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美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い  作者: 青夜


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橋田奈保美

 美咲が寝込んでいる間に、一つの事件があった。

 いや、事件と言っては失礼なのだろう。

 俺は橋田先輩に呼び出されて告白された。


 「ねえ、兜坂君は佐伯さんと正式には付き合っていないのよね?」

 「はい」


 学外の綺麗な喫茶店に誘われた。

 学生はほとんど使わない本格的なお店だ。

 コーヒーの値段も高い。

 俺も初めて入った。

 少し照明を落とした落ち着いた店内で、テーブルも椅子もしっかりしたものだ。

 ムードのあるジャズ・ボーカルが流れている。

 先日、美咲が橋田先輩に大分失礼な態度を取ってしまったので、俺はそれを謝ろうと思っていた。


 「橋田先輩、本当に申し訳ありませんでした。美咲は時々ああやって感情が乱れることがあって」

 「ええ、いいのよ。他の人からも聞いたから。学食でのことを見ていた知り合いがいたの」

 「そうなんですか。本当にすみませんでした。美咲が元気になったら謝りたいって言ってました」

 「そう、ええ、分かった。でもね、今日は兜坂君に話があるの」

 「はい、なんでしょうか?」


 橋田先輩はいつもの優しい雰囲気ではなかった。

 緊張していることが分かった。


 「私は兜坂君が好き」

 「え!」

 「前からそうなの。サークルで知り合って、すぐに」

 「いや、橋田先輩……」

 「前から告白したかったのね。だから昨日もあんなことを」

 「そんな、いや、でも困ったな……」

 

 橋田先輩はずっと俺を見ている。

 緊張はしているが、強い覚悟を持った目だった、

 俺もその目を見て、ちゃんとしなければいけないと思った。


 「すいません、俺は美咲が好きです」

 「分かってる、でも私と付き合って欲しい」

 「橋田先輩……」

  

 俺は本当に困ってしまった。

 告白されたことは以前にもあるが、俺に付き合う気持ちが無いと伝えると、みんな諦めてくれた。

 でもこの人は違う。


 「結婚を前提に付き合いたいと思ってる」

 「橋田先輩!」


 俺は更に驚いた。

 付き合いたいと言う女性はいたけど、結婚まで口にされたことはない。

 とにかく、俺たちはまだ学生なのだ。


 「私は本気でそう思っている。兜坂君のことをそこまで思ってる。将来をずっと過ごしたいと思うくらいに好き。私がこんな気持ちになったのは初めてよ」

 「でも俺は先輩とは付き合えません」

 「佐伯さんがいるから?」

 「そうです」


 俺は言い切った。

 俺の中で、その時それが確信となった。

 俺は美咲が好きだ。

 橋田先輩と同じく、美咲と生涯を一緒に過ごしたいと思っていた。

 思いはあったが何となく曖昧にしていた自分に気付かされた。


 「兜坂君、佐伯さんはいい子よ。でもあなたに相応しくない」

 「え?」

 「あなたを支え、あなたの力になれるのは私。そう思ってる」

 「橋田先輩……」


 先輩が本気でそう思っていることは分かった。

 橋田先輩は素敵な人だ。

 誰にでも優しく、そして真面目で勤勉な人だ。

 人間として尊敬している。

 でも。


 「橋田先輩のことは尊敬しています。でも俺が好きなのは美咲だけです。それはずっと変わらない」

 「そう、分かった」


 橋田先輩が辛そうに微笑んだ。


 「あー、フラれちゃった!」

 「橋田先輩……」

 「こんなこと初めて。私ってね、結構モテるんだよ?」

 「それはそうでしょうね」

 「これまで告白して断られたことなんてないのに」

 「当たり前です。橋田先輩は最高です」

 「こいつぅ!」


 橋田先輩がやっと笑った。

 でも大分無理をして表情を作っていることは、鈍感な俺にも分かった。


 「ごめんね。でもサークルは辞めないでね。これからもよろしく」

 「はい、こちらこそ」

 「あ、私、諦めたわけじゃないからね?」

 「え!」

 「当然でしょ? 私がここまで決心したんだから、絶対に兜坂君をこっちに振り向かせるんだから」

 「それは困ったな」


 二人で笑った。

 本当に橋田先輩は素敵な方だ。





 美咲が元気になって、一緒に大学へ行った。

 橋田先輩にちゃんと謝った。

 橋田先輩も全然気にすることなく、美咲の病気を心配した。

 そういう方だ。

 橋田先輩とはその後もずっと親しく付き合った。

 先輩は大学を卒業し、海外へ留学された。

 家がお金持ちだったのはそうだが、非常に優秀な方なのだ。

 日本へ戻ってからは東京大学の院生になり、また優秀な博士論文で成田教授の研究室へ入った。

 橋田先輩はずっとナノマシンの研究を続けておられる。

 何故なのかは聞いたことは無い。

 俺が聞いてはいけないことのように思っていた。


 俺と美咲も国家医師試験を合格し、大学を卒業した。

 俺たちは医者にはならずに、一緒にアストラール社という外資系の製薬会社に入社した。

 ごく自然に二人で話し合ってそう決めたのだ。

 俺たちは一緒にいるのだという、暗黙の了解があった。

 そして俺の夢は、アストラール社でナノマシンの開発をしたかった。

 美咲は単に俺と一緒の職場になれて喜んでいた。

 相変わらずの俺たちだったが、美咲の28歳の誕生日に、俺は正式に交際を申し込んだ。

 お互いの気持ちは十分過ぎる程分かっていたのだが、そろそろちゃんと付き合いたいと思ったからだ。

 もちろん俺も美咲との結婚を考えていた。

 今更の感覚はあったのだが、美咲が想像以上に喜んでくれた。


 「ほんとうに! タカちゃん、ほんとうに!」

 「あ、ああ。良ければ俺と付き合って下さい!}

 「もちろんだよぉーーー!」


 美咲が抱き着いて来た。

 俺の方が驚いた。


 「タカちゃん! 大好き!」

 「ああ、俺も美咲のことが大好きだ」

 「うれしい!」

 「うん」

 

 そうして俺たちは付き合い出した。

 まあ、何も変わってない。

 キスはしたが、美咲は性的な関係になることを怖がっていた。

 俺も美咲のことが大好きなので、無理にはそういうことはしなかった。


 「結婚したらね」

 「うん」


 俺は笑ってうなずいた。

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