ゲーム開始 Ⅵ【父親】
広樹は父親のことをほとんど覚えていない。
小さい頃遊んでもらった気はするが、その記憶が思い出せない。
ただ覚えているのは名前だけ。
その男がかっこよかったのか、いい父親だったのか、優しいのか怒りっぽいのか何もわからない。顔も性格も思い出せない。
名前だけの父親。
小さい頃の写真を見ても広樹が一人で映ったものばかりだった。
ずっと思い出せなくてもいい、そう思っていた。だが、問題に父親の名前が映った時、広樹は何か思い出せそうな気がしていた。
その時に思い浮かぶのが広樹が使っていた魔法。
確かここを作った男も夕陽を閉じ込めた男も魔法を使いだったと聞いている。何かが引っかかる。
泥人間の言葉を思い出す。
「ここで魔法を使えた人は他に誰一人としていません。他の人はどんなに願っても何ら変わりありませんでした」
この言葉は広樹が魔法使いであるという証言のようなものだった。
薄々気づいてはいたが、ただ魔法使いだなんて信じたくなかったのだ。
広樹は魔法で消されたであろう記憶を取り戻さなければ、この問題は解けないと思った。
記憶を探って行く。
「これじゃない、こんな事思い出したくない! ちがう!」
目を瞑り記憶を辿るが、嫌な思い出ばかりでてくる。
何度もそれを繰り返していると一人の男と母さんの姿が見えた。それはなにやら言い争いをしているようだった。
「広樹にそんな事させないわ! あの子は普通の人間として私が育てるの」
「俺はただ俺の世界を継いで欲しいだけなんだ! どうしてわかってくれない! あの子は魔法使い、俺の子だ!」
「あなたの子であり、私の子でもあるわ。あの子は魔法使いなんかじゃない私は信じない! 早く出てって頂戴」
「いつか必ず、俺が死ぬ前に……」
そこで力尽きたように広樹は現実へと引き戻されてきた。その一つの会話で全て思い出すことが出来た。
広樹が小さい頃に父親が広樹に魔法を教えようとしていたこと、そしてここの世界を作ったのは広樹のためだという事が分かった。
広樹は小さい頃に何度もここへ連れられていたことがある。魔法を練習されられていたのだ。そのことを忘れていたのは全て母の所為だった。
さっきの会話だけでは母は普通の人間だと思う。だが、他の記憶も辿れば彼女は立派な魔女だということがわかった。彼女は自分が魔法使いだと受け入れたくなかったのだろう。
広樹さえ普通の人間として生きていければ、彼女は自分も普通の人間になれるとでも考えたのかもしれない。
「親父じゃなく母さんに記憶を消されてたなんて」
広樹は少しショックを受けていた。あんなに愛して育ててくれた母なのにと少し俯き涙が出そうだったその時……。
「答えはわかったかな?」
いきなり部屋が明るくなりスクリーンに新たに文字が映った。いきなりで広樹は少し驚いた。スクリーンや問題の事を忘れかけていたのだ。
だが、答えはもう分かっている。広樹は立ち上がり溢れそうだった涙を抑え、口を開いた。
「川上……川上雅樹」
小さくそう呟くとスクリーンに文字が映された。
「正解です。そんな貴方にメッセージがあります」
そう書かれた後にどんどんとたくさんの文章が流れていく、それは全て父親からだった。
「広樹、俺はお前の父親。川上雅樹だ。
よく思い出してくれたな。ゲームをクリアして全て思い出すと俺は信じていたぞ。
すまない、話す時間があまりない。大切なことだけ伝える。
お前にはやらなきゃいけないことが三つある。よく見ておけ。
ここにあるダイヤ、夕陽を人間に戻す事。夕陽は人間に戻ると勝手に消えて行くだろう。だが心配しなくてもいい。人間界でまた会える。
そして二つ目は純子や泥人間のことだ。
あいつらを人間にしてやれ、ここの事や泥人間だった記憶は無くなるが人間関係はそのままだから安心しろ。
三つ目はお前がこの世界を出るときに入り口を塞いでくれ。やり方は知ってるな?
止まった時計は夕陽が戻れば動き出すし、この世界ももと通りになる。
お前が記憶をなくすことは分かっていた。俺はもう長くないんだ、だからこんな事してまでお前にこの世界を閉めて欲しかったんだ。最初は継いで欲しかったがここを人に知られてはもう閉めなきゃダメなんだ。
最後に俺の計画の所為で泥人間たちに凄い悪いことをした。本当にすまなかった。
あとは頼んだぞ」
文字がずらずらと並んで出てくる。
広樹は父親が大好きだったことを思い出す、小さい頃に楽しい魔法を教えてくれたのは彼であり、たくさんの大切な物を教えてくれた。
今も守らなきゃいけないものがあると教えてくれたのだ。
全てがもうすぐ終わってしまう。長いようでとても短かった迷路。
ガラスケースが開き、広樹はダイヤに手を伸ばす。
ダイヤに優しく触れ魔法をかける。
紫色に光っていたダイヤが可愛らしい少女に変わり、ゆっくりと消えていく。
完全にいなくなる前に彼女は目を開けて広樹に言った。
「パパ。助けてくれてありがとう」
広樹はこの時全てを理解した。




