聖剣ティルフィング
それは今から百年程前の出来事。
当時のサイスは国家というよりは共同体という言葉が相応しい存在だった。
王権には力が無く、税制基盤は脆弱、領土は小規模。
そのような状態でも国家の態を成していたのは、周辺に強国が存在しなかったのと、サイスの存在が無視されていたのが大きい。田舎国家には誰も目をくれなかったのだ。
そんな平和を打ち砕くかのように、ある日、塔が突然出現したのだ。
余りの平和さに暇と腕力と勇気を持て余した時の皇太子は、荒くれ者達を引き連れ無謀にも塔に挑み、白銀に輝く聖剣ティルフィングを手に入れた。
ティルフィングは聖剣の名に相応しい切れ味と加護を宿していたと伝えられる。
その後、皇太子は聖剣ティルフィングの力により地域一帯を制圧。サイス中興の祖と呼ばれる偉大な王となったのだ。
聖剣で使われていた金属こそが、魔法金属ミスリルである。
皇太子の死と共に、聖剣ティルフィングは何処かへ消え去ってしまった。
迷宮の奥底、剣の間に眠る宝剣こそがそれだと主張する者もいるが、真実を知る者達は既にいない。
ただ、伝説だけが存在するのだ。
人は言う。
再び聖剣ティルフィングを手にした者こそ、王になる資格を有する者だと。