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バンドで紡ぐイロトリドリノ音(Heavenly Light)  作者: 緋色
第4幕 お嬢様ヴァイオリニストの想い
29/32

第29話

そうして、出番が終わり、ミミさんたちのライブも終わった後、

俺たちは各自自由行動として、みんな好きなところへ行くことになった。


俺は後ろにいた父さんと、日和さんに会いに行った。


「ベース、本当にうまかった。それに、いいバンドだな」

父さんが俺のことを褒めてくれる、どこか気恥ずかしい。


「父さんみたいに弾けてるかはわからないけど、とにかく楽しんで弾くことにしてる」


「それでいい、音楽は楽しむものだ。雪兎は私なんかもう超えているよ」

父さんはそう言って少し笑った。


「いいバンドだね、学生の間はやっぱり学生を楽しむべき!後になって後悔しないように」

日和さんもそう言って静かに笑う。


父さんも、日和さんも今日はこのまま帰るようだ。

二人とも忙しいのにわざわざ俺たちを見に来てくれたのだ、その気持ちが嬉しかった。


そして二人と別れた俺は、神宮司さんの元に向かう。


「どうだった?」


持っていたレモンティーを手渡し、俺はそう声をかける。

高槻フェスほどではなかったが、いい演奏は出来たつもりだ。

神宮司さんに何か感じてもらえれば、と思って聴きに来てほしいと誘ったのだが。


「ええ、とても良いものを見せていただきました」

「みんな楽しそうで……、本当に、輝いて見えました」

「……しかし、私はあの中には入れない」


そう言う神宮司さんは、とても寂しそうだった。


「私のヴァイオリンはおじいさまに教えていただきました」

神宮司武士(じんぐうじたけし)、聞いたことはありませんか?私のおじいさまなのですよ」


聞いたことがあった。確か国内でも有数のヴァイオリニストだったはずだ。

テレビでドキュメンタリーなんかも放送されていた気がする。


そして、俺に一枚の写真を手渡してくる。

そこには真ん中でヴァイオリンを持った人物が、みんなで笑いあっている姿が映っていた。

その姿は、心の底からバンドを楽しんでいる気持ちが滲みでていた。


「私は小さいころから、ヴァイオリンの練習をさせられていました」

「おじいさまは練習の際にはにこりともせず……、正直おじいさまも音楽もあまり好きではありませんでした」

「ですが、おじいさまはバンド活動も行っていたようです。残念ながらその姿は見たことはありませんが、とても楽しそうでしょう?」


なるほど、バンドをやりたいと言ってきたのは、おじいさんの影響だったのか。

普段にこりともしないおじいさんが、とびきりの笑顔でやる音楽。それがどういったものなのか経験したかったのかもしれない。


「私はクラシックしか知りません。あの高槻フェスを見たときは衝撃的でした」

「とても上品な音楽とはいえません、ただ、演奏者も観客も一緒になっているような一体感、そして熱」


クラシック……、俺はバンドをやっているが、決してその音楽を不定するつもりはない。

これまでもいろんな人たちに愛され、多くの人たちを魅了するとても素晴らしい音楽だ。


聴くと眠くなるという人なんかもいるが……。

昔、日和さんにコンサートに連れて行ってもらったことがある。


その時、1人の女の子がとてもきれいな音色を奏でていたことを覚えている。

眠くなるどころか、その音色はあまりにもきれいで俺は目を輝かしていた。


神宮司さんにとって、バンドというものは全く未知の音楽だったのだろう。

だが、俺たちの演奏で知ってしまった。決して上品とは言えない、どちらかといえば泥臭い音楽。


それが、多くの観客の心をつかんで離さない。そんな音楽に、神宮司さんは憧れた。

そして、おじいさんが見ていた世界を見たいと思ったのだろう。


「あのエレクトリックヴァイオリンは、おじいさまのものです」

「この写真、おじいさまのこんな笑顔、クラシックを教えてもらっている時には見たことがありません」

「私もバンドをすれば、おじいさまの気持ちを理解できるかもしれない、そう思ってあなた方のバンドに入りたいと思いました。」


だがその結果が、あのスタジオ練習だ。

思い描いていたものとはほど遠い、自分の気持ちが先走り、周りのことが見えず。


更にはバンドなんて初めての経験、どうしていいのかも分からず。

やはり自分にはバンドは出来ないのだと諦めてしまった。


俺は、この子にバンドが楽しいことを伝えたくなってきた。

俺に力があれば、もっとこの子の実力、音楽を生かすこともできるはずだ。


「……なあ、ちょっとだけ時間をくれないか?」


神宮司さんはきょとんとした顔で俺のほうを見る。

この子にバンドの良さを伝えてみせる。俺がそうしたい、……もう決めた。


迷ってる暇なんてない、そうと決まればいろんな曲を聴いてみよう。

そこから、ヴァイオリンが入ったバンドサウンドを生み出せるはずだ。


「わかりました、何があるのかはわかりませんが、お待ちしております」


神宮司さんは少し悲しそうに笑いながら、そう口にするのであった。


そのあと、俺はバンドメンバーの灯火、未来、天音に連絡をいれる。

「神宮司さんとやる!」

「は?」

「えぇ!?わたしがいるのに!?」

「……ふえぇ!」

「あ、いや、じゃなくて!え?」


「ヴァイオリンいれてみる!」

「……」

「まあそういうわけで!」

メッセージは無理やり終わらせた。


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