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美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い  作者: 青夜


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3/8

紫色の瞳

 最初の記憶は、ベビーカーだ。

 後からそれが私の1歳の時だと言われたが、普通はそんなに幼い頃の記憶は無いらしい。

 私も他のその頃の記憶はないけど、確かにこれだけははっきりと覚えている。

 両親に連れられ、近所をベビーカーに乗せられて回っていたのだということだった。

 もうそれ自体の記憶は無い。

 覚えているのは前から別なベビーカーが来て、両親が止まったことだ。


 「可愛らしい女の子ですね」


 相手の両親が言った。


 「そちらも、ええと、男の子なんですか?」

 「そうですよ。孝道といいます」

 「そうですか、綺麗なお顔なんでどっちかと。うちは美咲です」

 

 そういう会話が聞こえた。

 実際にはその会話はよく覚えていない、後から聞いた話だ。

 朧げに覚えているのは、両親が相手の両親と親しく話していたという印象だ。

 それよりも、私は向こうのベビーカーに乗った男の子を見ていた。

 それがタカちゃんだった。

 綺麗な顔だと思った。

 そして何よりも綺麗な紫色の瞳。

 その記憶だけは鮮明にある。

 その頃はまだ「紫色」という名前も知らなかった。

 後からタカちゃんの瞳がその色だと知ることが出来た。

 他に、こんなに綺麗な紫色は見たことがない。

 タカちゃんが一番きれいだ。

 そしてもっと重要なこと。

 私はこの子が好きなんだと思った。


 本当だ。


 まだ1歳かそこらの自分が、確かに「好き」と思った。

 私はあの日から、その気持ちが変わったことは無い。

 いや、「好き」から変わった。

 「大好き」になり、それがやがて「愛してる」になった。

 私の成長と共に、気持ちが大きくなり、磨かれて行ったのだ。

 タカちゃんを愛している。

 でも、まだそれを口にしていない。

 「大好き」までは言った。

 





 幼稚園に入ると、タカちゃんも一緒だった。

 クラスも一緒で、行き帰りも一緒。

 帰っても、大抵どっちかの家で一緒。

 家が近所だったこともあって両親同士が仲良くなり、幼稚園はどちらかの親が迎えに来るようになった。

 時々一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に眠った。

 眠る時には私が手を繋いでいるか、抱き着いて寝た。

 私やタカちゃんの両親が私たちを見て笑っていたのを覚えている。

 大好きでしょうがなかったタカちゃん。

 喧嘩もしたことがない。

 タカちゃんは最初から優しかった。

 私もタカちゃんが好きで、あまりにも好きすぎて困らせたことはあったけど、喧嘩にはならなかった。

 他の子とは喧嘩もしてたのに。

 どういうわけか、自分でも抑えきれない衝動で暴れることもあったのに。

 その度に周囲の大人も驚くほどだったのに。

 タカちゃんに対しては、一度もそういうことにならなかった。

 大好きだったからだ。


 タカちゃんと一緒じゃないのは、私が月に一度の病院の時だけ。

 私が時々頭が痛くなるからだろう。

 そういう時にはちょっと何をやってたのか覚えてないことがある。

 私が泣いてタカちゃんと一緒に行くと言っても、病院だけは一緒じゃなかった。

 私がどんなに泣きじゃくってもダメだった。

 なんでタカちゃんと離れちゃうのか、私には我慢できなかった。

 病院では何時間も待たされる。

 大きな機械に身体を入れて、その後もまた待たされる。

 注射も時々されるけど、それはそんなに怖くはなかった。

 あの大きな機械の方が怖かった。

 何も痛みはないのだけど、なぜだろう?

 何か、私が隠したいものを覗かれているような気がした。

 なんだろう?

 でもそんなことよりも、何よりも、タカちゃんがいないことだけが嫌だった。

 お母さんが一緒だったけど、タカちゃんがいないと寂しい。

 ううん、寂しいのとはちょっと違う。

 悲しい?

 なんで?

 夜はお互いの家で別々に寝ることが多いのに、その時はちょっと寂しい時もあったけど、病院では違った。

 悲しいんだって自分で気付いて、ヘンな気持ちになった。

 なんで悲しいの?


 病院から帰ると、またタカちゃんと一緒にいることが出来た。

 しばらくはタカちゃんに抱き着いていた。

 タカちゃんは優しいからずっと私を抱き締めて背中をポンポンしたり、頭を撫でてくれた。

 それでやっと私はタカちゃんに笑い掛けて、一緒に遊んだ。

 病院から帰った日は、いつも一緒にお風呂に入って一緒に眠った。

 それが御褒美のようで、私は病院へ行くのに段々慣れて来た。

 

 「ミサちゃん、病院じゃ注射とかするの?」


 タカちゃんが注射を怖がっているのが分かったので、それは黙っていた。


 「お注射はすることもあるけど、あんましないよ?」

 「そうなんだ! 良かったね! じゃあコワイことないね?」


 タカちゃんがそう言うので、つい話してしまった。


 「ううん、なんかね、おっきな穴に入るの」

 「へぇー。それって痛い?」

 「全然平気。ブーンって鳴ってるの」

 「そうなんだ」

 「タカちゃん、今度一緒に行って?」

 「そうしたいんだけど、お母さんが許してくれないんだ」

 「そうなんだ。ママもそう言ってる」

 「じゃあしょうがないよ」

 「うん、だけどタカちゃんと一緒がいいな」

 

 やっぱりタカちゃんと一緒が良かったけど、これだけはダメだった。

 私はそれからも月に一度、病院へ通い続けた。

 でも時々頭が痛いのは治らなかった。

 記憶も、たまに抜けている。

 興奮して暴れたのを知る時もあるけど、私には分からない。

 何も覚えていない。

 本当に怖かったのは、タカちゃんに酷いことをしていないかだけだ。

 ママに聞くと、一度もそういうことは無いそうだ。

 だから安心していた。

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