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美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い  作者: 青夜


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美咲の隠し事

 家には4時に戻った俺を、美咲のお母さんが出迎えてくれた。

 お母さんは毎回、お昼から来て下さる。

 俺はその時間出掛けることが出来るのだが、俺が戻れば帰られるということになっていた。

 お母さんから連絡は無かったので、美咲は多分眠ったままなのだろう。

 だから俺はケーキを買って帰る余裕もあった。


 「孝道君、お帰りなさい」

 「ああ、お母さん、ただいま戻りました。またこんな時間まですみません」

 「いいのよ。美咲もほとんど眠っていたし」


 美咲のお母さんには二日に一度くらいのペースで来てもらっている。

 遠いところを申し訳ないのだが、お母さんは何も言わずに手伝ってくれた。

 四谷のうちのマンションまで1時間半も掛かるのだ。

 本当は移動が大変なのでたまには一緒に泊まって欲しいが、美咲と俺と二人きりにしてやりたいと言って毎日帰られる。

 俺が家にいればいいのだが、今は研究を進めたかった。

 まだまだ「5A169」構造体の構築は見えて来ない。

 やはり高分子のナノマシンは難しい。

 成田教授たちはそれでもこれまでの研究で様々なデザインが組めるようになってはいる。

 それでも「5A169」構造体は難しかった。


 「美咲がね、ちょっとの間目を覚ましたの」

 「泣いてませんでしたか?」


 以前は目を覚まして俺がいないと大泣きしていた。

 介護士の方はそれに困ってしまい、だからお母さんに頼むようになったのだ。


 「大丈夫。私を見て嬉しそうに笑ってくれた」

 「良かったです。やっぱりお母さんであれば安心するんでしょう」

 「そうね。でも孝道君が一番だわ」

 「アハハハハハ」


 俺が紅茶を淹れた。

 お母さんは帰り支度をしていたが、一服してもらうように頼んだ。

 先ほど買って来たケーキを召し上がって頂く。


 「美咲は何をしてました?」

 「それがね、何か書いていたようなの」


 美咲は起きている間はテレビを見ていたり絵描きをしていることが多い、

 本当の幼児のような遊びはしない。

 そういえば最初に「ママゴト」をして、美咲は楽しそうではなかった。

 俺がしたがっていると思って付き合ってくれたのだ。

 アニメは好きみたいだ。

 でも一人で見ているとそのうちに眠ってしまうことが多かった。

 もしかしたら情報量を処理するのが負担になるのかもしれない。

 物語を理解しようとして、美咲の脳が普通以上に働くのだろう。

 絵はクレヨンを使って結構綺麗なものを描く。

 それが一番負担なく美咲が楽しめるものだと分かって来た。

 だからファーバーカステルの色鉛筆やいいクレヨンなどを揃えて好きなように描かせていた。

 美咲の家からの荷物の中にも、素描や水彩画が結構あったので、元々絵を描くのが好きだったのだ。

 それは俺の知らない美咲の趣味だった。

 今は窓からの景色や部屋の中、俺の姿が多いか。

 鉛筆やペンでも絵を描くのは見ているので、そうしたものだろうか?


 「絵か何かです?」

 「分からないの。ノートに書いていたみたいで覗こうとしたら慌てて隠してしまって」

 「なんでしょうね?」


 幼児に戻った美咲に、恥ずかしがるようなことはないはずなのに。

 俺は不思議に思った。

 

 「私も眠った後で探そうとしたんだけど、見当たらなくて」

 「え? どうしたんでしょう?」

 「日記とか書いてたのかもよ?」

 「まさか」


 二人で笑った。

 幼児の美咲が日記を書くわけも無い。


 「まあいいじゃない。美咲は完全に幼児のわけじゃないだろうから、秘密にしたいこともあるんでしょう」

 「そういうものですかね」


 二人で笑って済ませた。

 お母さんの言う通り、子供にだって隠したいことはあるのかもしれない。


 「一体どこに隠してるんですかね」

 「ウフフフフ、まあ、秘密にしてあげましょう」

 「そうですね」


 お母さんは笑ってお帰りになり、俺は寝室の様子を見に行った。

 眠っている美咲の額の髪を撫で上げていると、美咲が目を覚ました。


 「タカちゃん!」

 「うん、ぐっすり寝てたね」

 「もう起きたよ!」


 美咲が寝たまま腕を伸ばして来たので、俺が抱き締めた。

 薄く化粧をしている。

 お母さんがやって下さったものだが、俺も教わって多少は出来るようになっている。

 今は結んでいないが、美咲に大好きな紫色のリボンも結んでやると美咲がいつも喜んだ。

 髪の結い方もお母さんから教わった。

 美咲のためにやれることは全部してあげたい。


 「タカちゃんの匂いがするー」

 「そりゃ俺だからな」

 「エヘヘヘヘヘ、嬉しい」


 俺は美咲を抱き上げて顔を洗ってやり、リヴィングへ連れて行った。

 ソファに座らせ、音楽を流した。

 モーツァルトの『弦楽五重奏曲 ト短調』だ。

 美咲の大好きなもので、音楽家アンリ・ゲオンが「疾走する悲しみ」と評した名曲だ。

 俺はアルバン・ベルク弦楽四重奏団にヴァイオリニストのギュンター・ピヒラーを加えた演奏のものにしている。

 幼いはずの美咲が眼を閉じて演奏を聴いていた。

 この曲はよく二人で聴いた思い出の曲でもあった。

 美咲はモーツァルトが大好きだった。

 あの早世の天才が。

 美咲は俺にくっついて聴いている。


 「やっぱりいい曲ね」

 「え?」


 まただ。

 美咲が5歳児らしからぬ口調で呟いた。

 俺が美咲の顔を見ると、美咲が嬉しそうに微笑んだ。


 「タカちゃん、どうしたの?」

 「いや、美咲がカワイイから」

 「エヘヘヘヘ」


 嬉しそうに笑った。

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