌が右の窓から見えた。
「最後に右に曲がって、ちょい真っ直ぐで止めようか」
「これでは対象者が正面になりますよ?」
「これでいいんだ、さぁ誰が出てくるか楽しみだな」
オレから見て、対象者車輌と向き合う形で車を停車させる。距離にして10メートルもない。
対象者はタバコをくわえながら携帯を操作しているのでこちらに気付く様子もない。
ネコはわくわくしながらフロントガラス越しにビデオカメラを構えている。
こいつは何をそんなにわくわくしてるんだ?
オレの考えてる最悪のシナリオだとこの対象者はとんでもないろくでなしになるぞ。
それを喜ぶとか頭おかしい通り越して、人間として最低なことなんだぞ?
「ネコさ…ネコ、対象者に資料以外の二対象者がいるという可能性はあるんですか?」
「黙って見てろ、対象者が携帯から目を離してマンションの入口を見たら覚悟しとけ。それが真実だ」
「オレは対象者の友人の家だと信じたいです」
対象者が携帯を上着のポケットに仕舞い、マンションの入口を食い入るように注目しだす。
すぐにマンションの入口からハイヒールを履いた派手な服装と化粧をした若い女性が出て来て、対象者に手を振る。
資料の二対象者とは別の人だ!
しかもかなり親密な感じがする。
裏切った、こいつは!
家族、愛人、そして…オレまで騙された
「比羅田!!!お前は!!」
オレは対象者の名前を叫び、ハンドルを強く叩く。
「友人と愛人の線引きはどこからでしょうね? ヒヨッコ君」
ネコは笑いながら撮影している。
更新しました!引き続き感想お待ちしております(*^^*)
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