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誤解スパイラル

「新入部員が来たぞ!」


 そう言ってマコトが連れて来たのは、金色に染めた髪を針鼠みたいに逆立てた男子生徒。

 耳にはピアス。学ランの前は当然のように全開で、他人を威圧するような目付きと相まって不良の見本みたいだった。

 ……目つきについては人の事を言えないけれど。


 しかしこの男子生徒。自己紹介でその印象をふっとばしにきた。


「一年の瀧見リヒトです。美術部とのかけもちのため毎日参加する事はできませんが、ご指導のほどよろしくお願いします」


 見かけによらず礼儀正しかった。むしろ新入部員の中で一番礼儀正しいかもしれない。

 しかも美術部員ときたのものだから、その外見も本人なりの美的感覚に基づいたファッションなのかと勝手に納得してしまう。


「入学早々三年生シメてたからな。とりあえず殴りあいは強いぞー」


 やっぱり不良だった。そんな子を入れて大丈夫なのだろうか。

 そんな心配をしていたのだけれど、瀧見くんは特に問題を起こす事無く、真面目に練習に励んでいた。


 ……やはり外見で誤解されるタイプなだけかな。三年生をシメたというのも、何かの誤解かもしれないし。



 真面目な新入部員その3がきて、マコトは俄然やる気を出し始めた。もっとも、うちの部の練習時間でやれることなんて、たかがしれているんだけと。

 しかし瀧見くんは本当に素人なのか、時に見惚れるほど見事なストレートを放つ。少なくとも、素人にありがりな外回りで小指を痛めるパンチじゃない。

 殴り慣れているとは本人の弁だけど、その殴り方をどこで覚えたのやら。


「あとは足かな。単純なフットワークと足運び。速いパンチは足で打つっていうし、その辺りは体に染付けといた方が良いね」

「はい」


 素直に頷いて聞き入れる姿は、とても喧嘩三昧の問題児には見えない。

 そもそも本当に問題児だったら、入学前に弾かれていただろう。何度も言うが、三鷹東高校は入るとゆるいが入るのは難しいのだ。


「……」


 しかしたまに凄く暗い目をこちらに向けてくるのは気になる。

 何と言うか「おまえを殺す」とかいきなり言われても納得しそうな睨みっぷり。

 でも悪い子ではないんだよなあ。カナタさんみたいに、目付きが悪くて無口無愛想無表情で誤解されやすいだけかもしれないし。


「ユウキせんぱーい。相手をお願いします」

「あれ? マコトは?」


 リングの上から呼んでくるナオミさんに、相方はどうしたのかと聞き返す。

 一応ナオミさんの面倒は基本マコトが見ることになっていたはずなんだけど。


「マコト先輩とはさっきやりあいましたから。次はユウキ先輩です」

「……元気だね君は」


 素晴らしい笑顔のナオミさんに溜息しか出ない。何で僕の周りには濃い女子(カナタさん除く)ばっかりなんだろう。

 ……女子以外も濃かったね。うん。


 そんな事を考えていたら、隣の瀧見くんがもの凄く胡乱な目で僕を見ていた。

 もしかして、そういう事なのかな。モテるねナオミさん。



 リングの上でスパーリングに励むユウキくんとナオミさん。実力があるというのは本当らしく、あのユウキくんの反則的な反応速度に辛うじてながらついていっている。

 その顔は実に輝いてる。マコトがライオンの笑みなら、ナオミさんはキツネの笑みだろうか。

 ユウキくんが言っていたように、見かけによらず意地が悪いのかもしれない。


「……アレ……い……」

「……ま……だろ」


 ふと気付くと、一年の男子たちが集まってユウキくんたちの様子を見つめていた。

 レベルの高い二人の攻防を見て、何か刺激される所でもあったのだろうか。これを気に真面目に取り組んでくれる人が増えてくれると良いのだけれど。


 そんな期待は、あっさりと裏切られた。


「あれでインターハイ出れんの? 高校のボクシングのレベルが低いって本当なのな」

「そんな凄く見えないよな。というか俺でも勝てんじゃね?」


 あまりな意見に溜息が出てきた。

 素人にありがちな勘違い。離れた所から見て、その動きが速くないと感じる事がある。だけど実際に間近で見てみれば大違い。

 インターハイの決勝のときだって、ユウキくんの試合を見ていた橘くんは、ここからなら目で追えるけれど、実際に戦ったらあっさり見失うと認めていた。それぐらいユウキくんは巧みで速いのだ。


「なんすか? なんか言いたいことでもあるんですかマネージャーさん?」


 私の溜息が聞こえてしまったのか、一年の一人……どういう心境でそうしたのか分からないけれど、緑色の髪の男子が話しかけてきた。

 話しかけてきたというよりも、絡みに来たという方が正しいだろう。後ろから付いて来ている男子数名もニヤニヤしている。

 ……面倒臭い。これなら瀧見くんの方がよっぽど品行方正に見えてくる。


「何だおまえら。まだ扱き足りないか?」

「え?」


 男子生徒が振り返った先には、腕組みをして仁王立ちで笑う部長マコトの姿。

 ただし笑い方が恐い。前にユウキくんが笑顔は威嚇の顔に似ていると言っていたけれど、今マコトは間違いなく威嚇している。


「しかもユーキが弱いか。いやーフェザー級準優勝を捕まえて弱いか。今は階級上がってパンチも重くなってるだろうに、いやはや今年の新入部員は先が楽しみだな」

「え……と、そのですね」


 しどろもどろに言葉を漏らす男子生徒。ユウキくんの強さは分からなくても、今のマコトがヤバイことは分かるらしい。

 もしかしたら、この間の騒ぎでユウキくんを一方的に殴っていたのを見ていたのかもしれない。マコトのパンチの威力が常識外れなのは、素人にも分かるだろうし。


「よし! じゃあ実際にやってみるか!」

「……はい?」


 突然空気をカラッとさせて言うマコトに、男子生徒一同が間の抜けた声を上げる。


「ユーキを相手にルール無用の決闘だ。攻撃当てたら中嶋とのデート権獲得ってことで」

「いや、勝手に決めないで『何言ってんのよそこの怪力女!?』……ってナオミさんも言ってるよー」


 ユウキくんの発言を遮って何やら英語で叫ぶナオミさん。そしてそれを即座にオブラートに包んで翻訳したことにするユウキくん。

 ……今間違いなく罵倒語入ってた。


『何で私がこんな豚どもとデートしなきゃいけないのよ!?』

「日本語で頼む」

「……部長。私は関係ないと思うんですけど」


 マコトに言われて日本語で話すなりしおらしくなるナオミさん。どうやらナオミさんも、マコトには逆らえないと悟っているらしい。


「餌があった方が喜ぶだろ。なんなら私とのデート権にするか?」

「全力でお断りすると思うよ」


 ユウキくんが余計な事を言ってマコトに殴られる。毎回思うけれど、マコトちゃんと手加減してるのかな。凄い勢いでユウキくんの体がぶれてるんだけど。


「でも僕も納得いかないというか。ナオミさんに恨まれるじゃん」

「当たらなきゃいいだろ。そもそも、おまえがそんなふにゃふにゃした態度だから後輩になめられるんだろうが!?」

「えー」


 マコトに胸倉掴まれつつ首を傾げるユウキくん。

 その「えー」はなめられているの自覚していないからか、それともなめられても良いと思っているからなのか。ユウキくんの性格的に、なめられても気にしなさそうだけど。


 こうしてユウキくん対新入部員の戦いの火蓋が切って落とされた。

 ……ユウキくんも大変だ。後で労わってあげないと。



 この間のしっと団との戦いの悪夢再びかと思ったけど、流石に今回は一人ずつと戦うことに。

 それでも新入部員五人居るんだけど。佐野くんと瀧見くん入れたら七人だし。


『分かってるよねユウキ。もし当てられたら、ある事ない事カナタに吹き込んだ挙句、社会的に生きていけない体にしてやるわ』


 今日もナオミさんは絶好調だ。激励に来たのかと思ったら、両肩掴んで脅しにかかってきたよ。

 ……みんなこの子のどこが良いの。もっとリスニングの勉強しようよ。


「じゃあ時間は三分で。ルール無用の何でもありでいくぞ。ただしユウキは攻撃禁止で避けるだけ」

「え? 本当にルール無しでいくの?」

「さあー開始ー!」


 思わず抗議した僕を無視して、笑顔でゴングを鳴らすマコト。

 最近調子に乗ってるよねマコト。僕が相手なら何をやっても大丈夫だと思ってない? 僕だってストレスは溜まるし、キレる時はキレるよ?


「ちぇりゃあぁぁっ!」

「おっと」


 突然飛び込んできた緑髪の男子生徒の前蹴りを、反射的に避ける。いや、確かにルール無用って言ったけど、いきなり蹴りで来るか。

 そう思って男子生徒を見ると、何やら見覚えのある構えをとっていることに気付く。


「前田くん……だっけ? それ空手?」

「そうっすよ。蹴り使っても良いんですよね」


 なるほど。やけに自信ありげだと思ったら、格闘技経験者だったのか。

 しかしあまり動きにキレがないというか、真面目にやらずに惰性で続けてたタイプだなこれは。それでも積み重ねられたものは油断できないか。


「ハッ!」

「おお!?」


 何の躊躇いもなく踏み込んできて正拳を叩き込んでくる前田くん。距離を取り合うボクシングと違って、空手は至近距離で殴りあうのが基本なんだっけ。

 僕が殴れないこのルールじゃ圧倒的に不利だ。というかルール無用のはずなのに、何で僕にだけルールがあるの。


「隙あり!」


 しばらくひょいひょいと前田君の攻撃を避けていたけど、下がりすぎてコーナーにまで追い詰められた。そこで叫びながら前蹴りを放つ前田くん。だけど……。


「無いよ」

「はっ!?」


 そんなものあっさりと避けて、コーナーを脱出しついでに後ろに回りこむ。

 何が起こったか分かってない様子でキョロキョロする前田くん。やっぱりボクシングの動きにはまだ慣れてないね。


「さっきから大技使ってるけど、今回は当てれば良いだけだよ? 隙が多いのは君の方」

「……」


 僕の言葉を聞いて、前田君は口元を引き締めて構えを取り直す。

 慢心が無くなった。だけど遅いんだなコレが。


「はい三ぷーん」

「え?」


 カーンとゴングが鳴って、試合だか決闘だかよく分からない戦いの終わりを告げる。

 どうやらもう三分が経つことに気付いていなかったのか、唖然とする前田くん。


「残念でした。まあ次の機会に頑張って」

「……あっした!」


 僕の言葉を聞いて、一礼してリングを降りる前田くん。

 ……何今の意外な礼儀正しさ。空手って礼儀作法も叩き込まれるんだっけ?

 案外マコトに調教させたら真面目になるかもしれない。


 しかし「前田」くんかあ。しっと団に入って田んぼ三兄弟の補充要因になりそうだなぁ。……無いよね?



 一人目の前田くんが意外な強さを見せたのは驚いたけれど、その後に続く男子生徒たちは予想通りの結果に終わった。

 攻撃がかすりもしない。中にはもうどうして良いか分からずに棒立ちになってしまう子まで居た。

 いつも真面目に練習を頑張っている佐野くんも、流石に数週間の練習でユウキくんに当てられるはずもなく、全員ユウキくんを殴る事はできずに終わった。

 ……はずだったんだけど。


「……」


 無言で、のっそりと、意外な人物がリングに上がった。


「来たね瀧見くん。来て欲しくなかったというか、僕の身がどっちに転んでも危ういというか」

「……」


 ユウキくんの軽口にも答えず、無言でグローブをつける瀧見くん。

 ユウキくんは予想していたみたいだけれど、私からすれば予想外すぎる。こんな馬鹿騒ぎなんて、参加せずに傍観するタイプだと思っていたのだけれど。


「マコト。ルール無用のままでいくなら、僕のルールだけ変えるよ」

「……まあ仕方ないか」


 ユウキくんのどこか矛盾している要求に、マコトは少し考えた後にOKを出した。

 ルール変更って。そのままやったらユウキくんに勝ち目がないってこと?


「僕の方からも攻撃あり。勝利条件はテクニカル含むKOで」

「まあそんなもんか」


 その条件に周りがざわつき始める。それはそうだろう。これまで圧倒的な強さを見せていたユウキくんが、瀧見くんを自分と同等の強さだと認めたに等しい。


「良いのマコト?」

「ん? 妥当だろ」


 一年生を戒めるはずの戦いで、一年生の瀧見くんを対等扱い。それは不味いのではと心配する私に、マコトはあっけらかんと答えた。


「まあ相性の問題もあるしな。今回限りは瀧見が有利なんだよ」

「相性?」

「ユウキは喧嘩が弱くて、瀧見は喧嘩屋だってことだよ」


 そう言いながら、マコトはカーンとゴングを鳴らした。



「ほっ、ハッ!」


 ゴングが鳴った瞬間、右から回し蹴りが飛んでくる。そしてスカされた勢いのまま後ろを向いたと思ったら、すかさず後ろ蹴り。

 いきなり回し蹴り。しかも近付こうと思ったら牽制された。

 やっぱり喧嘩慣れしてるな瀧見くん。蹴りだけでも禁止した方が良かったかなぁ。


「でもッ」


 パンチだけならこちらが有利。そう思いながらジャブを二発続けざまに打ったのだけど、瀧見くんはあっさり手で弾く。

 ……いや、どんな喧嘩してればジャブ弾けるようになるの!? 何このリアルストリートファイター!?


「なら!」


 構えを変える。僕の十八番にして、アメリカで散々「向いてないからヤメロ」と言われたフリッカージャブ。だけど、この独特の軌道のパンチは、喧嘩では見た事が無いはず。


「……」


 その予想は正しかったらしく、二発ほど貰った後に距離を取る瀧見くん。

 逆に言えば二発しか入らなかった。人の事は言えないけど、反応が早すぎるよこの子。


「やっぱ強いね瀧見くん」

「……」


 褒めてみたけど、相変わらず瀧見くんは無言。無言選手権があったら、カナタさんと清家くんすらぶっちぎって優勝するに違いない。


「……」

「おっと」


 突然踏み込んできた瀧見くんにフリッカージャブを合わせる。しかし流石リアルストリートファイター。こちらの予想を越えてきた。


「げっ!?」


 ジャブが虚しく空を切る。踏み込んだ瞬間に瀧見くんが体勢を低くして、そのまま突っ込んできたせいだ。

 しかもそのまま清家くんは接近中。このままではタックルをくらって倒される。


「ハッ!」

「!?」


 しかしそうはいかせない。倒されてマウントをとられたら、ハッキリ言って僕に成す術は無い。

 最悪だけは回避するために、僕は不自然な体勢のまま飛び込み前転を敢行し、瀧見くんを跳び越える。

 そのまま受身を取り、ゴロゴロと転がる。そうやって距離を取ると、すぐさま立ち上がって瀧見くんへと向き直った。


「……」


 今のは予想外だったのか、再び距離を取って構える瀧見くん。

 ……危なかった。まさかあんな無駄にアクロバットな避け方をする破目になるとは。

 無駄の無い無駄に洗練された無駄のある動きをするのは、フィクションの中だけの特権だっていうのに。


「はい1ラウンド終了ー」


 睨み合い、緊張が高まった所で、水をさすようにゴングの音が鳴り響いた。

 いや、正直助かったかもしれない。このままやってたら、負ける可能性が高かった。


「……って、1ラウンド?」

「だって勝負ついてないだろ。どっちもKOされてないし」


 ……そういえば勝利条件をテクニカル含むKOって言ったけど。


「あれ僕にも適応されるの!?」

「適応されなきゃおまえが有利すぎるだろ」


 確かに。でもこれ以上僕は瀧見くんと戦いたくない。少なくともルール無用では。


「……もう瀧見くんが勝ちで良いんじゃないかな?」

『待ちなさいこの蛆虫!?』


 投げやりな僕にナオミさん激怒。

 というか「蛆虫」て。まさかそんな罵倒を現実で貰うことになるとは。


『人事だと思って投げんじゃ無いわよ!? やるなら再起不能になるまで叩き潰しなさい!』

『いや、再起不能は不味いだろ』


 何か瀧見くんに恨みでもあるのか。他の男子と違って、瀧見くんは特にナオミさんに害は与えてないはずだけど。

 というかその瀧見くんがナオミさんの発言を聞いて若干引いてる。

 ……もしかしてナオミさんのエクセレントな英語聞き取れるの? その上でナオミさんが好きなら、良い趣味をしていると言わざるを得ない。


『別に良いだろ。瀧見くんは他の男子みたいに馬鹿じゃないし、見た目と違って良い子だ。少なくとも友達になっておけば、他の男避けにはなるし』

『っ……、確かに瀧見は見かけと違って良い奴だけど』


 認めた。その事が分かる程度には瀧見くんを見ていたらしい。というか何このツンデレ予備軍。面倒臭いから早く引き取って瀧見くん。


『別にデートって言ってもベッドインしろってわけじゃないし、ボーイフレンドと出かける程度の認識で行けば?』

『……でも噂とかになったら』

「別に無理に行かなくていい」


 もう少しでナオミさんが折れるというところで、瀧見くんが微妙に視線を反らしながら言った。

 クールだ。でも微妙に凹んでいるようにみえるし、やっぱりナオミさんの英語を聞き取れてるっぽい。

 ……色んな意味で凄いな瀧見くん。そんな事を考えていたら、瀧見くんがこちらへ相変わらず人が殺せそうな視線を向けてきた。


「神城先輩」

「何?」

「自分の恋人を他の男とデートに行かせるのはどうかと」


 その発言に世界が止まった。


 ……いや、待て。その間違った認識はどこから生えてきた。この前の噂が流れた後に雨後の竹の子の如く生えまくってたねそういえば。


「……瀧見くん」

「……はい」


 世界を滅ぼしかねない発言をしやがった瀧見くんの両肩を掴む。いつも冷静な瀧見くんが無表情ながら引いているのは気のせいだろう。


「僕が好きなのは美藤カナタさんっていう大和撫子でこんな見た目美少女でも内面最悪な二重人格女子じゃないんだよそもそも僕の好みは大人しいけど芯が強い子で間違ってもマコトやナオミさんみたいな芯どころか存在そのものが強化プラスチックみたいな女子じゃ無いというか僕がカナタさんを愛してる以前に他の女の子なんて眼中にないのがなんで分からないかなあれかな僕の愛が足りないのかなまだカナタさんを愛しきれてないのかだとしたら大変だ今でさえ溢れ出るこの愛をどうやって表現したらいいんだろうねそういえば最近カナタさんリンスを変えたらしくてねアメリカから帰ったらただでさえ綺麗だった黒髪がもう烏の濡羽色を体現している感じでたまらないよあと目の動きも見逃しちゃいけないんだ無表情に見えるかもしれないけどよく見てみたら喜んでたり拗ねてたりするのが一発で分かるようになって可愛くてたまらないし目は口ほどにものを言うとはよく言ったもんだよしかもカナタさんって背が高くてスタイルも良いんだよね前は僕の方が身長低くてちょっとコンプレックスだったんだけど今更ながら成長期がきたらしくて一気に追い抜いちゃったのはもう嬉しくてたまらなかったね今の僕ならカナタさんの恋人だと胸をはって言えるよそれで何を言いたいのかというとだね

 僕の恋人はカナタさんであって浮気はしてない。Do you understand?」

「……Yes I do」


 僕の真心を籠めた説明に感動したのか、瀧見くんは額から汗を垂らしながら同意してくれた。

 よし。誤解が一つ解けた。


「……ユーキ、ごめん。色々溜まってたんだな」


 何故かマコトが謝ってきた。

 ……何で?


「……愛されてますね、お姉様」

「……うん」


 ちょっと照れてるらしいカナタさん。でもナオミさんから白い目で見られた。

 ……何で?


 そんなこんなで本日の部活は終了したんだけど、解散するまで先輩も後輩もずっと僕を生温かい目で見ていた。

 ……何で?


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