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美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い  作者: 青夜


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「5A169」構造体の持ち出し

 橋田先輩をマンションへ入れてから、翌日に俺はアストラール社の研究室から「5A169」構造体を持ち出しを決行した。

 当然研究室はどの何重ものセキュリティが施されており、通常は試験体を持ち出すことは出来ない。

 特に将来的にアストラール社に莫大な利益を産むことが確実な「5A169」構造体は厳重に保管されていた。

 研究の統括責任者の俺と雖も、不可能であると言える。

 成田教授の研究室にすら完成体を持ち出すことは、俺以外のアストラール社の重役の許可無く持ち出せない。

 本来を言えば、仮に他社へ試験体が渡ったとしても再現性は絶対に無い。

 長い時間を掛けて解析をしたとしても、ナノマシンの構築は真似できないはずだ。

 完全にアストラール社の独壇場の物質だが、それでも最重要機密であることには変わりがない。


 「5A169」構造体は厳重な機密保持装置の中で分子量を厳密に計測されて保管されている。

 だから持ち出せば必ず発覚する。

 完成体の保管されたエリアは出入りを厳重にチェックされ、持ち込む物も制限され記録される。

 基本的に何も持ち込めないのだ。

 何重にも身体チェックもされる。

 薄いファイルフォルダーですら持ち込むにはチェックされ、当然退出の際にも同じだ。

 俺だけが「5A169」構造体の自壊の計測のためだけに入室しチェック出来る。

 一定時間で崩壊するナノマシンが予見通りに進んでいるのかの確認だ。

 だから俺は「5A169」構造体に直接関われるのだが、持ち出すことは不可能だった。


 だから俺は麻薬密売での運搬の手法を取った。

 体内に呑み込む方法だ。

 海外から麻薬を運ぶ場合、人体に入れる方法がある。

 特殊な袋にコカインやヘロインなどを詰めたものを口や肛門から入れるのだ。

 胃や大腸に保管するのだ。

 時には移動中に袋が破れて過剰摂取で人が死ぬこともある。

 今回は保管室での俺の行動が制限されるため、口から入れることにした。

 胃の中に超小型のセラミックの特殊ポッドを呑み込み、頑丈なアラミド繊維で特殊ポッドと奥歯を結ぶ。

 保管室にもカメラはあるが、俺は死角も分かっている。

 定期的な分子量のチェックの間であれば、何とか盗難を隠すことは出来るだろう。

 また、いずれはバレてしまうが、俺は「5A169」構造体が一定時間で崩壊するという性質を提示していた。

 本当にそうなのだが、そのサイクル時間を短く記録している。

 上手くすれば分子量計測と実際の残存数に疑念を抱かれないかもしれない。

 まあ、橋田先輩の体内へ注入出来れば、後はどうなってもいいのだが。

 でも橋田先輩の「5A169」構造体投与後の容態の観察も必要だ。

 それに栄養素の補給と生命維持のための様々な状況も起こり得るので俺はその間は傍にいたいのだが。


 「5A169」構造体の持ち運びのポッドは直径20ミリ長さ50ミリの円筒形だ。

 呑み込むには少々大きいが、これが橋田先輩に必要な分子量の最低限のサイズだった。

 俺は何度も嚥下のテストをした。

 覚悟はしていたが相当に苦しい。

 アラミド繊維を用意して良かったのは、苦しくて胃から引き出す時に相当な力が掛かるためだ。

 他の繊維であれば途中で切れてしまったかもしれない。

 何しろアラミド繊維は鉄の7倍の張力に耐えられるのだ。

 胃酸による損耗も無い。


 俺が自分で分子量を定期的に測定するようにしていた。

 万一のこともあるので、他の人間もやれるが、開発責任者の俺自らが担うことは他の人間にも納得させていた。

 まさか俺が「5A169」構造体を盗み出すとは誰も考えていない。

 他所へ持ち込むつもりがあるのならば、俺自身がいるのだ。

 現物を手に入れたとしても同じものを作ることは不可能であり、むしろ俺自身が移動した方が余程いい。

 完成したとはいえ、まだまだ微調整も改善も俺が一番よく分かっているのだから。

 《ルシン》が解明した各モジュールの構築法も既に俺の頭の中にある。

 弱冠の装置は必要になるが、俺がいれば再現出来るのだ。

 だから会社も俺に対しては警戒が少なかった。

 もちろん決まった手順で保管場所に出入りしなければならないが、俺が「5A169」構造体を盗み出すとは誰も思ってもいない。

 他の人間であれば、徹底的に検査される。

 実際に俺以外の分子量の計測の人間は全裸にされた上で口腔内や肛門、鼻や耳まで調べられる。

 俺に関してはそこまではされない。

 唯一の突破口だった。

 むしろ俺が他社へ移る方が警戒されたのだろうが、そこは大手の製薬会社として厳重な契約で俺を縛り上げていた。

 ナノマシンの構築は特別な技術がいる。

 世界的にも最先端の成田教授の研究室と雖も、全体を知っているわけではないし、むしろアストラール社の俺の研究室で8割を構築したのだ。

 モジュール分割したせいで、成田教授の研究室でも4割までは構造の記録はあるだろうが、実際に組み上げたのは2割に過ぎない。

 まあ、《ルシン》の「閃き」が無ければもっと割合も違っただろうが。

 《ルシン》が見出したせいで、アストラール社が外部への情報を最小限に絞ったのだ。

 全体を知るのは俺だけだ。

 まだアストラール社の中でも俺以外には全体像を知る者は《ルシン》だけだ。

 そして《ルシン》に自由にそのアクセスが出来るのは俺だけだった。

 もちろん俺の裏切りが露見すれば別な人間にその権限が与えられるだろうが。


 5か所のセキュリティを経て、俺は「5A169」構造体の保管場所まで辿り着いた。

 監視カメラの死角で「5A169」構造体の分子量を確認する態で俺は口から引っ張り出した特殊ポッドへ移し替える。

 懸命に込み上げる吐き気を抑え、「5A169」構造体を含んだ溶液を入れた特殊ポッドをまた呑み込む。

 涙が出て咳き込みそうになるが、必死に耐えた。

 室内の端末から残存の分子量を入力し、保管ケースを閉じた。

 今持ち出す分子量を自然崩壊の量と近似させた数値だ。

 過去の記録を見る振りをして身体を落ち着け、保管場所を出た。

 また一通りのチェックを受けて行く。


 「兜坂所長、口を開けて下さい」


 ゲートの警備員が俺に促す。

 俺は口を開いて警備員がライトで照らす間冷や汗を感じた。


 「はい、結構です。お疲れ様でした」

 「じゃあ引き続き頼むよ」

 「はい、お任せ下さい!」


 俺の持ち出しが発覚すれば、警備員の彼にも責は及ぶだろう。

 申し訳ない。

 俺はいつも通りに研究部署に顔を出し、幾つかの指示をしてマンションに戻った。

 体調の不調を理由に、しばらくまた在宅勤務をすることになっている。

 「5A169」構造体は完成したので、次の動物実験への移行までは俺がいなくても研究は回る。

 会社も俺の意向を全て受け入れてくれた。




 美咲の顔が思い浮かんだ。

 もう少し前であれば、美咲に投与することが出来た。

 でも今もまだ俺は立ち止まれない。

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