お誕生日会
小学生に上がると、タカちゃんと一緒にお風呂には入らなくなった。
私が泣き叫んで一緒に入ることもあったけど、学年が上がって来るとそれもなくなった。
私も段々と裸を見せるのが恥ずかしくなってもきたのだ。
そうなんで、一緒に寝ることもなくなっていった。
そのうちに遊ぶのも一緒じゃなくなってきた。
タカちゃんは他の男の子たちと遊ぶようになり、私も女の子同士で遊ぶようになった。
家が近いので、タカちゃんとは登校は一緒で、帰りも時々一緒になることもあった。
タカちゃんが私を誘って一緒に帰ろうと言ってくれると、私は本当に嬉しくなった。
それでも寂しくて時々私は暴れて泣き叫ぶことがあったけど、そういう時にはタカちゃんが自然に傍に来て私を宥めてくれた。
私は寂しくて暴れてしまうのかと思っていたけど、そうではないこともあった。
自分でも感情が抑えきれなくて暴れてしまう。
嫌なんだけど、どうしてもそうなる時があった。
だから段々とタカちゃん以外の友だちはちょっと私を遠ざけるようにもなった。
タカちゃんだけは、私のことをずっと同じように優しくしてくれた。
そんなタカちゃんがますます大好きになり、そのせいで寂しくて暴れてしまうことも増えたかもしれない。
自分でもどうしようもなかった。
タカちゃんとは一緒に遊ばなくはなったが、私とタカちゃんの親同士はずっと仲が良く、一緒に旅行に行ったりもした。
その時は前のようにタカちゃんと一緒に遊んで一緒に眠った。
でも、それも小学校4年生くらいまでか。
その頃には、一緒に寝るとドキドキした。
タカちゃんは全然平気みたいで、私だけがドキドキした。
なんだろうと思った。
もう手を繋ぐことも、抱き着くこともない。
出来なくなっちゃった。
タカちゃんが大好きだけど、身体に触れられない。
ただ、いつもあの綺麗な紫色の瞳を見ているだけになった。
タカちゃんは頭が良くて、綺麗な顔と背が高いので、他の女の子にも人気者になっていった。
タカちゃんが私以外の女の子と楽しそうに話しているのを見るのが辛かった。
クラスの詩織ちゃんと特に仲良くなっていた。
詩織ちゃんは美人で頭がよく、タカちゃんと一緒に学級委員をやっていた。
そして二人ともスラリと背が高く、お似合いの美男美女だった。
みんな、そう思っていた。
時々仲の良い二人が付き合ってると周りからからかわれた。
タカちゃんはいつも否定していたけど、詩織ちゃんは何も言わないでニコニコしていた。
私はずっと背がちっちゃくて、恥ずかしくてタカちゃんの隣に立てなくなっていた。
遠くから、詩織ちゃんや他の女の子と一緒にいるタカちゃんを見ていた。
タカちゃんは詩織ちゃん以外の女の子にも大人気だった。
もちろん男の子たちも一杯タカちゃんの周りにいた。
頭も良くて、誰にでも優しいタカちゃん。
私にも今まで通りに優しく話してくれるタカちゃん。
でも、私はタカちゃんの隣は似合わない。
時々どうしても我慢が出来なくて、また教室で暴れてしまうことが何度かあった。
みんな驚いて泣き叫ぶ私を見ている。
理由を言葉に出来ずに、私はただ暴れて酷いことを口にした。
詩織ちゃんに「死んじゃえ」と言ったことすらある。
タカちゃんはいつも私を抑えに来てくれ、私はそうやって徐々に鎮まった。
落ち着くといつも恥ずかしくてまた泣きそうになった。
何度か突然そうなるので、クラスのみんなはそんな私を怖がるようにもなった。
ああ、私はタカちゃんにも嫌われると思ってまた泣いた。
タカちゃんに嫌われたくなくて、帰りも一緒にならないようにした。
ますます寂しくなった。
「美咲、最近元気ないね?」
ママが私の気持ちに気付いた。
小学校5年生の時だ。
「どうしたの?」
「なんでもない」
ママはすぐに分かったようだ。
「孝道君ね?」
「……」
「やっぱり。最近一緒に帰って来ないから、どうしたのかなって思ってたの」
「タカちゃんはモテるから」
「そうでしょうね」
「私なんかより、お似合いの女の子がいるから」
ママに抱き締められた。
「美咲、孝道君を家に呼ぼうよ」
「え、いいよ……」
「よくないでしょ? ほら、もうすぐ美咲のお誕生日じゃない。孝道君を誘ってお祝いをしましょう!」
「タカちゃんは来てくれないよ」
「そんなわけないよ! 必ず来てくれるよ!」
「そ、そうかな?」
ママが笑って私をまた抱き締めた。
「あんなに仲が良かったじゃない。きっと来てくれる」
「でも……」
「ママに任せて!」
「ほんと?」
「うん、絶対に大丈夫だよ!」
「うん!」
嬉しかったけど、今度はタカちゃんが来てくれなかったらと思うとどうしようもなく不安になった。
小学校の登校は、今まで通り、タカちゃんと一緒だった。
近所の子たちも一緒だったけど、登校の時にはタカちゃんともお話し出来た。
タカちゃんは前と変わりなく私に話し掛けてくれる。
私の唯一の幸せな時間だった。
「美咲、おはよう」
「うん! タカちゃん、おはよう!」
タカちゃんは昔と変わらずに私に接してくれる。
いつだって優しい。
昨日のテレビのこととか、学校でのことを一杯話しながら歩いた。
思い切ってタカちゃんを誘ってみた。
「あのね、今度私のお誕生日なんだ」
「そうだよな! 6月7日!」
「え、覚えてくれてるんだ!」
「当たり前だろう。美咲の誕生日だもん!」
顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。
嬉しくて泣きそうになった。
「あ、あのね」
「なんだ?」
「お誕生日のパーティをするの」
「そうか、良かったな!」
「うん、それでね、タカちゃんにも来て欲しいなって」
「ほんとかよ! うん、行く行く!」
「え、ほんと!」
「当たり前じゃん。しばらく美咲の家に行ってないもんな」
「うん、絶対に来てね!」
「おう! ああ、楽しみだぜ!」
「やったぁー!」
その日は一日中嬉しかった。
6月7日は日曜日だ。
その日はずっとまたタカちゃんと一緒にいられる!
昔みたいに!
私がウキウキしていたので、詩織ちゃんが私に聞いて来た。
「佐伯さん、今日はなんだか御機嫌ね?」
「うん!」
嬉しくて仕方がない。
「何かあったの?」
「うん、えーとね」
「なーに?」
詩織ちゃんには何となく話し難かった。
タカちゃんが近くに来て言った。
「もうすぐ美咲の誕生日なんだ」
「あら、そうなんだ。おめでとう。いつなの?」
私が答えた。
「今度の日曜日、6月7日だよ?」
「へぇ」
「俺、家に呼ばれたんだ。楽しみだよなー!」
「うん!」
詩織ちゃんの顔が変わった。
「兜坂君、呼ばれたの?」
「ああ。近所で幼稚園の時からの付き合いだもんな! でも久し振りに呼んでもらえた」
「なによそれ!」
「え? どうした?」
突然、詩織ちゃんに突き飛ばされた。
椅子に座っていた私は、床に転がった。
急にそんなことをされたので、痛さよりもショックで身体が動かなかった。
「おい、南野! 何すんだ!」
「あんた、生意気よ!」
「何言ってんだ! 美咲に謝れ!」
「なんでこんなチビに! 兜坂君には全然似合わない!」
「お前!」
タカちゃんが倒れた私をまた私を蹴ろうとする詩織ちゃんを突き飛ばした。
思い切りやったので、詩織ちゃんが倒れた。
タカちゃんはそっちを見もせずに私を抱き起してくれた。
「美咲、大丈夫か!」
「う、うん」
「保健室に行こう。ちょっと擦りむいてるぞ」
「うん……」
タカちゃんに肩を抱かれて、一緒に保健室に行った。
誰かが担任の先生を呼びに行ったのが見えた。
どうなるんだろう。




