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美咲ちゃんはちっちゃくてカワイくて、そしてとっても早い  作者: 青夜


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10/20

美咲の秘密

 偶然発見した分子構造「トウサカ・ストラクチャー」が驚異的な利益を産み、俺は莫大な報酬と研究を任されるようになった。

 「トウサカ・ストラクチャー」の応用研究はその専門の人間がチーフとなったが、俺はナノマシンの開発部門の部長となった。

 美咲と正式に付き合い出してすぐのことだったので、本当に嬉しかった。

 そして30歳になり、美咲に正式に結婚を申し込んだ。

 俺の両親も大喜びで、親父からは「やっとか」と言われてしまった。

 まあ、そう言われても仕方がない。

 俺たちはほぼ30年間も付き合って来たのだ。


 ただ、美咲の両親に正式に挨拶に行こうとすると、日時を指定された。

 俺はすぐに喜んでもらえるものと思っていたので不思議に思った。

 仕方なく言われた日に、指定の場所へ行った。

 都内のホテルの一室だったので、何事かと思った。

 まさか認めてもらえないのだろうか。

 そのホテルの部屋には美咲はおらず、俺とご両親だけで会った、

 

 「孝道君、ありがとう、美咲があんなに喜んでいる」

 「いいえ、俺の方こそ、美咲さんを幸せにします!」

 「うん、それは本当に嬉しい。だけどね、孝道君」

 「はい?」

 

 美咲のお父さんが大きな鞄を開き、俺は分厚い封筒を見せられた。

 中から検査結果の資料が沢山取り出された。


 「これは先月のMRIの画像だ」

 「え、誰のですか?」

 「美咲だよ」

 「!」


 お父さんがその画像を説明した。

 全部頭部のMRI画像だった。

 お父さんが指で示した。


 「美咲には先天的に脳腫瘍があるんだ。生まれた時にもう発見されていた」

 「美咲が!」


 目の前が真っ暗になった。

 俺は人生で初めての大きなショックを経験したのだ。

 全身の血が下がり、何も考えられなくなった。

 あんなに元気で明るい美咲が……

 俺も医学部で学んだ人間で、脳腫瘍が相当厄介な病であることは分かっている。

 お父さんが話を続けていた。

 俺はその声を遠くから聞いている気がした。


 「脳幹の近くにあって、処置できなかった。抗がん剤も放射線も難しい状態で、経過観察しか出来なかった」


 お父さんが辛そうな顔をしていた。

 お母さんもだ。

 やっと俺も少し落ち着いて来た。

 どういう話をお二人がなさっているのかを理解した。

 ああ、このお二人は、ずっと今までこうやって辛かったのだろう、

 最愛の娘が治療できない病気に冒されている、

 いつ美咲の命を奪うのか分からない状態で30年間も。


 「美咲は順調に成長していった。もしかしたらこのまま腫瘍は大きくならないかもしれないと僕たちは思った。そういった事例も皆無ではないからね。でも徐々にだが、拡大しているんだ。今はまだ普通の生活を送っているが、そのうちに……」

 「あの、美咲はそのことを!」

 「いや、知らないよ。美咲には別な病名を伝えている、何でもない病気だけど、念のために毎月検査を続けるのだと」


 確かに美咲は今も病院へ毎月通っていた。

 俺には片頭痛があるから念のためだと言っていたのに……

 お母さんが言った。


 「美咲は時々感情を乱していたでしょう?」

 「ああ、それじゃあれも……」

 「そう、脳内で腫瘍が刺激を増幅しているの。これからはもっと……でも、あと数年でそれも終わるの……」

 

 そう言ってお母さんは泣いた。

 お父さんが肩に手を置いて慰めている。

 一体、これまで何度こうやっていたのだろうか。

 俺はお二人の思いを知って行った。


 「孝道君。本当はもっと以前に君には話しておくべきだったね。でも、美咲が毎日嬉しそうに君の話をしているのを聞いて、もう少しと先延ばしにして来てしまった」

 「孝道君、子供の頃から美咲はあなたのことが大好きだった。他の人には一切見向きもせずにあなただけ。あの子が長くないことは承知していたわ。でも少しでも美咲の人生に幸せがあるように祈って来たの」

 「でももう十分だ。美咲は本当に幸せだった。君のお蔭だよ、ありがとう」

 「ありがとう」


 お二人は泣いておられた。

 お父さんが最近のMRIの画像を見せた。

 

 「君ならばもう分かると思うが、最近腫瘍の拡大が早くなっている。もう美咲は間もなく動けなくなるんだ。だからここで君には君の人生を歩んで欲しい」

 「今まで本当にありがとうね。あなたがいてくれて、美咲はもう十分に幸せに生きられた」


 何が十分なものか。

 美咲はまだ生きている。

 明るく笑って「タカちゃん」と俺を呼んでいる。


 「美咲と結婚させて下さい!」

 「いや、孝道君、だから美咲は……」

 「そうよ、孝道君。孝道君には申し訳ないけど、美咲には孝道君と婚約したことで幸せな中で逝って欲しいだけ」

 「そうなんだ。だから今日は孝道君に話して最期まで……」

 「構いません! 俺は美咲が大好きなんです! 俺の気持ちは全然変わりません! 美咲と結婚したい!」

 「孝道君……」


 ご両親はそれでもうなずいてはくれなかった。

 俺も食い下がり、結婚したいと言い続けた。

 

 「分かった、でもちょっと考えさせてほしい」

 「はい、お願いします!」

 「孝道君、ありがとう」




 

 その後も何度かご両親と話し合い、俺の親も交えて話し合った。

 美咲は抜きで。


 結局俺と美咲は婚約を認められた。

 ただ、1年間の婚約期間を経て、ということになった。

 美咲の脳腫瘍の進行から見て、あと数年はもたないということだった。

 だからどうしても結婚は承諾してもらえなかった。

 美咲の病状の進行を考えてのことだ。

 俺はそれを受け入れるしかなかった。


 美咲には婚約期間でもっと恋人同士らしくなれと言われたと話した。

 美咲は笑って納得した。

 

 「そうだよね、私たちってあんまし恋人らしくないもんね」

 「そうかなぁ」

 「そうだよ! これからは一杯恋人しよう!」

 「そうだな!」


 俺の気持ちは全然変わらない。

 美咲を愛し続けるだけだ。

 夫婦だろうと恋人だろうと、何が違うのか。

 俺は一つだ。

 美咲だけだ。

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