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美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い  作者: 青夜


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12/18

結婚したんだよ?

 美咲を家まで送り、美咲のお母さんと一緒にそのまま行きつけの病院までタクシーで移動した。

 途中で電話して美咲の状態は話しているが、お母さんはとても心配していた。

 だがずっと美咲は俺を向いてニコニコしている。

 自分が記憶を喪っているなどとは全然考えてもいないようだ。

 それはそうだろうが。

 とにかく美咲はどこだろうと、俺がいれば安心できるようだった。

 すぐに担当医が美咲を診察した。

 MRIを撮り、美咲に幾つか質問をした。

 一人でMRIに入る時は大泣きしたが、美咲は俺と一緒だったので医師の質問には笑顔で答えた。

 担当医が言った。

 


 「間違いなく脳腫瘍の影響です。記憶領域が影響を受けて、精神年齢が退行しているようです」


 脳腫瘍の症状では時々あるそうだ。


 「それは今後どうなるんですか?」

 「分かりません、このままなのか、また記憶が復活するのか。脳神経の圧迫によって起きていることなので、まずは脳圧を下げることを検討しましょう」

 「お願いします!」


 脳神経が壊死を起こせば、記憶は喪われる。

 今はその兆候があるが、まだ多くのシナプスは無事なようだった。

 圧迫が弱まれば好転する可能性もある。

 だが担当医は沈んだ表情で「可能性」とだけ言った。

 脳腫瘍が肥大していることを考えれば、そういうことは起きないのだろう。

 記憶を喪っているとはいえ、美咲を目の前にしていたので言葉を濁したのだ。


 美咲のお母さんに言われて、俺は一度会社へ戻った。

 片付けなければならない仕事もあった。

 その夜、美咲のご両親に呼ばれた。

 どうしても手放せない仕事があって夜も遅くなったが、二人共起きていて俺を家に入れてくれた。

 美咲はもう眠っていた。


 「孝道君、どうやら本当にここまでだ」

 「……」

 「美咲はこのまま死んでいくだろう。もう美咲のことは忘れて、孝道君には自分の人生を歩んで欲しい」


 そうお父さんに言われた。

 お母さんは悲しそうな顔をしていた。

 俺にも分かっていた。

 だから決意していた。


 「今だからこそです」

 「え?」

 「美咲と結婚させて下さい。美咲はあとどれだけ生きられるのか分からない。だから俺が最後まで美咲の傍にいたいです!」

 「孝道君、それは……」

 「お願いします! 美咲と一緒に! 最後まで美咲の傍に!」

 「そうは言っても、もう美咲は戻らないんだよ。君は立派な仕事を抱えている優秀な人間じゃないか、美咲のことは有難いが、君の……」

 「俺は美咲が一番大事なんです! 他の俺の人生なんてどうでもいい! 最後まで美咲の傍にいさせて下さい! どうかお願いします!」

 「孝道君……」

 「美咲は記憶を失くしたのかもしれません。でも、今も俺と一緒にいれば、あんなにも嬉しそうに笑う。お願いします!」


 お母さんが泣いていた。

 しばらく話し合って、俺はどうにか許可を得ることが出来た。


 その後の詳細な検査で、美咲はどうやら3~5歳の精神年齢であり、記憶の一部は残されているようだが、多くの記憶がその年齢辺りまでのもののようだった。

 断片的には覚えていても、それが意識の表層に出て来るかは分からなかった。


 俺は会社の近くにマンションを借り、そこで美咲と一緒に住むこととなった。

 俺が会社にいる間は専門の介護士の方を雇う。

 会社の方にも美咲の病気のことを話し、なるべく俺に在宅勤務をさせてくれるように手配してくれた。

 非常にありがたかった。

 週に一度は出勤の必要があるが、俺は自宅で研究を続けながら美咲と一緒にいられる。

 俺は急いで家を借り、様々な手配をした。





 業者に無理を言って1週間で家の準備を整え、美咲を迎え入れた。

 新しい生活を始める。


 「美咲、今日からここで一緒に暮らすんだぞ?」

 「え、タカちゃんと! ほんとに!」

 「本当だ、よろしくお願いします」

 「え、なんで! どうしてタカちゃんと一緒に住むの?」

 「結婚したからだよ。俺たちは今日から夫婦なんだ」

 「タカちゃん、ほんと? タカちゃん、嬉しいよ!」

 「俺もだ。さあ、入ろう」


 美咲は理由も尋ねず、ただただ喜んで俺に抱き着いた。

 どうして結婚したのだだとかは、美咲の中で問題にはならない。

 そのことは多少は悲しいが、有難いことでもあった。

 美咲はとにかく俺だけを見ていてくれている。


 8階建てのマンションの8階の角部屋だった。

 3LDKの部屋で、結構広めだ。

 ファミリー向けの間取りであり、俺たちが暮らすには十分だろう。

 内装は全て新しくし、全室に手すりや柔らかな緩衝材の入った壁を貼っている。

 床もある程度クッション性があるものにして、美咲が今後運動機能が衰えてもなるべく安全なようにした。

 家具の角にも全てクッションを充てている。

 ドアは鍵を改造して、内側からは開けられないようにしてある。

 介護士の方には専門の鍵を渡した。

 俺が週に一度出勤する時と、何かの用事で出掛ける場合に来て貰う契約だ。


 美咲が部屋を見て喜んだ。

 俺も楽しくなって、美咲を案内した。


 「ここがリヴィングだ。広いだろう? 28畳もあるんだぜ」

 「すごい! きれい!」

 「な! こっちが寝室だ。リヴィングのこのドアで続いている。12畳だよ」

 「へぇー! 私の?」

 「いや俺たちのだよ。ベッドは広いから、一緒に寝られるよ」

 「……」

 「おい、どうした?」

 

 美咲が不安そうな顔をしている。

 なんだ?


 「タカちゃん」

 「うん?」

 「エッチなことはダメだよ」

 「!」


 なんで5歳児がそんなことを! 

 これが記憶の断片ということか。

 5歳までの記憶と、大人になるまでの記憶の一部が発現しているのだ。

 それが美咲の脳内で矛盾の無いものに作り替えられている。

 性的なことに臆病な美咲がそのままでいるのだ。


 「もちろんだよ! 大好きな美咲と一緒に寝たいだけさ!」

 「うん!」

 

 俺の言葉を聞いて、美咲はニコニコしていた。

 良かった。

 夜でも美咲の容態に変調があるかもしれない。

 だから一緒に寝たかった。


 俺は料理には少々自身があったし、ある程度は美味しいものが作れるつもりだ。

 もちろん今後も勉強して行くつもりだ。

 あとの部屋は9畳間は俺の仕事場、もう一つ5畳間はフリースペースにした。

 美咲の遊び場にしてもいい。

 風呂場とトイレも案内した。

 美咲は興奮しながら見て行ったが、ずっと俺の手を握っていた。


 「どうだ、新しい家は?」

 「うん」

 「あれ、気に入らなかったか?」

 「そうじゃないの。すごくうれしい」

 「そっか、良かった」

 「だって、タカちゃんと一緒なんでしょ!」

 「そうだな!」


 二人で笑った。

 美咲が俺に抱き着いて来た。


 「タカちゃん!」

 「おう!」

 「うれしい!」

 「そうだな!」


 美咲を抱き締めた。




 美咲の最期の時間を過ごす空間。

 俺は精一杯に美咲を笑顔にすることだけ考えていた。

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