裏世界の泥人間の始まり
鏡の向こうには裏世界と呼ばれる世界がある。
はじめは誰も住んでいない綺麗なごく普通の土地だった。草も木もある。
太陽が上って日が落ちる。ただそれだけの世界。
しかし、ある少女はいつかの十三日の金曜日に鏡を割ってしまった。
そこから事は起こり、女の子は鏡の中へと引き込まれていった。
裏世界と呼ばれるところに女の子が一人。
その世界で女の子が初めて見つけたものが泥だった。彼女はモノづくりには自信があり、泥団子や、泥でキャラクターの形を作ったりと泥で色んなものを作っていった。
こっちの世界に連れ込まれてからから一ヶ月くらい経った頃。
女の子は寂しくて母が恋しくて泥で家族や兄弟を作るようになる。
「ねえ、ママ。ご飯だよ」
笑いながら母の前に優しく泥団子を差し出す。
「ママ……」
そう言いながら彼女は泥の母の膝に頭を置き眠りについた。
女の子が目を覚ますとなぜかベッドに寝かされていた。
「夕陽」
名前を呼ばれて、振り向くと彼女の作った泥の母が笑って立っている。
他に作った父や姉、夕陽が作った全ての泥の人が動き話していた。
「ここは……?」
「ここは時計塔の中の一つの部屋」
「でも、どうして……?」
泥の母は夕陽の表世界の行動や住んでいたところは知らないはずだ。それなのに夕陽が表世界にいた部屋と全く同じ物があった。
ただ一つ違うのは夕陽と同じ背丈の時計があること。
「この部屋はママが作ったのよね、どうして私の部屋を知ってるの……?」
「私を作るときあなたの本当のお母さんを思い浮かべて色んな記憶を辿ったでしょう? その記憶が私の中に何故か入ってきたのよ」
夕陽が聞いたことに優しく答えてくれる泥の母。
夕陽は泥人間が動いていることを不思議に思った。だが何よりも話す相手や母が居ることが嬉しかったのだ。
みんなを見て驚きはあったが、そんな物は一瞬だった。
他にも何人もの泥の人を夕陽は作り始めた。仲間が減ってもみんなが寂しくならないようにと願いを込めて。
ある日のこと。
泥人間たちと幸せに暮らしていた夕陽に悲劇が訪れる。
みんなでたくさんの家を建てている最中に一人の年老いた男がこの世界へと現れた。
男はなんでもこの世界を作った人だと言う。それに彼は地球の色んな世界を飛び回る魔法使いと言われている。
男は性格は悪く人の幸せを壊すような奴らしい。
「やっと戻ってこれた」
最初に彼が来た時はみんな喜んで歓迎した。泥で作ったご飯を並べ歓迎パーティーまで開いた。
だが、彼は此処は自分の世界だと言い張り、歓迎パーティーなど喜ぶはずもなく、料理を投げ飛ばした。
そんな彼の態度に、夕陽は怒りを隠せなかった。
夕陽は優しく勇敢であった。だからこそ皆んなの気持ちを踏みにじった彼のことが許せなかったのだ。
その日の夜のこと。
夕陽は男に決闘を申し込んだ。
泥人間を守るため自分の命をかけて。
彼の企みはここの泥人間を壊し、この世界を取り戻すことらしい。
だが、考えが変わったようだ。
男は泥人間たちから二つの光を奪うことにした。
一つ目は太陽。そしてもう一つの光は夕陽だった。
泥人間に希望を与える夕陽は太陽よりも明るく輝いていた。
決闘の時間になる。
戦いをする前から結果は見えていた。
夕陽が魔法使いに勝てるはずなど無かったのだ。
「ママ……。パパ助け、て……ね」
それだけを言い残し夕陽は紫のダイヤへと変えられ、時計塔の奥深くに隠されたのだ。
すぐにダイヤを取り戻されては面白くなく、彼も楽しめない。泥人間も苦しまない。
そこで男は建物の中に迷路というゲームを作った。
男はゲームを作り終えるとすぐさまその世界を立ち去った。
泥人間は建物に入り、迷路ゲームに挑戦するが、最後までたどり着いた試しはない。
なぜならその迷路には水が仕掛けられていたからだ。
行ったものは全員溶けてなくなってしまう。
「純子、どうするんだ?」
"純子" それは夕陽の母親の名前。
「あの子を助けるために、あの子と同じ人間を連れて来ましょう」