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美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い  作者: 青夜


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夢の中で

 誰かが部屋に入って来たのは何となく分かっていた。

 でも俺は、ほんの少しも興味は無かった。

 部屋に入って来た人は俺を呼んでいるようだ。

 でもあまりにも遠くに聞こえ、何を言っているのかもよく分からないし応えるにも億劫だった。

 何度も呼ばれるうちに、鬱陶しくなってきた。

 また眠りたいのに。

 何も考えなくなりたいのに。 


 また誰かに呼ばれた。

 いや、今度ははっきりしていた。


 「タカちゃん!」

 「!」


 美咲だった。

 俺は酔いの回った朦朧とした頭で、美咲がいることに歓喜していた。

 美咲が心配そうな目で俺を見降ろしている。

 俺は草原の上に横たわっていた。

 そのことを少しも不思議だとは思わなかった。

 美咲が目の前にいることだけで十分だ。

 自然に涙が溢れて来たが、美咲の前なので必死に拭った。


 「タカちゃん、しっかりして!」

 「美咲……」


 もうダメだった。

 一度は死んだ俺の心は、もう何も残っていないと思っていた。

 でも違った。

 美咲がいれば、俺の心は甦るのだ。

 言い換えれば、俺の心は死なないのだ。

 美咲を喪ったことでどこまでも沈んでは行くが、死ぬことはないのだ。

 それが心なのだ。

 だから俺はまた泣いた。

 あれほど泣いて、もう涙は枯れ果てたと思っていたが、涙も尽きないものだったのだ。

 

 「タカちゃん、泣かないで」

 

 美咲が俺の上に乗って抱き締めた。

 子供の美咲が甘えるように、そして大人の美咲がきっとそうしてくれたであろうように、俺を精一杯の愛で抱き締めてくれた。

 俺はますます溢れて来る激情で泣いた。

 二度とないと思っていた美咲の抱擁に泣いた。

 美咲の唇が俺に重なり、もっと泣いた。


 「もういいの、タカちゃん、もういいのよ?」

 「美咲、俺はもう死にたかったよ。お前のいない世界なんて何の意味も……」

 「ダメ、まだよ。タカちゃんはちゃんと生きて」

 「もう嫌だよ。俺はお前のために何も出来なかった。それに……」


 美咲が顔を近づけて俺にキスをした。

 俺が語ろうとした言葉をそうやって止めてくれた。


 「私は一杯してもらったよ。タカちゃんと一緒にいられて幸せだった」

 「でも美咲を助けられなかった」

 「ううん、いいの。私はあれでいいの。タカちゃん、私は精一杯にタカちゃんを大好きになれたの。だからいいの」

 「でも美咲……」


 美咲は優しく俺の頬を挟んでまたキスをした。

 ああ、美咲が目の前にいる……

 

 「もう悲しまないで、苦しまないで、お願いだから。見ていられないよ」

 「美咲、辛いよ、苦しいよ」

 「大丈夫。タカちゃん、ちゃんと生きて。私はあんなにも幸せだったんだから、あんまり悲しまないで」

 「悲しくてしょうがないんだ。俺は美咲と一緒に……」

 「仕方が無いよ。死ぬまで生きるしかないんだからね。私は幸せだった。タカちゃんはこれからも生きなきゃいけないんだから、しっかりして」

 「こんなに悲しいのにか」

 

 美咲は今度は俺の額を撫で始めた。


 「タカちゃんは一人じゃないんだよ?」

 「え?」

 「橋田先輩がいるじゃない」

 「いや、美咲、俺は……」

 「ダメ、タカちゃんも分かってるでしょ? 私のことが大好きで、橋田先輩のことも大好きなの」

 「!」


 美咲は知っていたのか。

 そして、俺は自分の苦しみの半分以上が橋田先輩を好きになってしまったことだとようやく気付いた。

 だから自分を許せなかったのだ。

 俺は思わず美咲に全てを告白した。

 美咲を愛しながら、橋田先輩のことも好きになってしまったことを。

 美咲だけだと思いたかったのに、どうしようもなくなった弱い心を。

 意識を取り戻さない美咲を置いて、橋田先輩の部屋へ行き、そして抱き締めてしまったことを。

 美咲に謝り、自分を許せないのだと言った。

 だからもう死にたいのだと。

 語りながら、俺が本当に死にたいのはそのことだったと気付いた。

 美咲を裏切ってしまった自分を許せないのだ。

 だから美咲が死んだからといって、橋田先輩を愛するわけには行かない。

 美咲は俺が懺悔する間、ずっと微笑み、俺の頭を撫でていてくれた。

 美咲は怒らない、呆れないばかりか、全てを赦し俺を慰めた。

 その優しさが辛かった。

 しかし、俺は美咲に許されたことで、確実に心が楽になり、それがまた辛かった。


 「でもタカちゃんは最後まで私と一緒にいてくれた。だから今度は橋田先輩と一緒にいて」

 「美咲……」

 「ね、お願い」

 「美咲、俺は……」


 美咲は微笑んで俺から離れた。

 美咲の身体が淡く輝き出した。

 美咲が俺をまた抱き締めてくれた。

 これまで感じたことのない安らかな温もりを感じた。

 酒に浸り汚濁に塗れたような俺の身体が、透き通って行く感覚があった。


 「タカちゃん、ベッドの下の箱を見つけて」

 「え?」

 「それと、ナノマシンの研究は続けて」

 「なに?」

 「きっと役に立つ。タカちゃんはそのために頑張ったんだよ。そういう運命なの」

 「美咲、何を言っているんだ? どういう意味だ?」

 

 美咲の身体の輝き増し始めた。

 目が眩むほどに眩しくなったが、俺は美咲を見ていたくて目を閉じなかった。


 「タカちゃん、ありがとう! タカちゃん、愛してる! ずっと好き!」

 「俺もだ美咲! 美咲のことが大好きだ! 愛してる!」

 「うん!」


 目の前に光が満ちて身体が熱くなった。

 最後まで目を閉じなかったが、もう何も見えなかった。






 白い光の闇に覆われて行った。

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