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「あらあら、話に聞いていたより可愛いコじゃない。ね、お姉さんとイイコトしない?」
「え……いや………」
マリアと呼ばれた青年は品定めするような視線でライトの全身を見渡すと一度ペロリと舌舐めずりをして見せる。
マリアは氷雨とはまた違った意味で整った顔立ちをしているというのに、何故だか纏う雰囲気がそれを台無しにしているような気にさせる、そんな人物だった。
「マ~リ~ア~?ライト君が困ってるじゃない。ライト君、マリアのこういう発言はスルーしてくれていいからね?」
「う、うん……」
ライトがこれまで出会ったことない人種、自称お姉さんのマリアの発言に困惑していると、どこか不機嫌そうな声色でルナがマリアを諌める。
その際にマリアが本気のトーンで「残念……」などと呟いていたような気がしたが、流石のライトも命は惜しいので聞かなかったことにしてルナの言葉に頷いた。
「マリア、そろそろ本題に入りましょう」
「あ、そうね。学生達に余り夜更かしさせるのもよろしくないか。
それじゃあ、ライト君の装備の更新でいいの?ルナは装備のメンテもしていく?」
「そうね、ライト君の全装備を見繕ってあげて。
メンテは……じゃあこの子のフル回復よろしく」
そんな会話を繰り広げる二人に取り残された感をひしひしと感じながらその光景を見ていると、ルナが茶ローブの下からパチンという音と共に鞘に収められた一振りの直剣を取り出した。
ルナが取り出した直剣は、鞘に隠れていない剥き出しとなっている鍔に美しい茨の弦が巻きついたような形をしており、その中心に一輪の小さな白薔薇があしらわれている剣。
そして、その鞘、鍔、柄の全てがルナの髪と同じ純白で出来ているもいう、ライトにどこか神々しさを感じさせるものだった。
「うーん、やっぱりいつ見ても美しいわね。
この子を作ったなんて私が一番信じられないわぁ……」
マリアはルナから剣を受け取ると、ゆっくりと鞘から抜き、現れた純白の両刃をうっとりとした表情で見つめ、そう呟いた。
このアナザーワールドというゲームの中で装備アイテムを入手する方法は大まかに四つのものが存在する。
まず、NPCの店での購入、二つ目にモンスタードロップ、三つ目にクエスト報酬、そして最後にプレイヤー作成。
言わずもがなNPCの店での購入が一番メジャーな方法で、その名の通り多くの町や村に存在するNPC……プログラムから購入する方法。
全体的に安いのが特徴で、ことに首都のNPC武器屋などはグレードが高いものが無い代わりに廉価な装備品を取り扱っているので、初心者などはログインしたらまずは手近なNPC武器屋に駆け込み所持金ギリギリで換装出来るものに持ち変えるということがプレイ開始時の定型となっている。
次のモンスタードロップは、読んで字の如くフィールドに湧くモンスターを倒し、何パーセントかの確率で出るドロップアイテムを手に入れること。
ウルフのような雑魚mobだと大したものは出ないが、ボス級のモンスターのドロップ品はユニーク品、つまり超が幾つも付くほどに貴重な一点ものになる。
そしてクエストの報酬というのもその名の通り特定のクエストをクリアすることでその報酬を手に入れるというもの。
そして、最後のプレイヤー作成は生産系スキル、特に武具製作スキルと鍛治スキルを上げている人に素材やら金やらを渡して装備品を作ってもらうこと。
大まかに分けると、この四つが基本的な装備品の入手経路になる。
「ちなみに私のあの片手直剣、≪ヴァージンローズ≫っていう固有名持ちなんだけど、あの剣はマリアに作ってもらった武器でこのゲームのサーバーに一本しかないユニーク装備なの。」
「へえ……ヴァージンローズ……≪純潔の茨姫≫ってとこかな?」
「あら、詩的な表現をするのね。嫌いじゃないわ、そういうの」
ふとルナの剣の名前を聞いてライトが頭に思い浮かんだことを呟くと、どうやらそれが聞こえていたようで、突然背後でそんなマリアの声が聞こえた。
思わずぎょっとしてしまいながら振り返ると、そこには先程まで身につけていたフリフリのエプロンからいかにも職人然とした茶色い皮エプロンと皮手袋に装備が変えたマリアがくるくるとルナの剣を弄びながら佇んでいた。
「ちょっとライト君の方が時間かかりそうだから、先にルナの剣のメンテさせて貰うわね。
ルナ、立たせておくのも悪いしお茶でも淹れてそこのテーブルで色々レクチャーしてあげなさい」
マリアがそう言うと、ルナは「はーい」と嬉しそうに返事をすると勝手知ったるといった様子で内装などがほぼ民家の内装の店の奥のキッチンへと入っていった。