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「さて、あたしはそろそろ落ちるわね。二人も朝から学校なんだから余り夜更かししちゃダメよ」
マリアはルナがイヤリングを着けるのを見届けると、コーヒーカップをキッチンに片付け、メニュー・ウインドウを開く。
それからしばらく何やら操作をするとライトの目の前に小さな窓が出現し、そこには『≪Maria≫からフレンド申請が届いています。受諾しますか?』とのメッセージとYes・Noボタンが表示されていた。
「今後武器のメンテとか装備の更新とかで用があったらメッセージを飛ばして頂戴。パスのノックを教えるわ」
「ああ、なるほど。ありがとうございます」
何事か理解が追いつかず、突然現れたウインドウに頭上に疑問符を浮かべたライトに薄く微笑みかけるとマリアはそう説明し、その説明を聞いたライトは迷うことなくYesボタンを押して申請を受諾すると、ウインドウが『≪Maria≫がフレンドに登録されました』との表示に切り替わり、数秒の後に自動的に消える。
「それじゃ、今度こそ落ちるわ。おやすみなさい、二人とも」
フレンドの登録が完了したのを見届けたマリアは再びウインドウを操作すると、その体が空気に溶け消えるように次第に透けさせていき、ふっと音もなく消えた。
「あ、今のはマリアがログアウトしたの。
落ちるって言うのはログアウトを指す隠語ね?」
「なるほど……確かにもう一時回るし僕もそろそろログアウトしようかな?」
ライトとしてはもともとは試しに少しログインする程度のつもりだったというのに、色々あっていつの間にか時間を忘れていた。
ウインドウを展開して隅に表示されているデジタル表示の時計を確認してみると、既に一時を回っており、いつもならとっくにベッドに潜り込んでいる時間だ。
マリアが言い残した通り、二人はまだ高校生。翌日も変わらず学業に追われる身としてはこの時間まで起きているというのはよろしくない。
「そうだね、そろそろ私達も落ちようか。じゃあその前に………」
ルナがそう言うと、マリアの時と同じようにライトの手元にフレンド申請のウインドウが現れた。
それを先程と同じ手順で受諾し確認画面を消すと、ルナはウインドウを開いたまま声をかける。
「そういえば、ログアウトの仕方はわかる?」
「まあ、流石にそれくらいはね。ログアウトボタンを押すか、宿屋とかでの寝落ちでしょ?」
「うん、そうそう。あ、でもフィールドでは即時ログアウトは出来ないから注意してね?
フィールドでログアウトしようとしても体は暫くその場に残ったままだから、その間にモンスターとかプレイヤーにHP全損させられたらデスペナ食らっちゃうからね」
「なるほど、でもここは街だしさっきのマリアさんみたいにすぐログアウト出来るんだよね?」
「まあ、そうなんだけど……あ、でも街中でも長時間ログインしないんだったらちゃんと宿屋とかでログアウトするようにね。それと、今度フィールドでログアウトすることがあったら気をつけてね。それじゃあ、おやすみなさい」
「え?……うん、おやすみ」
ルナの最後の言葉に気になる言葉が混ざっていたことで聞き返そうとするもルナは既にその体を透けさせており、この状態に移行した時点でルナの意識は現実世界の輝宮美月の体に戻っている。
こうなってしまっては聞き返すことも出来ないので、ライトは「まあいいか……」と一人ため息混じりに呟き、ウインドウの最下層に存在するログアウトボタンを押し込んだ。
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「ん………」
ログアウト時にブラックアウトしていた意識が覚醒し、閉じられていた目を開けると、眩しい光が雷翔の視界を白く染めた。
「う………」
強烈な照明の光に目を細め、ぼんやりと焦点の合わない視界で辺りを見渡す。
手探りでLED照明のリモコンを探し当て光量を調節し、何度か瞬きすることで朧げな視力をどうにか取り戻した雷翔が見渡したそこは先程までのライトがいた仮想世界の部屋ではなく、紛れもなく東京都内のとある住宅地にある一軒家の雷翔の部屋だった。
「………ふぅ」
雷翔は肺に溜まった空気を吐き出し、視界を覆う薄灰色のバイザーを持ち上げてベルトで固定されたヘッドギアを外す。
頭を締め付けていた圧迫感から解放されたことにより乱れた長い髪を軽く手櫛で整えると雷翔は立ち上がり、長時間同じ体勢でいたことにより凝り固まった体を伸ばす。
「ん~……うん?」
ぐーんと大きく体を伸ばし、その際にパキパキと気持ちの良い音を立てる体に仮想世界には無いリアル感を感じていると、机の上に置いておいた携帯端末が規則正しく光を明滅させていたことに気づく。
「なんだ氷雨か……」
端末を机から拾い上げ確認すると、一時間程前に雷翔の悪友氷雨からメールの着信があったようで、メールファイルを開いて確認すると「これからアナザーワールドにログインするぜ、羨ましいだろザマーミロ」といった感じの内容だった。
「えっと………」
一時間程前というと、ライトはルナに手伝って貰って装備の更新をしていた頃だったと思うが、その頃に奴もマザータウンにいたとは、鉢合わせなくてよかったと雷翔はほっと息を吐く。ルナといる所を奴と見られでもしたら、十中八九質問責めされたり、騒ぎ立てられていただろう。
ルナ自身、氷雨と違い目立ちたがり屋な性分では無いようだし、さしもの氷雨も振られた相手に合うのは気まずいのではないだろうか。
最も、後者は氷雨に気まずいだとかそんな感性があればの話だが。
「……まあいいや」
「僕なんか超強い装備に更新したぜザマーミロ」とでも返信しようかと少し考えなくもなかったが、そもそもアナザーワールドを持っている筈の無い雷翔がそんなメールを送ったところで氷雨が色々と根掘り葉掘り聞いてくるのは目に見えているので、「そーなのかー」と適当に返信する。
そしていつも通り端末を充電用のコードに繋ぎ電源を落とすと、右手の中指にはめられている風香からのプレゼントのリングを外し、ケースに入れる。
そして今度はヘッドギアをつけずにベッドに横たわり、緩やかに訪れる眠気に身を任せた。




