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美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い  作者: 青夜


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6/11

紫のリボン

 美咲のことが好きだと気付いたのはいつだったろうか。

 美咲は随分と前から俺のことが好きだったのだと言った。

 それこそ、幼稚園の頃から。

 いや、信じられないけど、公園で1歳の頃にベビーカーに乗って会った時からだと言っていた。

 でも、流石にそんなことは……

 もう一つ、よくは分からないことがある。

 俺の瞳が綺麗な紫色でそれがいいのだと。

 もちろん俺の瞳は黒い。

 どういうことだろうか?


 思い返せば、俺も幼稚園の頃から美咲のことが好きだった。

 俺の大事な人間であり、美咲のことはいつでも一番に考えていた。

 美咲はカワイくて明るくて、一緒にいるといつも俺に笑い掛けてくれた。

 でも、俺はまだ子供で、女性として美咲を見たことはなかったと思う。

 家族のような感覚だろうか?

 俺にもよくは分からない。


 一つ思い出すのは、あれは小学生5年生の時か。

 久し振りに美咲が誕生日会をするのだと俺を誘ってくれた。

 あの時は本当に嬉しかった。

 成長するにつれて、以前のように美咲と一緒にいることが少なくなっていた。

 あれほどお互いの家を行き来していたのに、美咲と一緒にいるのは登校の時だけだった。

 もっと一緒にいたい気持ちはあったのだが、少し気恥ずかしく、楽しい遊びも互いに違って来て自然に距離が出来て行った。

 思えば「男女」というものを俺たちは意識し出したのかもしれない。

 あの頃は同じ学級委員だった南野と一緒にいる方が多かったように思う。

 南野の友達とも親しくしていた。

 お互いの趣味の読書も刺激になって、そんな話をよくしていた。

 周囲は俺と南野が特別な関係ではないかと感じていたのも知っている。

 でも、俺にはその気は全然なかった。

 美咲と同じように、友達として付き合っていただけだ。

 性格が合い、趣味が合っていただけ。

 だから美咲に誕生日を誘われて有頂天になっていた俺は、美咲を突き飛ばした南野に暴力も振るってしまった。

 翌日にはちゃんと謝って、自分の酷い行ないを詫びたが、あの時の自分の気持ちは理解出来ていなかった。

 思えばあの当時から、俺は美咲のことが「好き」だったのだろうか。





 美咲の誕生日会に行くと言うと、お袋が喜んでくれた。


 「今日ね、美咲ちゃんのお母さんからも頼まれたの。是非孝道に来て欲しいって」

 「そうだったのか! もちろん行くよ!」

 「そう! 良かった!」

 

 お袋がお金をくれて、美咲に誕生日プレゼントを買うように言われた。

 その時、俺は困ってしまった。

 美咲に何をあげたらいいのだろう?

 美咲は何に喜んでくれるだろうか?

 俺は翌日から駅前をうろうろするようになった。

 駅までは、俺の家から歩いて2時間くらいだ。

 分からないから、とことん見て行こうと思った。

 とにかく全部の店を見て回った。

 随分と捜し歩いて、普段は入らない雑貨店なども覗いてみた。

 その雑貨店は駅からも結構離れた場所にあった。

 俺のような小学生の男子が珍しかったのだろう。

 お店の人が声を掛けてくれた。


 「何を探しているの?」


 綺麗な女性で優しそうだった。

 俺は縋るようにその人に相談してみた。


 「あの、同級生の女の子の誕生日プレゼントを探してます!」

 「そうなの! 素敵じゃない!」

 「でも、何を喜んでくれるかさっぱり分からなくって」

 「ふーん、じゃあいろいろ見ていってね」

 「はい! お邪魔します!」


 俺が言うと、お店の女性が笑っていた。

 俺は他の店でもそうしたように、隅から隅まで品物を眺めて行った。

 置き物もあるし、指輪のような綺麗なものも多かった。

 ネックレス、バッジのようなもの、よく分からないがどれも綺麗だった。

 でも、美咲にあげるものではない、そんな気がした。

 可愛らしい美咲はもっと違ったものだ。

 それに、そういう綺麗なものはどれも高かった。


 俺のことをずっと見ていたお店の女性が俺を呼んだ。


 「ねえ、こういうのはどうかな?」


 棚の引出しを開けて、俺に見せてくれた。

 綺麗なリボンが一杯入っていた。

 

 「あ、綺麗ですね!」

 「うん、女の子はこういうものも好きだよ?」

 「いいですよ! これ、とってもいい!」

 「そう?」


 俺はこういうのだと思った。

 可愛らしい美咲がこれで髪を結んだりしたら!


 「どういう子か聞いてもいい?」

 「はい! 佐伯美咲っていいます!」

 「そうなんだ」


 お店の人が知りたいのは名前などではないと、言ってから気付いて恥ずかしくなった。


 「綺麗な顔なんです! えーと、髪がこのくらいまであって、綺麗な髪なんですよ!」

 「そう! じゃあ、リボンはいいね!」

 「はい、そう思います。でも、どれがいいかなぁー」

 

 お店の女性が、黒い髪の頭だけのマネキンを持って来てくれた。

 俺が選んだリボンを当てて見せてくれる。

 幾つか見ていく中で、少し硬さのあるん紫色のものが気に入った。

 美咲が俺の瞳を紫色と言っていたのを久し振りに思い出した。

 でも、この硬さは少し結びにくいだろうか。


 「これ、色は最高に美咲に似合ってると思うんですけど、ちょっと硬いかなぁ」

 「ああ、それはね」


 そう言って俺の手からそのリボンを取って結んで見せてくれた。


 「ほらね、硬いから形が維持出来るの。そういう材質なんだよ?」

 「なるほど!」


 確かに結びにくいが、蝶々の形がしっかりとする。

 普通のリボンでは丸く結ばれるのだろうが、女性が結んで形を整えるとちょっと角ばった素敵な結び目になった。


 「あ、これにします!」

 「ありがとうございます。じゃあ、長さは任せてもらえるかな?」

 「はい、お願いします!」


 お店の女性は笑いながら二本の長さを測ってハサミで切ってくれた。

 それを綺麗な紙に包んで、セロハンの袋に入れてそこに素敵なシールで留めてくれた。

 

 「これでいいかしら?」

 「はい! 本当にありがとうございました! 美咲、絶対喜んでくれると思います!」

 「そう、良かった。今日は本当に素敵な日になった」

 「え?」

 「君みたいな素敵な男の子と知り合えて良かったわ。ねえ、今度その美咲ちゃんと一緒に来てね」

 「ああ、はい!」


 俺は胸の前に包を抱いて家に帰った。


 誕生日会で美咲にリボンを渡すと、美咲が喜んでくれた。

 

 「紫色だぁー!」


 おばさんが笑いながら美咲の髪に結んでくれた。


 「結んでから形を整えられるんですよ!」

 「そうなの!」


 俺がちょっと四角いように形を整えた。

 美咲の髪に触れて、嬉しかった。


 「あら! 本当に素敵!」

 「ママ! 私にも見せて!」

 「じゃあ、こっちにいらっしゃい」


 美咲とおばさんが大きな鏡のある洗面所に入って行った。

 美咲の喜ぶ声が聞こえた。


 「素敵! これ、本当にいいね!」

 「そうね」


 二人が笑って戻って来て、美咲が俺の両手を握ってお礼を言って来た。


 「タカちゃん、本当に嬉しい!」

 「そっか、良かった」

 「うん! どこで見つけたの?」

 「駅の方の雑貨屋さんでさ。お店の人が親切な人でね。ああ、今度美咲を連れて来て欲しいって」

 「え、私?」

 「俺さ、どういう子って聞かれて、思わずお前の名前も言っちゃった」

 「えぇ! なにそれ!」


 美咲とおばさんが笑っていた。


 「孝道君、何ていうお店?」

 「えーと、『サライ・イズコ』ってお店です」

 「え! あのお店って随分駅から離れてる場所でしょ!」

 「ああ、いろいろ見ているうちに訳が分かんなくなっちゃって。でもいいお店でしたよ?」

 「孝道君、随分と遠くまで探し回ってくれたのね」

 「え、タカちゃん、そうなの!」

 「いや、そんなことは。だって美咲のためのプレゼントだから、普通に探し回ってて」

 「タカちゃん、ありがとう!」


 美咲が抱き着いてきた。

 最近はそんなことは無かったので、俺はドキドキしてしまった。


 「これ、大事にするね!」

 「うん、普通でいいよ。でも、本当に綺麗だよ」

 「そう!」


 美味しい料理をいただき、ケーキをご馳走になった。

 身体の小さい美咲は、ケーキの蝋燭が一度で吹き消せないで、頑張ったら咳き込んだ。

 俺が笑うと俺の肩をポカポカと叩いた。

 久し振りに美咲と一杯話した。

 夜も遅くなり、おばさんがお風呂に入って泊って行けと言ってくれた。

 ちょっと恥ずかしかったので、俺は帰ると言った。

 本当は泊まりたかった。


 暗い道を歩いていると、自然に美咲の笑顔が浮かんで来た。

 俺も最高に嬉しかった。





 ああ、あの時は本当に楽しかった。

 あれからまた、美咲とも以前のようにお互いの家を行き来するようにもなった。

 一緒に勉強をし、合間にお喋りをし、いつまでも過ごしていた。

 そうだ、あの誕生日会が俺たちを強く結びつけたのだ。

 あれから毎年美咲の誕生日を一緒に祝い、美咲はあのリボンをずっと結ぶようになった。

 だからよく『サライ・イズコ』にも二人で行き、同じリボンを買っていくようになった。

 俺たちの大切な思い出。

 懐かしい日々……

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