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第六話

「俺が、久賀先生を殺したんだ」


 幼馴染から父を殺したと告白された。


「……ついてこい」


 低く、命じるような声。

聞いた事の無い威圧的な声色に体が強張る。

急に真白が成人男性である事を再認識する。

力では敵わない。逃げられないと本能的に感じる。


 私が動けないで居るとふいに、真白の指が私の腕に触れた。

威圧的な声とは裏腹に、指先は震えている。壊れ物に触るように頼りない。

 かつて、父に連れられ診療所に来ていた少年を思い出す。

引っ込み事案で、感情を表に出すのが苦手で、人付き合いが下手なのにそれでも私の遊びにずっと付き合ってくれた。


 そんな優しい幼馴染の面影を宿していた。


「……分かった」


 私は小さな返事と共に、その手をそっと握り返した。真白がわずかに息をのむ気配がする。


「……なんで」

「なんでって、ついて来ない方が良いの?」


 「真白がついて来いって言ったのよ?」言い、顔を覗き込むと視線を逸らし目を伏せた。口は固く結ばれ何かを我慢しているようだった。


 夜風が吹き抜ける。身震いしそうなほど冷たい。つい握る手に力が入る。繋がれた手が少しだけ、熱を帯びた気がした。


―――


 屋敷の奥の座敷へと通される。その部屋は、廊下と一枚の襖で隔てられているだけなのに、まるで外界から切り離されたような静けさがあった。

 日を取り込むための明かり取りは、天井近くに細く開けられているのみ。畳は薄く色が褪せ、踏みしめると乾いた音を立てる。


「暫く、ここに居ろ」


 その言葉は命令というより、どこか懇願に近い。真白の声には怯えが混じっている。


「暫くってどれくらい?」


 私が問いかけると真白はわずかに顔を歪めた。


「……分からない」

「分からないって」

「……とりあえず、今日はここに泊まるんだ…後で、食事と布団を持っていく」


 有無も言わせず、真白は部屋から出て行ってしまった。


(行っちゃった)


 やけに静かに部屋に取り残され立ち尽くす。じっとしていると耳鳴りがしそうな程静かだ。

 部屋を見渡すと戸の内側に鍵の痕を見つける。

いまは外されているが、何かあればすぐにでもこの部屋は座敷牢として機能するのだろう。


(真白はなんでこの部屋へ案内したのだろう)


 私の中で、幼馴染の輪郭があやふやになる。

小さい頃のように、壊れそうな程繊細で臆病な側面もあれば、威圧的で強引な側面も今の真白にはある。知ってる真白と知らない真白。


(私の知らない真白がお父様を殺したのだろうか)


 私の記憶の中では、真白は父を尊敬していた。私が嫉妬するほど、真白は父に引っ付いていた。そんな真白が父を殺すとは考えにくかった。


 真白はいつから変わったのだろう。それとも私が知らなかっただけなのか。

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