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視界を染め上げていた光が収まると、ライトはルナと共に赤いレンガが敷き詰められた道の上に立っていた。
「ここがリスタ村?」
「そうだよ。ほら、上を見てみて」
「上?」
ルナに言われるがまま上を見ると、二人の頭上に小さなアーチの看板が立っており、そこには「welcome to rystar villege」と書かれていた。
「てっきりこの村の転移塔に着くものかと思ってたけど、違うんだね」
「そうだね、なんでかここでは基本的に転移すると転移先の村とか街のメインストリートに転送されるんだ」
「へぇ……まあ、大方データの容量とかその関係じゃないかな?さ、クエストを受けるんでしょ?早く行こう」
「そうだね、こっちだよ」
今は受けるクエストの内容は分からないが、取り敢えず急いで損はないだろうと判断したライトがルナを急かすと、ルナは頷き道路と同じ赤レンガで作られた家が建ち並ぶ村の奥へと進み出した。
「じゃあ、今回受けるクエストについて説明するね」
てくてくとレンガ道を歩いていると、ライトの隣を歩くローブのフードを後ろに取り払ったルナが説明を始めた。
「今日のクエストは所謂虐殺系のクエストで、
ざっくり内容を言ってしまうとこの村の近くの森ーーこれから私達が行くところねーーに昨日ライト君がリンチされてたブルーウルフが大量発生して村人達が困ってる。
そこに通りすがりの冒険者、まあ私達プレイヤーなんだけど、が現れたから是非そのブルーウルフ達を討伐してくれ。っていうのが大まかな流れ。」
「な、なるほど……ブルーウルフね……」
クエストの内容を聞き、昨日の半泣きで続々と増えていく狼共を狩っていく場面を思い出してしまい仮想の表情筋が引き攣る。
百匹もの大型の狼に延々と襲われるという光景は、確かにライトにトラウマを植え付けていた。
だがルナはそんなライトを安心させるように微笑むと、言葉を続けた。
「あはは、大丈夫大丈夫。昨日のライト君とは違って装備も新調したし、回復アイテムも持ったし、それに何より私が付いてるからさ。少なくともライト君のHPを黄色にはさせないよ」
「はは……是非よろしく頼むよ」
ルナの頼もしい言葉を聞き、苦笑いでどうにかを絞り出す。
内心では男女の立場が逆じゃないかと思わなくも無かったが、ライトの頼れる教官は鼻歌などを口ずさみながらスタスタと軽い足取りで歩いているルナだ。おそらく助けてもらうことはあってもライトがルナの助けになることは無いだろう。
「それで、このクエストでは何体のウルフを討伐すればいいの?」
「何体か………うーん、正直わかんないかな」
「わかんない?討伐目標数とか決まってないの?」
「えっと、まあ確かに何々を何体倒せってクエストもあるんだけど、今回のクエストは討伐した数じゃなくて対象モンスターがドロップした証拠品アイテムを依頼主に提出してようやくクリアなんだ。
今回は≪青狼≫の牙≫と≪青狼の爪≫をそれぞれ30個ずつ納品がクリア条件で、アイテムのドロップ率が二個とも10%だから……確実に十体に一体がどっちもドロップすると考えたら、まあ単純計算で大体三百は狩ることになるかな?」
「さ、三百!?昨日の三倍も狩るの!?」
驚くべき言葉に悲鳴染みた声を上げると、ルナはフフッと笑い、頷いた。
「大丈夫だよ、ブルーウルフはHPが半減したら大量に仲間を呼ぶのをは知ってるでしょ?それを逆に利用してあげれば三百くらいすぐだよ。
それに、多分ライト君のステータスと今の装備なら一匹倒すのにそんなに苦労しないと思うよ」
「そ、そうかな………?」
確かに仲間を呼ぶのは身をもって体験済みだが、流石のライトも後半の言葉は少し頷きかねる。
なんせ装備を変えてからの初めての戦闘なのだ、昨日とは何もかもが違いどの程度動けるのか、まだ全くの未知数。そんな状態で「任せろ!」などと言えるほどライトの神経は太くない。
「まあ、後で慣らし戦闘もするからゆっくり見極めればいいよ……あ、でも戦う前にちょっとした役割だけ決めよっか。
私はウルフ達のHPを半減するくらいまで削るから、ライト君は次々に現れるウルフ達の殲滅。
注意なのが必ずウルフの呼び出し用に一匹か二匹は残すこと。
あとは戦闘中に簡単に指示を出すからそれに従ってくれれば大丈夫だよ」
「ん、了解」
「うん!じゃあそろそろ依頼主の村長の家だから、まずは村長に話を聞いてクエストのフラグを立てるよ」
ライトの返事にそう返すとルナは満足げに頷き、村の中で一際大きい家へと一度ノックをしてから入っていったのでライトもそれに追随する。
「………あれが村長?」
家の中に入ると、部屋の中央に置いてある木製の椅子に腰掛け「うむむむむむ……」と頭を抱えている老人が目に入り、ルナに確認を取る。
「そうだよ、それで私達が受けるクエストの依頼主。カラーカーソルの上に何か表示されてない?」
そう言われてじっと村長を見ると、村長の頭上に青いカラーカーソルと『HELP!』という金色の文字が現れた。
「クエストを持ってるNPCには必ずヘルプ表示が出るから、今後クエストを受ける時にはその表示があるNPCを探してね。それじゃ、時間もあんまりないしさっさとクエストを受けちゃおっか」
そう言うと、ルナは椅子に腰掛け「うむむむむ………」と禿げ上がった頭を抱えて唸り続けている老人の正面に回り込み、「何かお困りですか?」と話掛ける。
すると、頭を抱えていた老人はルナを見るや否や救世主でも見つけたかのような表情に変わり、どこか縋るような面持ちで口を開いた。
「おお……これはこれは……勇猛なる冒険者様に出会えるとは、今日はなんと良き日かな……。
冒険者様、その慈悲深き御心で我が村を救ってくださらんか?」
「お話を伺いましょう」
ルナが老人の言葉に返すと、老人の頭上のヘルプ表示が金色から薄緑色に色を変え、ライトの視界に『クエスト≪リスタ村を救え≫受領待機中』というログが表示された。
「……実はここ一ヶ月程、近隣の森にて青色の毛皮を持つ狼がその数を劇的に増やしておりまして、森で畑仕事に勤しむ男衆を襲っているのです。このままでは村の収入が無くなる上に、この村にまで狼が攻め入って来ることになりましょう。恥ずかしながら我が村には腕に覚えのある衛士などはおらず、ましてや新たに衛士を雇う余裕などもありませぬ。どうか何卒、そのお力を以って彼奴らをうち滅ぼしてくださらんか?」
「わかりました、引き受けます」
「おお!ありがたい!彼奴等は自身が死に瀕すると遠吠えで仲間を呼びます。狼の大群に襲われては冒険者様とてひとたまりもありますまい。何卒注意してくだされ」
ルナが頷いて見せると老人はそんな助言をして再び頭を抱えて「うむむむむ………」と唸り始める。
すると、ファンファーレと共にライトの視界に『≪リスタ村を救え≫クエストを受領しました』と書かれたログが現れた。
「よし、受領完了。じゃあ行こっか。目的の森は村の北門から出てすぐのところにあるよ。ちなみに証拠品の牙と爪はクエスト期間中にその森でしかドロップしないから、いくら昨日ライト君が大量に狩ったからっていってストレージに入ってたりしないからね」
「あはは……それは残念」
実は頭の中で昨日狩ったしストレージの中に入ってないかなーと考えていたところで内心をズバリ当てられ、ライトは苦笑いを浮かべて誤魔化す。
クエストを受けている期間中にしかドロップしない、つまり一時的アイテムであるということは、昨日のようにクエストを受けずに狩るだけでは手に入らないということ。
「今日はまた長丁場になりそうだなぁ……」などと考えてから、村長の家を辞去するルナの背を追った。




