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第五話

「この写真を真白に返して欲しい。この写真と“桐沢仁”の名を出せば、門前払いはされんだろう」


 そう言われ、玄慶から預かった幼い真白と背の高い青年二人が写っている一枚の古い写真を受け取った。


―――

 

 玄慶の寺を出発し、蒼崎家の門前に辿り着いた頃。

すでに陽は暮れ、空には薄い月が浮かんでいた。


 黒塗りの門扉は、静かに閉ざされている。

 戸口の叩き木で音を鳴らす。木を打ちつける音が扉の向こうで響いた。

 暫く待っていると、軋むような音を立てて、門がゆっくりと開いた。


 扉の向こうに立っていたのは真白だった。薄藍の着物の袖口に、夕闇が淡く溶け込んでいる。

昨日会った時より、真白は硬い表情でこちらを見ている。


「……また来たのか」

「これを、あなたに返しに来たの」


 震えないように意識しながら写真を差し出す。

真白の視線が、写真を捉えると目が開かれる。


「……どこで、これを」

「玄慶様から」


真白は息を呑むと、写真を私の手から取る。


「帰れ」

「……真白」

「頼む。これ以上、深入りはするな。巻き込まれて欲しくないんだ」


 その声は拒絶ではなかった。彼の中の優しさが、私を遠ざけようとしているのだと感じる。


(ごめんなさい、真白)


 私の胸の中では、父の死で空いた穴がまだ疼いている。


「諦められない。父の死は“ただの事故”なんかじゃない。“桐沢仁”――その人が関わっている気がする。もう少しで、真実に届く気がするの」


 その名前を口にした瞬間だった。真白の顔色が、はっきりと青ざめた。


「……その名前を、もう二度と口にするな」

「真白、教えて。お父様に何が――」

「やめろ!」


 真白は声を荒げた。私が怯んでいると真白はポツリと呟く。


「俺が」


 喉の奥からか細く紡がれる言葉。


「俺が、久賀先生を、お前の父親を殺したんだ」


 感情を押し殺したような声だった。

真白は片手で額を覆い押し黙る。重い沈黙が流れる。


 ーー父の死。桐沢仁という男。そして、真白の過去。


 私の知らない所で、それらは確かに一本の線で繋がっていた。

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