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転生チート?オンライン  作者: しぶすん
アナザーワールド
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39




それから時間は進み、輝宮との約束の時間を迎えた雷翔はアナザーワールドにログインし、昨夜ログアウトした≪マリアの万屋≫のリビングに到着する。


目を細め、暗転した視界から徐々に目を慣らしながらぐるりと辺りを見渡すと、先にログインしていたらしく窓際に置かれたテーブルの席に腰掛け、この家の主と向かい合わせになって談笑するルナの姿を見つけると、ライトは二人に歩み寄り、簡単に挨拶を交わしてから談笑に加わる。




「へぇ?ライト君もボス戦に参加するの?」


「記念受験みたいな感じですけどね。取り巻きのウルフの掃除くらいなら僕にも出来そうですから」


「なるほどなるほど、じゃあボス戦の前には私のところに顔を出しなさい。武器のメンテをしてあげる」


「本当ですか?是非お願いします」




束の間の談笑の話題がボス戦へのことに移ると、二人からライトの参戦を聞いたマリアが少しだけ驚きつつもどこか面白がるような表情を浮かべ、そんな申し出をする。


この世界にログインして日が浅く、未だ街中に点在する数々の店や使い方など細々としたところにまで気を回す余裕のないライトにとってはこの申し出は断るなどという選択肢のない魅力的なもの。


思わぬ申し出に甘えることにしてマリアに頭を下げると、不意にちょんとジャケットの袖を引かれ、引かれた方へと振り向くと昨日まで身につけていたローブを身につけておらず、騎士服を白日の下に晒したルナが立っていた。



「ライト君、そろそろ時間だし行かない?私、しばらく休んでたからギルドのメンバーとかに挨拶しないといけなくて……」


「あ、そっか。じゃあマリアさん、一旦失礼します」


「はいはい、行ってらっしゃい。ライト君は三帝には気をつけなさいね」



ルナの言葉に頷き、手を引く力に体を任せながら最後に挨拶をすると、マリアはひらひらと手を振ることでそれに応え、出かけていく二人を見送る。

気をつけろとは一体どういうことか、ライトの内心に少しばかり引っかかるところがあったが、もうそれほど時間に余裕が無い二人は疑問を脳の隅に押し込み、早足でマリアの店を後にした。




「おお………」



マリアの店を出てから暫し首都の喧騒(けんそう)を歩き、攻略会議が行われるという中央広場に到着すると、初めて広場を見ることになるライトの口からは自然とそんな声が漏れていた。


現在二人が立つ中央広場は、その名の通りマザータウンの中心に位置した円形の広場で、攻略会議や時折プレイヤーやギルド単位で開催する小イベントなど人が集まる時に自由に使用される。

広場には街の至る所で目にすることのできる屋台も住宅も存在しておらず、その円の中心に二メートル程の高さの女神を象った噴水が鎮座している。


女神像の足元からは絶えず水が噴出しており、噴き出した水の飛沫はキラキラと陽光を反射しながら空中へと溶け消えていき、見ているだけで周りに居るものに清涼感を感じさせていた。



「凄いでしょ、これ全部今回のボス戦に参加する人なんだよ」



そして午後八時半現在、その広場には多くの人々がひしめき合っている。

ルナの言葉を受けて広場に集まったプレイヤー達に目を向けてみると、流石にゲームの攻略をリードする前線組(フロントランナー)達。ライトの視界に映るプレイヤーの装備はことごとく素人目に見ても分かるほど使い込まれ、また強化、整備を受けている。


プレイヤー達は街を歩く者達と同じように和気(わき)藹々(あいあい)と雑談やアイテムのトレード、装備自慢に興じているが、これらの人々は街を歩く一般プレイヤーとは文字通り格の違う高レベルプレイヤーで、そういった先入観から来る錯覚か、ライトの目に映る人々はどこか歴戦の戦士然とした雰囲気を放っている。



「じゃあ、私は楽園メンバーに挨拶しに行くから一旦お別れだね。」


「あ、うん。パーティーは組んだままでいいの?」


「うん!どうせ会議が終わったらまた一緒に居られるし組んだままで大丈夫だよ。それじゃあまた後で!」


「そっか、じゃあまた後で」



小さく手を振りながら遠ざかって行くルナを見送り、手持ち無沙汰(ぶさた)になったライトは取り敢えず近くにあったベンチに腰掛け、今回の会議の為に集合したプレイヤー達の人間観察へと没入する。



「ん……?」



しばらくぼうっと人混みを眺めていると、突然一人の大柄なプレイヤーが人混みを外れライトが座るベンチへと歩み寄って来た。

その男は直前まで比較的重武装のプレイヤーの一団の中に居た一人で、筋骨隆々といった言葉がこれでもかと似合いそうな鍛え上げられた筋肉を、燃えるような赤色のチュニックと、高レベルのプレイヤーが前線で使うには少し頼りなさそうな軽金属のアーマーに包んでいる。


だが簡素なアーマーと対照的に背中には凄まじい存在感を放つ巨大な戦斧(バトルアックス)を背負っており、その風貌も、ただ歩いているだけで見る人を萎縮させてしまいそうな強面だった。



「済まないが隣いいか?」


「へ?…どうぞ」



ライトの目の前まで来ると、その男は見た目に似合わずなんとも律儀に頭を下げ、何故か相席を願い出る。

突然のことに若干面食らいつつも、特に断る理由も無いライトが少しベンチの端の方に寄り席を空けると男はこれまた律儀に「失礼する」と頭を下げて背中の斧を留めていたベルトごと外し、ベンチの背に立てかけてからどっかりとライトの隣に重たいそうな所作で腰を下ろす。



「ふぅ……全く、この広場はベンチが少なくてかなわんな。背中の斧が重くて仕方が無い」


「そう……ですか?僕にはあんまり重そうには見えなかったけど……。少なくともそれを片手で扱える程度には筋力パラメータは高いんですよね?」



疲れたように大きなため息を吐きながら宣う巨漢に、脚に頬杖をつきながら流し目でそう言うと、男は一瞬驚いたように目を見開き、次に唇の端を微かに持ち上げる。



「ほう……よく見てるなお嬢さん」


「初対面の人をしっかり見るのは常識でしょう?あとこんなナリですけど僕は男です。お嬢さんはやめてくれませんか?」


「おっと、それは失礼した。俺はアルマダってもんだが、良ければ名前を聞いてもいいか?」


「あ、はい。僕はライトです」


「ライト……聞かない名前だな。ボス戦はこれが初めてか?」


「そうですね、知人に誘われて……」



アルマダと名乗った男は、見る者を萎縮させるその風貌とは裏腹に相手にあまり壁を感じさせない、しかしながら馴れ馴れしくならない絶妙なラインを保ちながらライトとの対話を続ける。



「そういやさっき白茨姫のルナと一緒に居たな。随分と仲が良さそうだったが、恋人か?」


「こ、恋人!?ま、まさか、僕なんか、とてもじゃないですけど彼女と釣り合いませんよ!」



巧みなアルマダの話術に僅かに緊張を緩めたライトは、唐突な彼の言葉に驚きと苦笑を返す。

ライトとしては自分で言ってほんのちょっぴり悲しくなったが、非情なことに目を背けても現実は変わらないのだ。



「ルナは初心者の僕に色々とレクチャーしてくれたってだけですよ。一応暫定のコンビは組んでますけど、かれこれ四日間も僕に付き合わせちゃってますから、少し申し訳ないです」


「…………ほう?お前さん、ニュービーなのか?レベルは?」


「えっと……昨日の時点で21です」


「21!?……四日でそこまで上げたのも驚きだが……そんなレベルでよくボス戦に参加しようとか考えたな……ってちょっと待て、ライト、お前さん、その装備どこで手に入れた?」


「ルナが贔屓(ひいき)にしてる武器屋ですけど……?」





嘘は言ってない。本当のことを言っていないだけだ。

内心でそう呟きながら、ライトのレベルに驚きの声を上げながらまじまじと装備をーー主に背に吊った銀剣をーー眺めるアルマダの質問に答えると、髪を短く刈り込んだ巨漢は大きく目を見開いて剣を収めている鞘を指差す。



「それ、マリアのエンブレムじゃねえか?もしかしてその装備、あのマスター鍛冶屋(スミス)マリアの作品か!?」



「す、すいません……そうだと何か凄いんですか……?悪いんですけど、まだ始めたばっかりでアイテムの価値とかがイマイチわからないんです」


「そうなのか……知らないようなら教えとくが、そいつはレア中のレア装備だ。本サービス開始からたった三ヶ月と少しで≪鍛冶≫スキルコンプっていう伝説を成し遂げた幻の鍛冶屋、マリアが月に一本市場に流すかどうかってくらいのレアもんだ。悪いが、少し持たせてもらってもいいか?」


「は、はぁ……どうぞ」



黒革の鞘の中央に刻まれた、薔薇の紋章を指差しながら、謎の説明口調でライトに剣のレアリティを告げたまま固まるアルマダに、ひょいっと剣を放る。

すると我に返ったアルマダは左手で受け取ろうとしたが、剣を掴んだと同時に左腕が剣の重みに耐え切れずにがくんと落ち、慌てて両手で持ち直す。



「俺のSTR(ストレングス)でもこの重さだと……?お前、本当にレベル21か?」


「はい、ルナ曰く、バグキャラステのレベル21だそうです。……なんならステータス、見ます?」



そう言ってメニュー・ウインドウを開こうと腕を持ち上げると、アルマダは慌ててかぶりを振ってそれを制止する。



「いや、そこまでしなくて大丈夫だ。そこまで見てしまうといざという時責任を持てんからな……っと、そろそろ時間だな。ボス戦に参加すんなら当日声かけてくれ。もしレイドにあぶれたら拾ってやる」



広場から北に少し離れた場所にある時計台を一瞥し、「よっこらせ」と声を発しながら立ち上がり剣をライトに返すとアルマダは斧をひょいと持ち上げ、肩に担いで恐らくはギルドの仲間であろう重装備集団に紛れていった。



「なんだったんだ一体………」



それを見送り、再び手持ち無沙汰になったライトはベンチの背もたれに背中を預け嘆息する。

結局アルマダは自己紹介をして驚くだけ驚いたらさっさと消えてしまったし、ライトとしては何がしたかったのやらさっぱり分からない。

もしかしたら見覚えの無い、その上外見はーー本人としては誠に遺憾ながらーーこの世界では稀有な存在である女性プレイヤーが居た為に物珍しさに声をかけてきただけなのかもしれないが。



「あ、始まるのかな?」



と、ベンチで一人アルマダの行動の真意を考えていると、にわかに広場に集まったプレイヤー達がざわめき、噴水の近くに固まり始めたのを見ると、ライトもベンチから立ち上がり、その最後列にこっそりと紛れ混む。

すると紛れ込んだ先の近くにいたプレイヤー達が見慣れぬ新顔を訝しげに一瞥するが、その視線はすぐに外れることとなった。



「それじゃあ、時間も来たしボス攻略会議を始めたいと思う!皆知ってると思うが、今回のレイドリーダーを務めさせてもらう≪楽園(エデン)≫ギルドマスターのグラオスだ。よろしく!」


「んな……!?」



目一杯背伸びをして、人垣の隙間から奥に設けられた簡素な舞台の上で会議の開催の音頭をとった人物を見た瞬間、ライトは驚愕に目を剥き、素っ頓狂な声を上げかける。


人垣の前に立ち、プレイヤー達にそんな演説をしているのは、現実世界で雷翔と美月が通う学び舎、海西高校の現生徒会長、木原紅葉。

長めの髪を(まばゆ)く陽光を跳ね返す金に、双眸を鮮やかな蒼にそれぞれカスタマイズしているものの、学校で何度も目にしたその顔を見間違えるはずもない。


その後ろには数人のギルドメンバーであろう数人のプレイヤー達が控えており、その中にはどうしてか厳しい表情を浮かべたルナの姿もあった。



「まず、本日行われた偵察戦の結果を報告しよう。速報でもう知っている人も居ると思うが、ボスの名は≪フェンリル・ザ・ゴッドイーター≫。姿形は森にポップするブルーウルフと同型のモンスターだ。HPバーは六段、主な攻撃手段は概ねブルーウルフと同じ爪、牙、体当たり攻撃。

偵察戦では一段目までの情報しか得られなかったが、恐らくウルフのものに加えて違うスキルを使ってくるだろう」



HPバーが六段と言ったところで一瞬周りがどよめいたが、後に続く言葉を聞き逃すまいと直ぐに静まり返り、生徒会長の言葉に耳を傾ける。



「後はボスモンスター特有のブレス攻撃だが、こちらは属性は未だ不明だ」


「質問、いいか?」



会長がそう締めくくると、ついさっき聞いたばかりの低く野太い声が広場に響く。



「ああ、アルマダさんですか。どうぞ」


「なら遠慮無く。いくらなんでも情報が少な過ぎると思うんだが、それについて説明は?」



アルマダはすっと前に出るとそう発言し、グラオスは僅かに困ったような表情を浮かべてその質問に答える。



「それについては申し訳無い。前回と同じように先遣隊を編成したんだが、予想以上にボスが強くてね。二回の偵察戦は一段目のHPバーを半減させることも出来なかったとの報告が上がっている」


「なるほど、なら今後偵察戦を行う予定は?予定があるなら俺が参加しても構わんが」



「いや、それには及びません。これから一時間後と、明日の午前と午後の合計三回、今日の二回よりも戦力を増強して偵察戦を行い、傘下ギルドにギリギリまで情報を集めさせます。ボス戦に参加する面々は偵察戦は気にせずに、各自準備に集中してくれ」



グラオスがそう言うと、アルマダは理解はしつつも納得はしていないと言わんばかりの表情を浮かべながら頷き、下がる。

二人の会話を聞き、ライトはあらかじめルナに教えられていたボス攻略の流れと照らし合わせる。



「それじゃあ、暫定的ではあるが役割の分担をしよう。まず、楽園からは私も含めて三十人、フルで出す。割合としては全員純アタッカーだが、ルナがヒーラーも兼ねてくれる。無敵の盾からはいつも通り壁戦士を派遣して貰いたいんだが、何人まで出せる?」



「今回のボス戦に参加出来るとなるとレベル60以上は必須だろうからな……出せて20ってとこだろう」



グラオスが問うと、暫し間を空けてからアルマダが答える。彼らの口ぶりから、アルマダが≪無敵の盾≫の所属、しかも幹部クラスの構成員なのだろうと察しを付ける。


そんなライトの先で、グラオスはアルマダの答えに軽く頷くと更に言葉を続ける。



「それでは残りの22名は楽園の傘下ギルドと一般プレイヤーから出来るだけ高レベル且つ高ステータスのプレイヤーを回復役(ヒーラー)メインで集めよう。」


「すみません。その前に、一人アタッカー枠で推薦したい人が居ます」


「……ほう?ルナがレイドに推薦だなんて、珍しいこともあるものだね。言ってご覧」



後ろで腕を組み、何処か苛立ったような雰囲気を纏っていたルナが沈黙を破り、手を挙げて発言するとグラオスはこれまでの勇ましい口調から一転、途端に優しそうな声音で問いかける。


ルナはそれに冷ややかな視線と浅い礼で応えると、一歩前に出てぐるりと人垣を見渡すと、視線の先に人垣に埋もれかけたライトを捉え、舞台の上の自分を見つめるライトと一瞬視線を交わらせると口を開いた。



「私から推薦したい人はライト君という人です。レベルはまだ低いですが、レベルに見合わないステータスと、戦闘における非常に高いプレイヤースキルを持っているのでかなりの戦力になる筈です。純戦闘においては、もしかしたら私よりも強いかもしれません」


「……へぇ?ルナにそこまで言わせるとは期待出来そうだね、えっと……ライトさんだったかな?前にでてきてくれるかい」



グラオスの言葉に従い、人垣をかき分けて舞台の前に出る。

前に出たことで周りのプレイヤー達が一斉に自分に注目したのを背中越しにひしひしと感じ、居心地の悪さを覚えつつもライトは舞台の上から見下ろす≪楽園≫のメンバーをまっすぐに見つめ返す。



「それじゃあ軽く自己紹介を頼もう。そうだな……とりあえず名前とレベル、それから簡単に得意な戦闘法と希望ポジションといったところでいいかな」


「……えっと、名前はライト、レベルは21。アタッカー志望で主に武装での近接戦闘が得意です」



グラオスの言葉に、あらかじめルナと決めておいたセリフで答える。

するとアルマダやルナ、それに他数人の一部を除く周りのプレイヤー達が一斉に嘲笑を浮かべた。



「おいおい!レベル21ってボス戦を馬鹿にしてんのか?」


「ここは中層プレイヤーが来ていい場所じゃねえんだよ!」



周りのプレイヤー達が口々に好き勝手言い始めると、グラオスは身振りでそれを黙らせる。



「そう笑ってあげないでくれ。たった21でも攻略に参加したいという気持ちは立派じゃないか。ルナ、彼が本当に君より強いというのかい?君を疑うわけじゃないが、休んでいる間に目が眩んだんじゃないか?」


「そう思うなら誰でもいいから彼と戦ってみればいいじゃない。彼が本当に弱かったら私も今回のボス戦は辞退するわ」



「それはそれで困るが……わかった。大分自信があるようだし、試験をしよう。ライトさんはそれで構わないかな?」



グラオスの言葉に頷くと、彼は振り返り楽園メンバーから銀色の騎士鎧に身を包み腰に流麗な装飾を施した細剣(レイピア)を差したプレイヤーを呼び寄せる。



「それじゃあ試験官は彼、≪楽園≫の副長キースに務めてもらう。方法は、先にHPバーが半減した方が敗者となる半減決着デュエル。だがまあ、ライトさんが破れても実力次第ではボス戦に参加して貰っても良しとしよう。負けを恐れずにのびのびと戦ってくれ。とりあえず、二人は準備を始めてくれ」



グラオスはそう言うと、他のプレイヤー達を下がらせ、広場に半径十メートル程の広さの円形のスペースを作る。



「それじゃあよろしく。デュエルの申請は俺から送ろうか?」


「はい、それでお願いします」



背中の鞘剣を抜き、ヒュンヒュンと数回振り払って調子を確かめると、キースと呼ばれた青年がメニュー・ウインドウを操作する。

するとライトの手元に『≪keith≫から決闘(デュエル)を申し込まれています』とのメッセージと縦に四つ並んだチェックボックスが表示されたウインドウが展開された。


三つのチェックボックスの横にはそれぞれ、上から初撃決着、半減決着、全損決着と表示されており、少し離れた所にHP調整と書かれたチェックボックスが置かれている。



それぞれの決闘の方式は、読んで字のごとく初撃決着は先に相手にクリティカルヒットを与えた方が勝利、半減決着は先に相手のHPを警告域(イエローゾーン)にさせた方が勝ち、全損決着は先に相手のHPを全損……つまり0にした方が勝ちというルールで、HP調整というのはレベル差が著しく大きい相手と戦う場合に一時的にHPを均等に振り分けるというもの。


勿論、HP調整を利用しても振り分けられるのはHPだけで、その他のステータスは変わらないので何かそれとは別に重いハンディキャップを設けなければレベル差が大きすぎる相手とは勝負にすらならないのだが。



「HP調整はどうしますか?」


「ありでいいぜ。あんま早く終わっても面白くないだろうしな」


「わかりました」



負けるとは微塵も思っていない様子のキースの言葉を聞き流しながら、ウインドウの半減決着デュエルとHP調整のチェックボックスをタップしチェックを入れる。


そして『決闘に応じる』というボタンに触れると、ライトのHPバーの横の数字が一気に減少し、36500となった。


キースはライトのHPの数字が増えたと思っているだろうが、実際はライトの方がHPは多いのでライトが相手に合わせるような形になった。



「……?」



案の定、キースはHPの変化に疑問を感じたのか小さく首を捻っていたが、とりあえず気にしないことにしたのか、腰からシュイン、と控えめな音を立てながら細剣を抜き放ち右手に構える。


青色の鞘から抜き放たれた細剣はよく手入れされていて、その細い銀色の刀身で仮想の陽光をきらきらと跳ね返す。


そして、そうこうしているうちに一分の待機時間が終了し、向かい合うライトとキースの真ん中に『DUEL!』という白い文字が輝いた。



「先手は譲ろう。どこからでもかかって来るといい」


「じゃあ……遠慮なく」



相変わらずの余裕で構えるキースの言葉に返し、ライトは剣先を下げ、前傾姿勢を作ると弾くように地面を蹴り、走り出す。



「へえ、レベル20代にしちゃ速いな。それに力も中々だ」



そして小手調べ程度に軽く剣をキースの脳天に向けて振り下ろすと、キースは落ち着き払った様子で細剣を持ち上げ両刃の剣を受け止める。





「それはどうも……!」


「じゃあ、今度は俺から行かせてもらおうか!」



キースが一瞬剣に力を込めライトを押し返すと、素直に押し返す力に従ったライトは軽く地面を蹴り後方に距離を取る。


するとキースは重そうな金属鎧を身につけているとは思えない速度で逃げるライトをを追いかける。



「はあっ!」


「うおっ……」



そしてライトがバックステップの際に後ろに傾けた重心を立て直す間にキースは細剣を持つ右手を矢を引くように引き絞り、そこから高速の二段突きを放つ。



「このっ……!」



胸と喉を狙い、迫る突きをライトは剣を体の正面に振り上げることでどうにか弾き返し、剣を跳ね上げられたことで無防備になったキースの胴に左手で拳を打ち込む。

するとキースのHPバーが僅かに数ドット減少し、キースは2、3歩後退する。



「おぉっ!」



それほどの大きな隙を見逃すはずもなく、ライトはお返しとばかりにそれを追いかけ、剣を水平に薙ぎ払う。



「ぐぁっ!」



するとキースの銀色の騎士鎧の腹部に赤い水平線が刻まれ、そこから赤色のダメージエフェクトが血のように流れ出る。



「キースが先制攻撃を……?」


「お、おいおい、楽園のナンバー2だぞ?それが格下にダメージを……」



追撃の手を止め、一息つくために大きく後ろに跳躍して距離を取る。

ここでキースのHPを確認すると、すでに一割程が減少していた。



「驚いたな……まさか先制攻撃を食らうとは思わなかったよ」


「そうですか。貴重な経験が出来ましたね」



キースの呟きにそう返し、剣を構え直す。

そんな態度が気に食わなかったのか、キースは僅かに眉間に皺を寄せて細剣を腰元に構える。


そして最初のライトのように腰を落として前傾姿勢を取ると、弾かれるように地面を蹴った。



「はぁぁ!」



キースが走り始めると、細剣に白い光が宿り、真っ直ぐライトに突き出すと、次の瞬間キースの仮想の体は爆発的に加速する。

生身の人間には絶対に出せないであろう速度で突き出された剣は宙に一筋の白線を残し、ライトの眉間に迫る。



「シッ!」



ライトはキースがスキルを発動させると同時に、剣を腰の辺りに持っていき体を捻り、刀身に赤い光を纏わせると一気にそれを振り上げる。


ライトの放ったスラッシュは、キースのスキルの突きを真下から叩き、甲高い金属音を響かせて剣先を跳ね上げるとライトの体は剣を振り上げた体勢で一瞬硬直する。


剣を跳ね上げられたキースも同じような体勢で動きを固めていたが、一瞬早くスキル硬直から脱したライトがそのまま剣を振り下ろすと、キースの騎士鎧が肩から腰にかけて切り裂かれダメージエフェクトを散らしながら吹き飛んで行く。



「ぐっ……こいつ、マジで初心者なのかよ……」


「そう言うあなたは対人戦闘にはあんまり慣れてなさそうですね?苦手なんですか?」



整った表情を歪めて忌々しげな声音を漏らすキースにそんな言葉を投げつける。

ライトの、剣を交えてのこのキースというプレイヤーへの印象は、「対プレイヤー戦闘が得意ではない」だった。

攻撃のリズムが単調に過ぎるし、剣のキレも、戦術のバリエーションも、今のライトが知る唯一の高レベルプレイヤーには遠く及ばない。


楽園のナンバー2という話だったが、直接戦えば恐らくルナの方に軍配が上がるだろう。そんな評価をライトにもたらす程度には、キースというプレイヤーの対人での戦闘技術は稚拙なものだった。


小さい頃から父親に散々対人戦闘を叩き込まれた雷翔と比べると、やはり動きの精彩に欠け、彼の主観からしてもそれ程強敵には感じない。


とは言っても、≪アナザーワールド≫はあくまでゲームであり、それをプレイしているプレイヤー達は一般の人々なのでライトのように剣術の心得がある人間の方がむしろ稀有というものなのだが。



「くそっ……楽園のメンツを潰す訳にはいかないんだよ!【ドロウ!ブラックマジック……!】」



忌々しげな舌打ち混じりの言葉とともにキースが真っ直ぐに左手を突き出すと、突き出した手の先に直径二十センチ程の大きさの、青色に輝く円形の魔法陣が現れ、その中心に水の塊が出現する。



「【アクアアロー】!」



キースが叫ぶと、浮遊する水の塊からドシュシュシュシュッ!という音を連続で立てながら水でかたちづくられた矢が射出される。

速射砲から打ち出される弾丸のごとく射出された都合五本の水の(やじり)は、真っ直ぐにライトへと向かう。



「キース!?魔法まで使わなくても……!」



水の矢を見たルナが慌てて叫ぶが、水の矢は止まることなくライトを目掛けて一直線に飛んでいく。

矢自体の速度はそれほど速くない為、ライトは初めて見る攻撃魔法に驚きながらもあくまで冷静に右手側に跳んで回避を試みるが、なんと矢はライトを追うように曲がる。


それを見たライトの中で物理法則はどうなっているんだとツッコミたくなる衝動が生まれるが、そもそも魔法などが存在するこのゲームの中でそれを言っても詮なき事。衝動を必死に抑え、迫る矢をひたすらひょいひょいと躱していく。



「ライト君!その魔法は追跡(ホーミング)属性が付いてるから普通は躱せないの!同じような魔法で相殺しないと!」


「え、ええ……」



外野から飛んでくるルナの言葉に辟易した声を漏らしながら、ライトは高速で頭を回転させる。


ルナの言葉が本当ならばーー最も、疑う余地など最初から無いがーー彼女の言う通りライトも攻撃魔法で矢を迎え撃たねばならないが、ライト自身の魔法スキルは取ったばかりで熟練度が全く上がっておらず、高レベルプレイヤーの魔法を止められる程の威力は出ないだろうし、そもそもライトは魔法の使い方を知らないのでルナの言う対処法はとれない。



「一か八か!」



そう言うとライトは背を向けていた矢に向き直り、立ち止まる。

すると五本の矢が真っ直ぐ自分の胴体を目掛けて飛んで来ているのを直視することになり、足が竦みそうになるが、どうにかそれを押さえつけながらじっと水の矢を睨み付ける。



「ここ!」



そしてライトを貫こうと飛んできた矢が体から数センチのところにきた瞬間、地面を強くつま先で蹴り付け思い切り後ろに跳ぶ。


すると矢は突然の方向転換に対応出来ず、前を飛んでいた三本が地面に突き刺さり、ばしゃっという音を立ててただの水となり石畳を濡らす。


だが後ろを飛んでいた二本の矢は方向転換を間に合わせライトを追いかけて来ているので、ライトはまたもや立ち止まると剣の切っ先を地面に向けて左腰に構え、剣にライトグリーンのライトエフェクトを纏わせる。



「はっ!」



気迫の声を上げながら剣を振り上げると、剣は黄緑色の軌跡を描いて先行してきた一本目の矢の先端と衝突し、無数の水滴へと変える。

そして振り上げきったところで手首が返り、そのまま二本目の矢へと向かって振り下ろされる。



「なっ……!魔法を切っただと……!?」


「やっ!」


ライトがA・ストリークで魔法を斬ったのが信じられなかったのか、キースは右手を突き出した体勢のまま硬直する。

そんなキースを見ながら、ライトは剣を正眼に構え刀身に水色のライトエフェクトを纏わせ、突進する。



「ぐうっ!」



ライトが放ったアクセル・ストライクはキースの胸の中心を捉え、騎士鎧を容易く突き破り、彼のHPバーを一気に黄色を通り越して赤く染めた。



「そこまで!」



その瞬間、ライトの視界に『You Win!』という表示が現れ、じっとそれまでの戦いを静観していたグラオスが鋭い声を上げた。



「……ふぅ」


「やった!おめでとうライト君!」


「わっ!ルナ!?」



キースの体から剣を抜き取り、数回振り払ってから背中の鞘に収めると、そんな声と共に人垣の中から躍り出てきたルナが正面からライトに飛びつき、危うくバランスを崩しそうになり咄嗟に彼女の細い背中に手を回して支える。



「おお、見せつけてくれるじゃないかご両人」


「……っ!?」



するとどこから現れたのかアルマダがそんな二人を見てそう言葉をかける。

その言葉を聞いて正気に戻ったルナがボッと一瞬にして顔を赤く茹で上がらせ、AGIステータスをフルに発揮した素早い動きで離れていった。



「お疲れさん。本当に強いんだな、見事な戦闘だった。」


「あはは……どうも。対人戦闘には少しだけ慣れてまして」


「楽園のナンバー2を倒せるのは少しばかりじゃ済まないけどな」



ライトの言葉にアルマダは苦笑いを返すと、決闘の敗者となったキースと、彼に駆け寄るルナを除いた楽園メンバーへ体を向ける。



「デュエルの結果はこの坊主の勝利だ。俺はこのボス戦に参加してもらっても構わないと思うんだが、楽園はどうだ?」


「……確かに実力は十分そうだが、便宜上何処かのパーティーに所属して貰わないとならないのはアルマダさんも知っているだろう?見た様子彼はソロプレイヤーのようだし、何処に入って貰うんだ?」


「それなら俺が無敵の盾で引き取っても構わんが、ルナ嬢はどうだ?」


「……私がパーティーを組みます。

彼とは今現在コンビを組んでるし、連携も取りやすい筈です」



落ち着いたらしいルナがそう提案すると、それを聞いたグラオスは顔を顰めながらゆっくりと頭を振り、ルナに言い聞かせるかのような口調でそれを制する。



「残念だが、それは困るな。ルナは楽園のパーティーメンバーだ。いくら有能とは言え、ソロプレイヤーと組ませてこちらの回復が手薄になるのはギルドマスター、ひいてはレイドリーダーとして認められない」


「なら傘下ギルドのヒーラーを入れればいいじゃない。私一人よりは人数がいた方が有利だと思うけど?」


「メンツというものがあるだろう?君は楽園の看板を背負っているんだ。ギルドメンバーとしての役割は果たして貰わなければ困るな。第一最近の君は身勝手な行動が多過ぎる。縛り付けるつもりは無いが、楽園のメンバーであるという自覚は持ってくれないか」


「別に、あなたに私の行動を咎められる謂れは無いわ。それに、自覚って何?傘下ギルドからリソースを搾取するあなた達のやり方を認めろっていうの?聞いたわよ、この間のボス戦でも回復アイテムの調達のために傘下ギルドからお金をかき集めて、小さいギルドを運営出来なくして解散に追い込んだんですって?傘下のギルドはあなた達に搾取されるためにあるわけじゃないのよ」



ルナが冷たい口調で言うと、グラオスは顰めた顔をいっそう厳しいものへと変える。



「……あれは必要経費だよ。それに傘下ギルドは楽園という名前に守られているも同然だし、毎月支給金も出している。それでも潰れるというのなら、ギルドの運営能力が無いというだけだろう?」


「支給金……?いけしゃあしゃあと……!ボス戦の度に支給金を上回る徴収金を取ったら意味が無いじゃない。守ってるとは言っても今回は楽園が潰したようなものだし、そんなに三帝ギルドは偉いのかしら?」


「お、おい落ち着けルナ嬢」


「アルマダさんは黙っててください。これは楽園の問題です」


「い、イエス・マム!」



ヒートアップするルナに、流石に見ていられなかったのかアルマダが落ち着くように促すがルナはキースのレイピアの剣先よりも鋭い視線と絶対零度の声音で一蹴する。

言葉の矛先を向けられたアルマダ以外のプレイヤー達も、その場に居た全員がルナの怒りに当てられ背筋を伸ばしていた。



「落ち着いてルナ、僕は大丈夫だから……。アルマダさんがパーティーに入れてくれるらしいし、ルナにはルナの仕事があるんでしょ?昨日言ったけど、僕はルナの負担になりたくないんだ。僕のためにルナが孤立するなんてことにはしたくないしさ」


「ライト君……でも……私は君と……」



なけなしの勇気を振り絞ってルナの左肩に右手を置き、声をかけるとルナは肩に乗せられたライトの手の上にそっと右手を重ねて弱々しい声を漏らす。


「それじゃあアルマダさん、申し訳ないんですけど、僕をパーティーに入れてくれませんか?」


「あ、ああ……勿論だ、約束だしな」



ルナの肩に手を置いたままアルマダにそう言うと、アルマダは剃り上げた額に冷や汗を垂らしながらも応じる。



「ありがとうございます。ボス戦は明後日でしたね。少し早いけど、僕達はこれで失礼させて貰います。行こう、ルナ」


「あ、ちょっと待て」



一先ずこの場から離れた方がいいと判断したライトはルナの手を引いて広場を後にしようと歩き出す。

するとアルマダが歩き出した二人を呼び止め、ライトの目の前にフレンド申請のパネルが現れた。



「もう少し会議は続くんでな。詳しい情報を後でメッセで送らせてもらう為に登録頼む」


「あ、ありがとうございます」



アルマダの心遣いに感謝しながら申請ウィンドウのOKボタンを押して承認する。

そして現れるシステムメッセージを流し見ながら、今度こそライトはルナを伴って広場を離れた。





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