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「やぁぁぁぁぁ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
ライトとルナがダッシュからの剣の振り下ろしを同時に一撃お見舞いすると、ウルフのHPは一気に三割割近くも減少し、突然襲撃されたウルフは「ギャンッ!!?」と叫び声を上げ、ルナの予想通り与ダメージが多かったライトをターゲットする。
「ルナ!タゲ来たよ!」
「OK!私がスキルを撃ち込むから一旦下がって!」
ライトの言葉にそう返すと、ルナはぐっと体を沈み込ませてウルフにまっすぐに向けた剣に黄色い光を灯し、先程スパイダーに放ったものと同じ高位片手直剣スキル、単発重突進技の≪ライトニング≫を発動させ、ライトは大きくバックジャンプして戦闘から離脱する。
「ギャアッ!!」
「来るよ!一気に増えるけど落ち着いて対処してね!」
名の如く稲妻のようなルナの刺突を受け、HPバーを一気に残り二割程まで減らしたウルフは一度二人を忌々(いま)しげに睨みつけると高らかに遠吠えを始め、それと同時に周りの至るところからそれに呼応するような遠吠えの声が響く。
「来た!」
「ひい、ふう……五体か……」
昨日ライトが取り囲まれたように五匹のウルフが青い光を伴いながら追加で湧出し、ライト達を取り囲む。
対して取り囲まれたライトは憂鬱な呟きを漏らしながら右手の剣を強く握り直し、ルナはブラウンの瞳の奥に鋭い光を灯し油断無く五体のウルフ達を見つめている。
「グルァッ!!」
「ッ!!」
一瞬の膠着状態の後、一匹のウルフが痺れを切らせ鋭い爪を剥いてライトに飛びかかり、ライトは体を捻ることでそれを躱し、すれ違い様に青い毛皮に覆われた胴を薙ぐ。
「「「「ゴァァッ!!」」」」
「わっ!?」
そのままそれが開戦の合図になっり、残りのウルフ達が一斉にライト襲いかかってきたので一旦ステップを繰り返すことで距離を取り体勢を整える。
「ライト君、囲まれたら範囲系のスキルを使うと良いよ。
一匹は常に私がタゲを取って置くから、残すウルフに気を遣わないでどんどん狩って」
五匹のウルフの波状攻撃を躱してはちまちまと反撃を繰り返しながらどうしたものかと考えていると、いつの間にか先程のウルフを倒していたらしいルナが丁度ライトに飛び掛った一匹のウルフを斬り伏せながらそんなアドバイスを授けてきた。
「了解、頼りにしてるよ」
「私も、頼りにしてるよライト君」
ぱちんとウインクを残しながらそう言い残すと、ルナは起き上がりターゲットを彼女に移した一匹のウルフに軽めの垂直斬りを叩き込み、そのまま少し離れたところまで引っ張っていって戦闘を始める。
「慣れてるなぁ……」
実に無駄のないルナの立ち回りに苦笑いを漏らしながら、ライトも残った四匹のウルフに意識を向ける。
すると残った四匹のうちの一匹、ライト最初にカウンター斬りを叩き込んだウルフが突進で眼前に迫っており、ライトはシッ!という鋭い呼気と共にそのウルフの眉間に向かって剣を真っ直ぐに突き出す。
すると、ズガッ!と音を立てて狼の眉間に赤い点のダメージエフェクトが現れ、ウルフのHPバーが2割程減少するとライトの剣がキックバックする。
「ゴァァッ!」
「おっと」
剣を弾かれたことでライトに一瞬の隙が出来ると周りを取り囲んでいたウルフ達がここぞとばかりに殺到してきたのでそれをステップで躱し、最後に突っ込んできた一匹の背に剣を振り下ろす。
するとそのウルフのHPバーがクリティカルでも無い一撃で三割近くも減るのをちらりと確認すると、ライトは現時点で一番HPバーが減少している最初に突っ込んできたウルフに突進し、左肩に剣を担ぎ上げるように構える。
「セァァァァァッ!!」
担ぎ上げた刀身に赤い光が灯ると、ライトの体は背中が見えない力に後押しされるようにグンっと急加速し、そのままの勢いで剣を袈裟懸けに振り下ろす。
「ギャッ!」
するとライトの剣は僅かばかりの抵抗があったもののすんなりとウルフの体を通り抜け、スキルを受けたウルフは半分以上色が残っていたHPバーから色を無くし赤いライトエフェクトとなって爆散した。
「……なるほど、半減する前に一気にHPを削りきれば仲間は呼ばれないのか」
「ゴラァッ!」
「うわっ……」
空気に解け消えていく光を眺めながら呑気にウルフの攻略方法を考えていると、背後からまだ一度も攻撃を加えていないウルフがライトの首筋に噛み付こうと飛び上がり、唸り声で間一髪攻撃に気付いたライトは剣先と柄をしっかりと握ってウルフの大口に横にした剣を押し込みガードする。
「あっぶないなあ!」
ウルフが口を閉じ、牙と刃がぶつかり合って火花が散った瞬間、ライトは右足を跳ね上げウルフの腹に膝をめり込ませた。
「おまけだ!」
ライトの膝蹴りをもろに受け、くぐもった呻き声を漏らしながら地面をバウンドしながら転がっていったウルフをライトは勢いよく足を踏み切り追いかけ、無防備に腹を晒して悶えているウルフの腹に体重を乗せた剣の突き下ろしを放つ。
するとウルフは一気にHPバーから色を失い、「カ……!」という呻き声を漏らすと姿を光の粒子に変えた。
「……」
ウルフの体を貫き地面に突き立っていた剣を引き抜くと一気に二匹の仲間が姿を消したことで逆上したらしいウルフが二方向から同時に襲いかかり、ライトはそれを冷たい眼差しで見つめると右手の剣を左の腰だめに構え、右足を前に出したスタンスをとり、体勢を低くして体をぎりぎりと限界まで捻る。
システムがライトが取ったプレモーションを感知し剣に水色の光が灯るとその瞬間、ライトの体は弾かれるように回転し、右手の剣は凄まじい速度で水色の円を描く。
「「ギャンッ!?」」
ライトが放った初歩範囲スキル、≪サーキュラー≫に当てられた二頭のウルフは軽々と吹き飛び、バウンドを繰り返しながら墜落するとゴロゴロと地面を転げ回る。
「ッ!!」
ウルフ達のHPバーが丁度緑から黄色に変わるか変わらないかくらいのところで止まっていることを確認すると、ライトはまず近くにいたウルフの腹に垂直に振り下ろした剣を叩き込み、一頭を光の粒子に変える。
「ラスト!」
空を漂う光の残滓に包まれながらその場でぐっと体勢を低くし、可能な限り前傾姿勢をとって右足を強く踏み出す。
するとバァン!という銃声にも似た音が響き、地面がバキィッ!と蜘蛛の巣状に陥没すると共にライトの体は加速し、よろよろと立ち上がったウルフに殺到する。
「グルルァ!」
「喰らえ!」
ウルフに肉迫すると、ライトは切っ先をウルフに向けたまま剣を左腰に動かし、突進の勢いと体の回転運動を使って大口を開けて襲いかかってくるウルフの喉に全力で突き出した。
「ガッ…!?ゴォ……」
突き出されたライトの剣はウルフの喉を貫き、ウルフは苦しげに呻いた後赤い光に姿を変えた。
「………ふぅ、やっぱり形を真似るだけじゃ使えないか………あ、牙と爪ドロップ」
全てのタゲが外れたことで出現したリザルトパネルを見て所得シルと経験値、そしてドロップアイテムを確認しながらそう呟く。
たった今の戦闘の最後の一撃でルナの≪ライトニング≫を真似た攻撃をしてみたが、当然ながらやはり形を真似るだけではスキルは発動してくれない。
内心で少しガッカリしつつもライトはそれもそうだよね……と溜息混じりに呟き納得させる。
「さて、ルナは………」
少し離れたところで一頭のウルフと戦って居るはずの本日の教官殿の姿を探すと、その姿は案外すぐに見つかった。
「あ、終わった?じゃあ追加出すね」
「…………」
あっけらかんとそう宣うルナに、ライトは掛けるべき言葉を見失い硬直する。
ルナはライトが思っていたよりも近くでウルフを相手しており、息つく暇もないウルフの猛攻をさながら風でも受け流すようにひらりひらりと回避に徹していた。
ウルフのHPバーを確認すると、丁度緑と黄色の中間辺りで止まっている。確かにいつでも遠吠えをさせられる体勢だ。
今も相変わらず攻撃しては躱されているウルフの顔に疲労と「お前いい加減にしろよ」みたいな感じの表情が見て取れたが、目の錯覚ということにしておく。
「ギャンッ!?」
ルナはライトが四匹のウルフを狩り終えたのを確認すると、「よいしょ」と戦闘にはおよそ似つかわしくない軽い掛け声に、それとは明らかに矛盾する恐ろしい速度で純白の剣をウルフの背に振り下ろしそのHPバーをイエローゾーンまで減らす。
「ちなみにルナ、どれくらい回避に徹してた?」
「え?確かライト君が一匹目のウルフを倒した時からだよ」
「そっかぁ………」
ウルフが遠吠えで仲間を呼ぶのを見ながらルナに確認を取ると、それがどうかした?みたいな表情でさらりと言われる。
どうやらあのウルフはそれから俺が殲滅し終えるまでの約二分間ずっと当たりもしない攻撃を繰り出し続けていたらしい。
「「「「「グルルル……」」」」」
「来たよ、ライト君。とりあえず手順はさっきと同じで行こう。私も入れるときは入るけど」
「了解、出来るだけ早く狩るよ」
「そんなに急がなくても大丈夫だよ?」
「いや、早いに越したことは無いかなって思って」
その言葉に心の中でこっそり「僕のためにもウルフのためにも」と付け加え、ライトは右手の剣を握り直し二度目の戦闘を始めた。




