序章
この島の向こうにはどんな世界が広がっているんだろう
俺はこの島から出たことがない。ものごころついた時からこの島に一つしかない村で育ってきた。
今年で17歳になる俺には島の外の世界を見てみたいという夢がある。
でも、島で一番高い場所であるこの丘から島の外を見るたびに俺の夢は夢のままで終わるだろうという現実を嫌でも痛感する。
この島は空に浮いている。
周りに見えるのは白い雲と青い空だけだ。
この島は村の人たちの意思で動いている訳ではない。ただ、風の向くまま流されているようなものだ。
この島のずっと下には地上というこの島とは比べものにならない程広い大地が広がっているという。
どうすれば島の外に行けるか、いつも空いた時間にはこの丘で考えてみるが、何も思いつかない。
そうしていると視界の端に鳥が飛んでいる姿が映った。
その影は近付いてくる内にだんだんはっきりと見えてきた。
鳥にしては大きいその影は高度を徐々に下げ、はるか頭上を越えて島の中央部へと落ちて行った。
普段島の上を鳥が通り過ぎて行くなんてことはない。図鑑で鳥の絵を見たことはあるが、本物は見たことがなかった。
「ちょっと見に行ってみるか」
好奇心に誘われるように鳥が落下して行った場所へと俺は走り出した。
島の中央部は大部分が様々な木々が生え渡る森林になっている。その他にもその森林の中にはいくつか、遺跡などの考古学的なものが出土したりもいている。この森林自体は島の3分の1を占める程の大きさだ。
森の中を進んでいくと森の住人である動物達が皆同じ方向に進んでいた。動物達も目的は同じだろう。ここは案内してもらおうと後をついていった。
先に進んでいくと、だんだん木々が開けて川が見えてきた。
そして、白い翼が見えたので近くまで寄って行くと翼の先は人の姿だった。腰までかかる金色の髪に白いローブを羽織っている。図鑑に載っていた鳥の姿とは翼以外全く異なっている。いや、例え図鑑で鳥の姿を知らなくてもこれは鳥ではないと分かる。これはどう考えても...
「女の子だよなー」
とりあえず声をかけてみるか
「おーい、大丈夫か? おーい ってかまず言葉が通じてんのか?」
意識を確認してみても応答がない。
これはかなりマズイ状態な気がする。少なくともこのまま何もしないでほうっておけない。この森を抜けて村に帰るまでは徒歩で1時間以上かかる。見たかんじこの倒れている子はそこまで重くなさそうだが、それでも人一人担いで1時間以上歩くのは骨がおれる。
「とりあえずログじいさんとこにでも連れて行くか」
この川の上流辺りにログという老人が一人で住んでいる。村に戻るよりは早くこの子を休ませられるだろう。
ログじいさんの所に向かう道中、不謹慎だけど俺は少しばかりわくわくしていた。この子が空から落ちてきたってことはこの子は俺の目指していたこの空を渡ってきたんだ。だったらこの子が目を覚ましたら何か島の外のことが聞けるかもしれない。
「なぁ、早く目を覚ましてくれ」
そして俺に外の世界の話のひとつでも聞かせてくれよ