第2話
朝から全力疾走したので、やや体が疲れてしまったようだ。
急激に眠気が襲ってくる、起きようと抵抗したが、3秒ともたず眠気に屈してしまった。
「ぐぅ、」
――
「ん、んぅ、」
目が覚めたのは昼休みだった、そんなに寝ていたのか。
それより灯火のやつ、起こしてくれてもいいだろうに。
そんな理不尽な怒りを感じていると、クラスメイトの女の子から声をかけられた。
「明日ライブだよね!、楽しみにしてるからっ!!」
確か名前は小林さんだっただろうか。
以前に一度ライブに誘ってみたところ、それ以降かかさずライブに来てくれる。
非常にうれしい、世の中にはモテるためにバンドを始める人もいるくらいだ。
これだけライブに来てくれるということはもしかして、なんて希望をもってもいいのだろうか?
いや、これで期待しても違いましたーというのが怖い、なにしろバンドをしている以外は完全に陰キャモブなのだ。
なんてことを考えていると、灯火がこっちに来るのが見えた。
「ねぇ、大丈夫?昨日あんまり寝られてないんでしょ?」
体調で悪いところは特にない、やや寝不足だっただけだ。
「大丈夫だよ、おかげさまで昼休みまで寝られたしな、ばっちりだ!」
どうやら、この時間まで起こさなかったのは寝不足を心配していたからか。
「ならいいんだけど」
「ありがとな、いつも。本当に助かってる」
素直に感謝を言葉にすると、灯火が目を丸くする。
「……あんたが元気ないと調子狂うのよ」
「え?なんて?」
灯火が何かぼそっと何か言ったように聞こえた。
まあばっちり聞こえていたのだが、どこか気恥ずかしい、気のせいにしておこう。
「それよりも日和さんは明日大丈夫なの?」
「ああ、明日も仕事らしいけどリハには間に合うってさ」
日和さんは俺の叔母さんでバンドのギター担当だ。
社会人でかなり忙しいだろうに、俺たちに合わせて時間を作ってくれている。
ライブをするにもスタジオ代なんかもお金がかかる、これはすべて日和さんが出してくれていた。
本当に頭が上がらない。
灯火とそんなやり取りをしていると、そろそろ昼休みが終わりそうだった。
昼からの授業も寝てしまいそうだったが気合で乗り切った。
が、放課後にももちゃん先生に呼ばれてしまった。
「あのですね、天宮くん」
「今日の授業、ほとんど寝ていたみたいじゃないですか」
ももちゃん先生はぷりぷりと怒っていた。可愛い。
しかし、やってしまったなーと思う。
そりゃあ、あれだけ寝ていたら怒られるよな。
「疲れているのかもしれませんが、学生の本分はやはり勉強です」
「今度からはちゃんと授業を受けてくださいね」
「はい、すみませんでした」
「わかってくれたのならいいのです、もう行ってもいいですよ」
と、ももちゃん先生は柔らかな顔に戻る。
職員室を出ようとしたところでぱっと思いついて、ももちゃん先生のもとにもどる。
「ももちゃん先生、明日の夜って空いてたりしませんか?」
「……ふえっ!」
ももちゃん先生が変な声をあげる。
ふっと、職員室の空気が変わったような気がした。
「あのですね、天宮くん!」
「私たちは教師と生徒という関係で、そういった関係はまだはやいと言いますかなんといいますか!」
「そもそもお付き合いというのはおたがいの意見を尊重したうえでのことといいますか!」
ももちゃん先生が早口でまくし立てる。そんな様子もまたかわいい。
「明日、俺と灯火、あー三澄さんのライブがあるんですけど、来ていただけると嬉しいなーなんて」
まあ、ももちゃん先生は可愛い、もしかするとイケメン彼氏との予定があるかもしれない。
ただ、ライブに来てくれたらうれしいなーと軽く考えてのことだった。
「こほん、そういえば天宮くんはバンドをやっていたんでしたね」
「明日は何もないですし、ぜひ行かせてもらいますよ」
ももちゃん先生は優しくそう言ってくれた。
「じゃあこれチケットです、いきなりだったのにありがとうございます」
「いえいえ、わたし実はライブハウスって行ったことがなくて、楽しみにしてますね!」
なぜか目を輝かせるももちゃん先生が、見えないしっぽを振っているように見えた。
職員室の空気がさらに変わる。
あのやろう、俺たちのももちゃん先生をデートに誘うだと。
独身の男性教師たちから殺意にも似た空気をあびせられる俺なのであった。
ももちゃん先生に謝罪をして職員室を後にすると、今は使われていない空き教室に向かう。
ベースをミニアンプにつなぎ、ヘッドホンをつけて練習を始める。
音楽室は吹奏楽部が使用しており、アンプでガンガン音を鳴らせる場所はない。
こんな時に軽音部がなくなってしまったことが悔やまれてならない。
高校生にもなったので、バイトでもしようか?
せめてスタジオ代くらいは自分で稼がないと駄目な気がする。今度相談してみるとしよう。
「これくらいにしておくか」
思いのほか長い間練習していたようだ。
練習を終えて家へ帰る、外はもう暗く、真ん丸な月が俺を照らしていた。




